第49話 友人たちが訪ねて来てくれました

屋敷に着きしばらくすると、アリーが部屋へとやって来た。急に私たちが学院から帰ってきたためか、不安そうな顔をしている。


「実はね、アリーがヴァイオレット嬢の教科書やノートを破り、落書きをしたという疑いを掛けられてね。ただ、すぐに嘘だとわかったのだけれど、それで少し騒ぎになって」


お父様の説明に対し、アリーが大きく目を開け、口元を手で押さえて固まっている。


「あの…私はその様な事は決して…」


「ああ、分かっているよ。ルージュの専属メイドでもある君を陥れようとした事を、学院側も重く受け止めてね。主犯でもあるヴァイオレット嬢とファウスン侯爵は開き直っていたが、令息2人とその家族は深く反省していたから、我が家からは慰謝料請求のみの対応で終わらせるつもりだ。君のいないところで勝手に話しを進めてしまった事は申し訳なく思うが、どうか理解して欲しい」


「私の無罪を晴らしていただけただけで、十分です。旦那様のご決断に従います」


「ありがとう。ちなみに請求した慰謝料は、全額アリーに渡すつもりだ。ファウスン侯爵からは特にふんだくってやるつもりだから、楽しみにしていてくれ」


ニヤリと笑ったお父様。さすがに楽しみにしていてくれは、不謹慎だろう。


「そんな、私は疑いが晴れただけで十分です。お金など…」


「何を言っているの?アリー。あなたが受け取らなかったら、誰が受け取るのよ。大きな顔をして受け取ればいいの。アリー、私がヴァイオレット様に嫌われていたばかりに、あなたにあらぬ疑いが掛けられてしまい、本当にごめんなさい。もう二度とこんな事がおこらない様にするから」


「どうか謝らないで下さい、お嬢様。私には全く被害はありませんでしたし。ただ、お嬢様がそこまでおっしゃってくださるのなら、慰謝料は頂きますわ」


ものすごく恐縮そうにそう答えたアリー。3家族、それも爵位が高い侯爵家から慰謝料を請求するのだ。きっとかなりの額が集まるだろう。そのお金で、男爵家を立て直してくれたらと考えている。ただ…大金が入った事で、アリーがもう働く必要がなくなって、メイドを辞めたりしないかしら?



でもそれならそれで、仕方がない。アリーは男爵令嬢だ、今まで金銭的な問題から、貴族令嬢としての生活が送れなかったのだ。アリーが望むなら、ぜひ貴族令嬢としての生活を楽しんで欲しい。


私はアリーがどんな結論を出そうと、受け入れるつもりだ。


「さあ、話しは終わりだ。私は今から裁判長の家に行って、慰謝料の相場を聞いてくるよ。ただ、全く反省していないファウスン侯爵家には、請求できる最大の金額を請求するつもりだ。それじゃあ、行ってくる」


そう言ってお父様は、ミシェルの家に出掛けて行った。


「さあ、グレイソンもルージュも疲れたでしょう。今日はゆっくり休みなさい。それにしても、ファウスン侯爵があんなにわからずやだとは思わなかったわ。あんな性格だから、娘もひん曲がってしまうのよ。まあ、夫人も似たような性格だけれどね」


お母様もぷんぷん怒っている。


思わぬ形で、貴族学院を休むことになってしまった。さて、今から何をしようかしら?


「ルージュ、せっかくだから、中庭でお茶をしよう。最近学院生活が忙しくて、ゆっくり中庭でお茶をする事がなかっただろう」


「それはいいですわね。ぜひお供いたしますわ」


その後グレイソン様と一緒に、お茶を楽しんだ。そして午後。


「お嬢様、セレーナ様、メアリー様、マリーヌ様、ミシェル様、アルフレッド様がいらしております」


「まあ、皆が来てくれたの?すぐに行くわ」


急いで部屋から出ると、グレイソン様もちょうど部屋から出てきたところだった。2人で急いで客間へと向かう。


「皆、お待たせ。わざわざ来てくれたのね、ありがとう」


「ルージュ、グレイソン様も急に押しかけてごめんなさい。どうしても気になって」


「それであの後、どうなったのだい?先生の話だと、3人が停学3ヶ月になったという事は聞いたけれど、それ以外の事は親同士で話し合ってもらって決まったと言っていたからな。それでもちろん、猛抗議をしたのだろう?」


アルフレッド様が、グレイソン様に問いかけている。さて、何て答えようか、グレイソン様と顔を見合わせた。


「実は我が家からは慰謝料の請求のみで留めるという話でまとまったよ。令息2人は、本当に反省している様だったしね。ただ…」


「ちょっと、慰謝料だけで許しちゃったの?本当にお人好しなのだから。それよりもグレイソン様、ただ…の後が気になるのですが、何かあったのですか?」


「ああ…実はファウスン侯爵が“たかがメイドを陥れただけで騒ぐな、慰謝料を払えばいいのだろう?”みたいな感じで、喧嘩腰で話してきたんだ。その上、ヴァイオレット嬢がルージュに酷い虐めを受けている、こっちが被害者だなんて、言い出して…」


「なるほど、父親も大概クズと言う事ね…」


セレーナがポツリと暴言を吐いている。確かにそうなのだが…


「ルージュの虐めに関しては、義父上がはっきりと抗議をしたよ。多分ないと思うけれど、もしその件で裁判になる様だったら、またミシェル嬢の父上に色々とお願いする事もあるかもしれない。今日も義父上がミシェル嬢の家に、慰謝料の相場を聞きに行っているよ」


「まあ、そうだったのですね。我が家は大歓迎ですわ。そもそも、ルージュがそんな事をするわけがありません。また何か言いがかりをつけてきたら、私がしっかり調べ上げますから、ご安心を」


胸を張るミシェル。ただ、後ろで気まずそうな顔をしている3人の姿が。一体どうしたのだろう。

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