第70話 殿下は何者なの?

「ヴァイオレット様、何を考えているのかしら?毎日毎日、グレイソン様と殿下に絡みまくって」


「2人にだけではないわよ。この前、アルフレッド様にもちょっかいを出していたから、さすがに抗議をしたわ」


はぁっとため息をつきながらそう教えてくれたのは、マリーヌだ。


「私も他の令息にちょっかいを出しているところを、何度も見かけたわよ。ただ皆、彼女の本性を知っているからね…相手にされていないみたい」


「クラスの令嬢たちには無視だものね。令息たちからは引かれ、令嬢たちからは嫌われているのに、全く気にしていないのですもの。あのメンタル、凄すぎるわ」


皆が遠い目で見ている。確かに彼女に勝てる人間なんて、ある意味居ないのかもしれない。あそこまで強烈な性格だったなんて、思わなかったわ。


「そういえばルージュ、あなた今日日直でしょう?放課後先生が職員室に来て欲しいといっていなかった?」


「そうだったわ、すっかり忘れていたわ。すぐに職員室に行かないと。それじゃあ皆、また明日ね」


皆と別れて、急いで職員室へと向かった。


「先生、遅くなってごめんなさい。どの様なご用件でしょうか?」


「ルージュ嬢、よく来てくださいました。この書類を分けるのを手伝って頂きたくて」


にっこり笑って先生が雑務を押し付けてくる。そんなものは自分でやってください!そう言いたいが、この先生はなぜか、生徒たちに色々な経験を積ませたいと言って、ちょっとした雑務を押し付けてくるのだ。


要するに、自分が楽をしたいのだろう。仕方ないので、先生に言われた通り、雑務をこなしていく。


「先生、終わりましたよ」


「助かりました。後はこの壊れた機械を、校舎裏にある倉庫にしまうだけなので、もう帰ってもよろしいですよ」


「この機械を倉庫に運べばいいのですよね。物も小さいですし、私が運びますわ」


「しかし、公爵令嬢のあなたに、その様な事をさせる訳には…」


「散々雑用をさせておいて、今更何をおっしゃっているのですか?重くないですし、大丈夫ですわ。それでは失礼いたします」


機械を抱え、校舎裏にある倉庫を目指す。そういえば校舎裏なんて、ほとんど来た事がなかったわ。こんな風になっているのね。


しばらく進むと、小さな小屋の様なものを見つけた。これが倉庫か。中を開けると、ガラクタがぎっしり詰められていた。きっと要らないものをここに詰め込んでいるのだろう。鍵もかかっていないし…それにしても酷いわね、少しは掃除をしたらいいのに…


薄暗くて気味が悪いわ。さっさとこの機械を置いて帰りましょう。そう思い、倉庫に入った時だった。


バンとドアをしめられたと思ったら、ガチャリという鍵がかかる音が聞こえる。


えっ?


「ちょっと、どうして鍵を掛けられたの?開けて!誰かいないの?」


必死にドアを叩いて訴えるが、返答はない。しまった、やられたわ。きっとあの女の仕業だ。まさかこんな倉庫に閉じ込められるだなんて…


窓もないし、真っ暗で気味が悪い。どうしよう…もうみんな帰っちゃっただろうし、グレイソン様は騎士団に行っている。


そうだわ、馬車で私を待っているアリーが、いつまでたっても帰ってこない私を心配して、探しに来てくれるはずだ。先生も私がこの倉庫に行ったことを知っているし。大丈夫よ、きっと助かるわ。


でも…


こんな薄暗いところにいつまでいないといけないのかしら?私は暗いところが大嫌いなのよ。


「誰か、お願い、助けて!」


必死に助けを求める。


その時だった。


「ルージュ嬢、大丈夫かい?」


この声は…


「クリストファー殿下、お願いです。誰かに閉じ込められてしまって」


「ああ…知っているよ。ヴァイオレット嬢が嬉しそうに校舎裏から走り去る姿を見たから、心配で来てみたんだ。まさかこんなところに閉じ込められているだなんて。それにしてもこれ、倉庫の鍵じゃないな。あの女が自分で用意した南京錠だ。すぐに執事を呼んでくるから、待っていてくれ。僕の執事なら多分、鍵開けが出来るはずだから。すぐに助けられなくてすまない、君は暗いところが苦手なのに…」


そう叫ぶと、殿下の走り去る足音が聞こえた。


どうして私が暗いところが苦手だと知っているの?確かに私は昔、殿下に暗いところが苦手という話をしたことがある。でも、1度目の生の時だ。


やっぱり殿下は、1度目の生の時の記憶があるの?そもそも殿下の行動は、ずっと不可解な事が多かった。私の好きなお料理だけを狙って持ってきてくれたり、好きな花を知っていたり。さりげなく苦手な事から遠ざけてくれたり。


でもそれならどうして、ヴァイオレットの事を毛嫌いしているの?1度目の生の時の記憶があるのなら、今回もヴァイオレットと仲良くなってもいいはずなのに…


分からない、考えれば考えるほど、頭が混乱する。


殿下は一体、何者なのだろう…

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