第15話

 十四時十六分 管制室への通路


 爆弾のスイッチを入れたマッカル人はエムの傍まで近づく。服はぼろぼろで、ピクリともしない。

「これで生きていたら化け物だぜ」

 エムの真ん前までくると、一応のとどめを刺す為に銃を構えると、突然エムがひっくり返り銃を撃った。

 マッカル人は腹に二発喰らって倒れる。エムはゆっくり立ち上がり、額に一発、止めを刺す。

「エルフには、この程度では死ねない者もいるのよ」

 服はボロボロ、裂傷で大量に出血し、火傷で皮膚があちこち爛れていた。普通の地球人なら即死だ。しかしながら、同じ地球人でありながら、エルフは不死身な体に出来ていた。見かけ上の特徴は、普通の地球人と全く変わらないのに。

 体中が熱く、そして痛く、麻痺して体の一部が動かなくなっていた。これだけのダメージを負うと動きに影響がでる。このままでは全力で戦えない。

 エムは両手で印を結ぶと、呪文を唱え始める。呪文の詠唱が終わると、エムのケガが急激に回復し始める。

 すぐに自分の体がちゃんと動くか確認し始める。ぐっと痛みが背筋にまだ走る。一回の回復魔法で回復しきらなかったのだ。エムは麻痺が消えた事を確認する。自然治癒力が強力なエルフであっても、すぐには治り切らない、治りかけの傷がまだ疼く。呼吸を無理矢理整える。

 エムは、まだ、体中傷だらけではあったが、全力で戦えるまでには回復したと判断し、戦闘を継続することにする。

 そこでやっと服がボロボロなのに気付く。パンツがショートパンツになっているが、一応大丈夫そうである。しかし上着は、もう用をなさなくなり、大きな乳房が露わになっていた。

 倒したマッカル人の上着を剥ぎ取ると着てみる。横はブカブカだが、丈は全然足りず、お腹は丸出しだった。

 仕方ないのでこれで我慢することにした。

 エムは再び呪文を唱える。すると姿が消えた。術者自身を透明にする魔法だ。

 敵の待ち伏せに対する対策である。再び走り管制室に向かって走り始めた。

 エムは誰の妨害も受けることなく管制室の前に到着した。

「それだー」

 中から大声が聞こえた。

 エムは管制室の扉を開く。中にいたロン達三人は、振り向きざま扉へ向かって銃を構えた。エムは慌てずジッとする。

 三秒ほどシーンと静まり返った。

「誰もいねえ。どうして開いたんだ?」

 敵が扉まで見に来るがエムに気付かなかった。エムはしっかり中の様子を窺う。

「故障かもしれんな」

「そんなことより、リーダー。クティーガルはどうするんで?」

「奴は、宇宙港に被害を出さないように戦っているんだろ。だったら、宇宙港自体が人質みたいなもんじゃねえか」

 ロンはターミナルに放送するマイクにスイッチを入れる。

「そこのクティーガル抵抗を止めろ。でなければ、ターミナルビルを破壊する。たんなる脅しじゃないぞ」

 ハチベイは仕方なく動きを止める。

「やったぜ。正義の味方は辛いねえ」

 ロンが厭味ったらしい口調で言った。

「リーダー。正義は我々でしょう」

 部下たちは、金目当てで今回の騒動を起こしているとは、まったく知らされていない。そのため、自分たちが正義だと信じて疑いもしていない。

「そうだったな」

 パソコンに向かっている仲間に合図をする。すると爆弾の一つが爆発した。

「卑怯だぞ」

 ハチベイはクティーガルのスピーカーを通じて抗議した。しかし、それには無視してドドリアン達は無抵抗なクティーガルに攻撃を仕掛けるが、全くダメージがない。

「俺に任せろ」

 ギャギがタルラントより、奪ったライフルをクティーガルを撃つ。さすがに高火力のライフルで撃たれると、装甲に傷が付く。二発目をクティーガルは避ける。流れ弾がドドリアンの一機に命中し、腕を吹き飛ばした。

「良くもやってくれたな。報いをうけろ」

 ロンがマイクに向かって言った。そして、パソコンを使っている仲間に合図をする。その仲間がパソコンを使ってスイッチを入れようとした、その時銃声がした。

 弾はパソコンを操作している男とパソコンを貫通した。

「何者だ」

 そう言うとロンがエムに向かって機関銃を構える。エムは反射的に扉の位置から横の壁に隠れた。閉じ始める自動ドアに、ロンは機関銃を連射する。すると扉は無残に壊れた。

「隠れていないで出て来い。出て来ないとこうしてやる」

 するとロンは、懐からリモコンスイッチを取りだす。そしてなんの躊躇いもなく押す。

 ターミナルビル内のレストランのレジの横に忘れ物のように設置された爆弾が爆発した。その衝撃は待合ロビーにも響く。そこに集められていた人質達が悲鳴を上げた。

「狼藉三昧もいい加減にしなさい」

 ミーナの声がターミナル内全域に響く。

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