第72話 明かされた真実

邪魔者が居なくなり、やっとヴァイオレットと幸せになれると思っていた殿下だったが、彼女のあまりの我が儘っぷりに、違和感を覚えだした事。


私を隣国に追いやってから、なぜか毎日私の夢を見る様になったらしい。夢の中の私はどこか寂し気で、それでも殿下にほほ笑んでいたとの事。そんな私に触れようとするが、絶対に触れられなかったらしい。


無性に私が気になりだしていたころ、セレーナ達友人が私の国外追放を聞きつけ、急いで帰って来たらしい。


セレーナは私の為に殿下に泣きながら抗議をし、さらに婚約者でもある隣国の王太子殿下に全てを話したらしい。その為、我が国の失態が他国にも一気に広がり、貿易にも多大な影響が出たらしい。


騎士団長を父に持つマリーヌは、すぐに私たちを国外に連れ出した騎士団員たちに聞き込みを行ったらしい。真実を知ったマリーヌは憔悴しきり、父親でもある騎士団長様やアルフレッド様は騎士団を辞めたらしい。彼らが辞めたことで、他の団員も続々と辞め、騎士団は機能しなくなったそうだ。


裁判長を父に持つミシェルは、父親の助けを借り、全貌を明らかにすべく調査を開始したらしい。その結果、私がヴァイオレットを虐めていたことが嘘だと証明された。さらにグレイソン様は、ヴァイオレットに嵌められていたことも判明したのだ。


そして最後は、公爵令嬢のメアリー。彼女は自らの足で貴族の家を回り、殿下が行ったヴァレスティナ公爵家への仕打ちを涙ながらに訴えながら、陛下の国王はく奪と、殿下の廃嫡を訴えて回ったらしい。そしてなんと全貴族の3分の2以上の賛成票を集め、メアリーの気持ちを背負った父親でもある公爵が、陛下を王から引きずりおろし、殿下の廃嫡へと持ち込んだ。


そして悪の根源でもあるヴァイオレットは、裁判にかけられ公開処刑、殿下もこの国の最北の地に幽閉されることが決まったらしい。


ただ、往生際の悪いヴァイオレットとその家族は逃げ出したらしいが、アルフレッド様によってとらえられ、さらにヴァイオレットの処刑も、アルフレッド様自ら行ったとの事。


「ルージュ、君は本当に友人たちに愛されていたのだね。君の無念は、友人たちによって晴らされたのだよ。それから…君は地下牢で“神様はきっとあなた様の行いを見ております。どうかあなた様も、後悔しない日々をお過ごしください”そう言ったよね。神様は本当に僕を見ていて、最後に罰を与えた…いいや、まだ罰は続いているのかもしれない。僕はあの日以降、後悔の日々が続いているよ…あんな女にうつつを抜かしたせいで、僕は大切な人を殺してしまったのだから…」


そう言って力なく笑った殿下。


まさか友人たちが私の無念を晴らすため、必死に動いてくれていただなんて…


「殿下、全てをお話しいただき、ありがとうございます。あの子たちが私の為に…その事を知れただけでも、嬉しく思いますわ」


1度目の生の時、私の友人達にまであの女が酷い事をしていないか、密かに心配していたのだ。それがまさか、彼女たちによって、私の無念が晴らされていただなんて。いつでもどんな時でも、私の味方でいてくれる最高の親友たち。


彼女たちの為にも、今度の生では絶対に幸せになって見せる。そう強く心に誓った。


「ルージュはいつ過去に戻った事に気が付いたのだい?」


ふと殿下が問いかけて来たのだ。


「私は1度目の生で殺された後、10歳に戻っておりましたわ。ちょうどグレイソン様が我が家にやって来る日でした」


「グレイソン殿か…2度目の生では、随分と彼と打ち解けた様だね」


「ええ…最初はグレイソン様のせいで、私と私の両親は殺されたと思っておりました。ただ…1度目の生の時、処刑される寸前のグレイソン様の目を見た時、胸が締め付けられたのです。あの絶望に満ちた目が忘れられなくて…我が家にやって来たグレイソン様も、同じ目をしておりましたわ。それで放っておけなくて…でも、よく考えてみれば、1度目の生の時からもっとグレイソン様に向き合っていれば、あんな女にグレイソン様が騙されることはなかったのかもしれませんね…」



1度目の生の時、今回の様にしっかりグレイソン様にぶつかっていれば、彼は孤独から解放され、ヴァイオレット様に捕まる事もなかったのかもしれない。そう考えると、私にも責任があるのかもしれない。私だって、彼の家族だったのに…


「グレイソン殿は、ヴァイオレットの提案に最後まで拒んでいたらしいよ。大切な家族を巻き込んでしまうかもしれないと。少なくともグレイソン殿にとって、ルージュたち家族は本当に大切な存在だった様だ」


「そうだったのですね…グレイソン様は、私達を巻き込まない様にと考えていてくれていただなんて…」


それなのに私は、心のどこかでグレイソン様のせいで、私たちは殺されたとずっと思っていた。


私は1度目の生の時、グレイソン様との関り方が分からず、結局距離を置くという方法を取ってしまった。それでもグレイソン様は、私たち家族の事を大切に思っていてくれていたのね。


それがなんだか嬉しいわ。




~あとがき~

1度目のグレイソンに関するちょっとした裏話です。興味がない人は、スルーしてもらって大丈夫です。


グレイソンは1度目の生の時、公爵や夫人、ルージュから優しくしてもらった事を、本当に感謝していました。ただ、長年の虐待によって自分の気持ちをうまく表現できなかったグレイソンは、彼らにその気持ちを伝える事が出来なかったのです。


その為ルージュは、自分はグレイソンに嫌われていると思い込み、距離を取っていました。でも実は、自分に優しくしてくれたルージュに恋心を抱いていたのです。ただ、ルージュは12歳でクリストファーと婚約したため、彼女への恋心は心の奥に封印する事にしたのです。


そんな中出会ったのが、ヴァイオレットでした。彼女は持ち前の強引さと、人の話をあまり聞かない性格で、グイグイとグレイソンの心に入り込んできました。そして毎日のように“グレイソン様は素敵ですわ。私、グレイソン様が大好きです”そう言われ続けたのです。


今までここまで愛情表現を示された事がなかったグレイソンは、次第にヴァイオレットに惹かれていきました。その結果…あの悲劇が起きたのです。最後に処刑される寸前、自分のせいで大切な家族に、密かに思いを寄せていたルージュに多大な迷惑をかけてしまった事を、酷く後悔し死んでいきました。


グレイソンはヴァイオレットに裏切られた悲しみよりも、自分を大切にしてくれた家族を裏切ってしまった事への罪悪感から、絶望を感じていたのです。


以上、ちょっとした小話でした。

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