第10話 僕の新しい家族~グレイソン視点~

「グレイソン、この3年、あの家で酷い目に合っていたそうだな。助けるのが遅くなって、本当にすまなかった。まさかグレイソンが、こんな酷い扱いを受けているだなんて、知らなくて」


なぜか僕に頭を下げる男性。女性も悲しそうにこちらを見つめていた。この人たちは、一体誰なのだろう。


「そうか、グレイソンは私の事を知らないのだな。私はヴァレスティナ公爵家の当主、デルビーだ。君のお父さんとは幼馴染の親友でね。彼が亡くなった時、すぐに君を引き取ればよかったのだが、他人でもある私が口を挟んではいけないと思ったのだよ。でもまさか、こんな酷い扱いを受けていただなんて」


「グレイソン様、お可哀そうに。こんなにお窶れになって。今日からあなたは私達の息子として、公爵家で暮らすことになったのですよ。私達の事は、父と母と思ってくださいね」


「僕が、公爵家で…ごめんなさい」


つい言葉を発してしまった。殴られる!そう思い、目を閉じたが…あれ?殴られないぞ。


「そんなに怯えなくてもいいのだよ。とはいえ、それだけ酷い扱いを受けて来たのだろう。ガブディオン侯爵、あいつだけは絶対に許さない。いつか叩き潰してやる…」


ポツリと恐ろしい事を呟いている男性。やっぱりこの人、怖い人なのかな?


「さあ、屋敷に着いたよ。まずは屋敷を案内したいところだが、私たちの娘に会わせようと思ってね」


男性に誘導され、馬車を降りた。そこには、とても立派なお屋敷が。叔父上の家よりも、ずっと立派だ。今日から僕は、ここで暮らすのか。でも、たとえ立派な屋敷でも、関係ない。僕は薄暗く狭い部屋に閉じ込められるのだから…


とにかくこの人たちには、逆らわないようにしないと。そう思い、彼らに付いていく。すると立派な居間に案内された。美味しそうなお菓子とお茶も出してもらった。これ、食べてもいいのかな?でも、勝手に食べて殴られたら…そんな事を考えていると。


ゆっくりと扉が開いたのだ。そして美しい銀色の髪をした可愛らしい令嬢が、部屋に入って来た。


とにかく挨拶をと思い、恐る恐る挨拶をした。すると、一瞬目を大きく見開いたかと思うと、すっと僕の手を握り、自分の事を妹だと思って欲しいと笑顔で訴えて来たのだ。


さっきまでの少し冷たい視線とは打って変わって、優しい眼差しを向けられた。正直僕は、どうしていいか分からず固まってしまう。さらに何を思ったのか、僕の服をまくり上げたのだ。


そこはダメだ、暴行を受けた時の傷がまだ残っている!でも、僕には抵抗する事なんて出来ない。抵抗すると余計に酷い暴力を受けてきたせいで、体が動かないのだ。


僕の傷を見て、彼女は固まっていたが、すぐに男性が服を戻してくれた。


その後、彼女とは別れ、男性が僕の部屋に案内してくれた。ただ、案内された部屋は、とても立派な部屋だった。昔僕が両親と暮らしていた時と同じくらい、立派な部屋を僕の為に準備してくれたのだ。さらに使用人も付けてくれた。


「あの…僕なんかがこんな立派なお部屋を使わせてもらってもよろしいのですか?」


目を大きく見開き、男性に訴えた。すると、何を思ったのか僕をギュッと抱きしめたのだ。久しぶりに感じる人の温もり。


「当たり前だろう。グレイソンはもう私の息子だ。グレイソン、本当に今まですまなかった。そう簡単には、あいつらから受けた仕打ちを忘れる事は出来ないだろう。でも、少しずつあいつらから受けた傷が癒えてくれるよう、私たちも頑張るから」


よく見ると、男性は泣いている様だ。この人、僕の為に泣いてくれているの?僕なんかの為に…それに、大きくて温かい体。まるで父上に抱きしめられている様だ。


「いいかい、グレイソン。君は今日から公爵令息だ。君にはいずれ、我が公爵家を継いでもらおうと思っている。その為にこれから、しっかり勉強をしてもらうけれどいいかい?もちろん、グレイソンの負担にならない程度にと考えている。それから、私の娘、ルージュだが、娘には公爵家を継がせるつもりはないし、グレイソンと結婚させようとも考えていないから、その点は安心してくれ。ルージュはいずれ、どこかの貴族と結婚して、嫁いでいくと考えてもらっていいから」


「僕が公爵家を?僕なんかが?」


「グレイソン、その”僕なんかが”というのは止めた方がいいよ。君ならきっと、立派な公爵になれる。君の父親の様に」


「僕の父上の様に?」


「ああ、そうだよ。グレイソン、もう何も我慢する必要はない。好きな事を沢山したらいい。分かったね」


好きな事を沢山したらいいか…急にそんな事を言われても…

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