第46話 厳罰を望みます

「ルージュ、とにかく座ろう。大丈夫だよ、君の気持ちを無下にするような事は、絶対に僕がさせないから」


グレイソン様に促され、腰を下ろす。


「先ほど学院長先生を始め、他の先生たちにも映像を見ていただき、今回の経緯をある程度話をしました。今回の主犯は、ヴァイオレット嬢の様ですが、どうしてこのような事をしたのですか?」


皆があの女の方を向いた。するとポロポロと涙を流しながら


「私、実はずっとルージュ様に虐められていて…このままだとルージュ様に殺されてしまうのではないかと考え、自分を守るために行動に移しました」


そう訴えだしたのだ。相変わらずこの女の言う事は、めちゃくちゃだ。私がいつどこで、彼女を虐めたというのだろう…


「ルージュ嬢、ヴァイオレット嬢はそう言っているけれど、彼女の言っている事は本当ですか?」


「私はヴァイオレット様を、虐めた事は一度もありません。そもそも、大切な友人だと思っておりました。でも、まさかこんな酷い事をされるだなんて…正直許せません」


一時は本当にこの女の事を信じ掛けていた。どれだけ私の頭はお花畑だったのだろう。1度目の生の時、あれほどまでに酷い仕打ちをされたのに…


「あら、中庭で私の頬を打ったり、階段から突き落としたりしたではありませんか。他にも、水を掛けられたり、本当に酷い事をされましたわ」


なぜか自信満々に言い切るヴァイオレット。この人はどこからこんな自信が来るのだろう…


「ヴァイオレット嬢、それはいつ行われた事ですか?場所や日時を教えてください」


「日時までは覚えておりませんが、階段は教室のある目の前の階段です。それから、中庭は少し奥にあるベンチが並んでいるところでしたわ」


「ここ1ヶ月の間で行われた事ですか?」


「はい、先週も階段から突き落とされて。それで命の危険を感じましたの」


涙を流しながら、必死に訴えている。


「そうですか。それでは早速監視カメラの映像を分析しましょう。この学院には、あちこちに監視カメラが設置してあるのですよ。もしヴァイオレット嬢の言うことが本当なら、バッチリ映っているはずですよ。その映像が。先生たち、早速解析をお願いします。そうだ、殿下にも協力を依頼しましょう。さすがに我々だけでは、時間がかかりすぎますから」


にっこり笑った先生が、そう言ったのだ。


「ルージュ嬢、よろしいですか?ヴァイオレット嬢も」


「ええ、もちろんですわ。私は何もやましい事をしておりませんので、ぜひ調べて下さい」


はっきりとそう告げた。ただ、あの女はさすがにまずいと思ったのか


「あの…私の勘違いでしたわ。階段から突き落とされたような気がいしていただけです。それに、殴られたのも勘違いだった様な…」


そんな事を言いだしたのだ。


「ヴァイオレット嬢、学院中に監視カメラなんか仕掛けられていませんよ。嘘を付いている者をあぶりだすための虚偽です。あなたはどこまで嘘を重ねれば気が済むのですか?どうしてそんなにルージュ嬢を目の敵にするのですか?入学式の日も、ルージュ嬢に無実の罪を着せようとしましたよね?はっきり言って私たちは、あなたの言う事を信用できないのですよ」


学院長先生が、ヴァイオレットに向かってはっきりと告げた。


「だって…だってルージュ様は、私が欲しいものを何でも持っているのですもの。高貴な身分の友人達、優しい義兄、その上クリストファー殿下にまで気に掛けられていて。どうしてこんな女が、皆からチヤホヤされるのですか?私の方が、ずっと可愛いのに」


ついに本性を現したわね。そう、この女はただ私が気に入らないという理由しかないのだ。気に入らない私を蹴落とすためなら、どんな手も使う。人の命を命とも思わない、最低な女。


「どうしてルージュが、皆からチヤホヤされるかって?それは相手が困っていたら、全力で手を差し伸べてくれるからだよ。僕だって、ルージュにどれほど助けられたか。彼女の友人たちも、ルージュに多かれ少なかれ助けられた子たちばかりだと聞いている。ルージュは自分の事を“お節介”と言っているが、そのお節介にどれほどの人が助けられたか…」


「グレイソン様…」


「ルージュが愛されるのにはちゃんと理由がある。その意味を君は一生分からないだろうね。この際なので、はっきり言わせてもらう。僕の大切な人を傷つける者は、絶対に許さない。君は自分を美しいと思っているのかもしれないが、僕に言わせれば、とても醜い。なぜなら、心が腐っているから。君の様な人間は、逆立ちしてもルージュには敵わないよ!」


グレイソン様がはっきりとそう告げた。その瞳からは、怒りが感じられる。よほどヴァイオレットに怒っているのだろう。そして


「醜い嫉妬心から、我が家の大切なメイドに冤罪を吹きかけた事、僕は絶対に許せません。ヴァイオレット嬢の家ではメイドはただの駒らしいですが、我が家では使用人は皆大切な家族です。家族に冤罪を掛けられたという事は、我がヴァレスティナ公爵家をもバカにしているという事。絶対に許せません。3人の家には、公爵家から正式に抗議を行うとともに、慰謝料を請求いたします」


グレイソン様が、私の言いたい事を全て言ってくれた。なんだかそれが嬉しい。グレイソン様も私と一緒の気持ちでいてくれたのね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る