第4話
十三時十五分 待合ロビー
「マチコ」
ナイスミドルの男性と優しそうな女性が呼んだ。二人とも、余所行きのきちんとした服装をしている。マチコの両親だ。
マチコは両親に手を振る。
「それじゃあ、ミーナちゃん。ごきげんよう」
マチコは丁寧にお辞儀をしながら、そう言うとマチコは両親の元へ行く。
「さよならだ」
ミーナは寂しそうにマチコを見送る。
「わらわも父上に会いたいのう」
ミーナがポツリと言った。
「そのミーナ様のお父さんはどこにいるのですか?」
レオポルドが尋ねる。
「もし、そこの人」
広く胸元の開いたドレスを着た美女、クマイアが話しかけた。その為、レオポルドの質問は中断させられる。
「なんですか。お嬢さん」
ステーブが美女に駆け寄り、見えそうで見えない胸元を覗きこむ。
「あなた方は不思議な運命にありますね。今なら無料で占ってあげましょう」
「それは嬉しいねえ。占ってくれよ」
思い切り鼻の下を伸ばしてステーブが言った。
「やめておけ、そんなのインチキに決まっている」と、レオポルドがいった。
「当たるも八卦、はずれるも八卦です。近いうちに二人のエルフの少女が現れます。そしたら、そこの少女に必ず引き合わせるのです」
「エルフの少女ですか?」
「二人は神官エルフです。きっとあなた達の進むべき未来を指し示すでしょう」
「神官エルフだって。地球人の叡智を秘密裏に伝承していると言う神官エルフですか?」
さっきまで無関心だったレオポルドが急に興味を示した。ステーブはそれをウザそうに見る。
「未来の事を知りすぎるとかえって不安になります。近いうちに起こることですから」
そう言うと黒いドレスを着た美女クマイアは立ち去る。
「ああ~。残念」
ステーブは悔しがる。
「神官エルフに早く会いたーい」
レオポルドもステーブもエルフだが、神官エルフには会った事がなかった。神官エルフは神や女神を守護する為に生み出された特殊なエルフであり、知識や戦闘力など、特定の能力を強化されて生み出される。歴史研究家レオポルドにとっては、研究対象であった。
ミーナ達は土産物屋ヤスカロウの前を通り掛る。
ビダン
ミーナは何もないところで転んだ。
「だ、だれじゃ、こんな所に物を置いた奴は」
ミーナの額が真っ赤になっており、打った衝撃の強さを物語っている。
「物を置いたと申されましても、何もありませんが」
レオポルドがクソまじめに言った。
「強いてあげると、タイルとタイルの境目の0.1ミリの段差があるなあ」
ステーブが笑いを堪えながら言った。
「誰じゃ、こんな所にタイルの段差を作ったのは」
ミーナの癇癪にステーブは耐えられず噴き出す。その様子を見てさらにミーナがヒートアップする。
そこにピンクのミニスカートメイド服姿の店員チーデスがやって来た。
「さあ、これでもいかがですか?」
ボーナスがでるメルドネル人用のお菓子を、チーデスはニッコリしながらミーナにさし出す。ミーナは何も考えずに口に運ぶ。
「うまいぞー」
ミーナの雄叫びが宇宙港中に響く。
チーデスは予想外の展開に面白そうに笑う。
「これはあちらで販売しております」
チーデスがもう一人のメイド服姿の店員ピィのいる方を手で指し示す。
「いらっしゃいませ~。土産物屋ヤスカロウです」
ピィは営業スマイルで言った。
ステーブの目が光る。するといつの間にかピィの手を取り、視線を胸元に運ぶ。
ピィはステーブの手をさりげなくはずし、気持ち悪い視線を我慢する。
「地球人用のお菓子も多数取り揃えておりますよ」
ピィは地球人用のお菓子を指差しで教える。
「このお菓子を買おう」
ミーナが言った。
ピィはマニュアル通り、メルドネル人用のお菓子である事を言おうとすると、チーデスは止める。
グー。
ミーナの腹の虫が鳴った。レオポルドもステーブも驚く。
「どんだけ食えば満足するんだ!」
「お腹が減っておるからすぐいただくぞ」
ミーナは包装紙をビリビリ破ると、一気に食べ始める。そしてあっと言う間に全部たいらげる。
「はや」
レオポルドが目を点にして言った。
「そこにあるのを全部くれ」
ミーナが調子に乗って言った。
「ミーナ様、食べすぎは体に毒です」
レオポルドがたしなめる。
「全部ですね」
チーデスはニッコリしながら答える。ピィはステーブの嫌らしい視線に耐えながら、営業スマイルを続ける。
「いいじゃないか。こんな可愛い店員さんが販売しているんだし。全部ちょうだいよ」
ステーブが言った。ステーブは、太っ腹であるところを見せたがっている。
「ありがとうございます」
ピィは営業スマイルを絶やさず言った。バイトの鏡である。
「先ほどの一箱と追加分を加えて、全部で四十九箱。三百九十二バーグです」
レオポルドがジト眼でステーブを見る。
買えない金額ではないが、小さい出費ではない。ミーナが食べたがり、買った物なので、経費で落とせそうだが、もし落とせなかったらちょっと痛い金額だ。
「大丈夫だよ。食費は必要経費だから」
ステーブはそっぽを向きながら言った。
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