【11/07】VS三賢人

 オートマタの一体、一体を銃弾で撃つ。

 すると、撃たれたオートマタはこちらに寝返り、他のオートマタと戦い始めた。

 これが俺の術式──【侵食】の効果だ。


「へぇ、珍しい術式を持ってるんやね」

「うおっ!?」


 銃を構えていた俺に回し蹴りを食らわせてくるコルゴー。

 慌ててそれを回避し、構えていた銃でコルゴーを撃つ。


 コルゴーはそれを両腕で防ぐが……当たった箇所を起点に、腕が黒ずんでいく。

 貫通していないのは、恐らくコルゴーの術式によるものだろう。

 銃を持っている俺に向かってきたということは──硬化を可能にする属性か? 


「おっと、我が弟子に何をしてくれているのかな?」


 エリィが影をしならせる──術式【バスカヴィル】だ。

 その触腕は鋼鉄すら切り裂く斬撃を生み出せる。

 そんなものが直撃して、はたしてコルゴーは無事でいられるのか。


 ザザザザザッ!! 


 ──俺が止める間も無く、【バスカヴィル】の無数の斬撃がコルゴーを襲う。

 しかしコルゴーはあちらこちらに傷が出来たものの、四肢は無事であり、重傷にまで至っていない。やはり、硬化を可能にする属性を持っているようだ。


「やるやん!」


 斬撃によって吹き飛ばされたコルゴー。

 俺たちは一旦、体制を立て直すが続けざまにオートマタたちが襲いかかってくる。


「面倒な連中だね」


【バスカヴィル】の触腕が振るわれる。

 コルゴーとは違い、防御力が足りないのか、金属で生成されているオートマタたちですらバラバラになっていく。

 その攻撃によって、半分近くが破壊された。


「へぇ、手数で攻めてもアカンみたいやね。ほな、これは……どうかな!?」


 コルゴーの手に回転する剣が生成される。

 それは一つ、二つ、三つと増えていく。

 瞬く間に十個ほどになったかと思うと、それは撃ち出された。


「ふん!」


 しかし【バスカヴィル】の触腕はそれを難なく弾いていく。

 コルゴーが手ずから生成しただけあって、切り落としこそ出来ないものの、方向をずらすことぐらいわけないのだ。

 その間に俺は拳銃をリロードすると、コルゴーに向けて撃ち出した。


「ガァッ!?」


 やはり貫通はしないものの黒い亀裂が広がっていく。

 手足や腹部に当たったそれは、それなりに進行したようで、コルゴーはよろよろと膝をついた。


「ちょ、ちょっと待った! 一旦タンマ!」

「へぇ、じゃあ知っていることを洗いざらい吐いてもらおうか」

「クソッ、エルリオ一人相手やったら負けへん自信があったんやけどな。卑怯やろ、二VS一は」


 もはや戦う気力はないのか、はぁ……と嘆息してて地面に仰向けになった。

 たしかに【バスカヴィル】の触腕が有効打にならない体は驚異的だが……。

 俺とは相性が悪かったようだ。


「で、何が聞きたいん?」

「師匠と話してた内容とか、師匠の弟子のこととかかな」

「ああ、エルリオとは若返りの話……それこそ不死の霊薬エリクサーの話をしとったんや。しかしアレはとんだ失敗品でな」

「というと?」

「スワンプマンって知っとるか?」


 聞いた記憶がない。

 俺が小首をかしげると、エリィが自慢げに解説し始めた。


「早い話が自分のコピーがいたとして、それは自身足り得るか……みたいな内容だね」

「そう、不死の霊薬エリクサーは術者の記憶を飲んだ対象に移す事ができる霊薬やねん。でも問題がある」

「…………つまりコピー元から意識が移されるわけでもなんでもないってことか」

「せや。自分の記憶を持った他人が出来るだけ。それやと不死でもなんでもないやろ?」


 へらり、と笑いながらプラプラと右手を振るうコルゴー。

 しかしだとすると、エリィは師匠の記憶をコピーしただけの他人ということか。

 それも、完璧な記憶の複製ではない。とんだ不完全だ。


「だとすると、エリィは師匠の不死の霊薬エリクサーを飲んだってことか」

「覚えがないけれどねぇ。状況からすると、多分そうなんじゃないかな?」

「それともう一つ、ホムンクルスの研究について話しとった」

「ホムンクルス?」


 俺とエリィが眼を見合わせる。

 もちろんホムンクルスについては知っている。

 人造的に人間を作る製法のことだ。一応公国としては禁術の一つなのだが。

 ……それと不死の霊薬エリクサーがどう関係するのだろうか。


「つまりや。自分と全く同じホムンクルスに、自分の不死の霊薬エリクサーを飲ませば、それは自分やとエルリオは語っとったわけや。ウチはそう思わへんけど、興味深い実験や。ある程度研究成果を交換しあっとったんや」

「ふぅむ……」


 こうなると話は変わってくる。

 いままで師匠の元にいたのは、師匠と弟子だったわけだが。

 実際は師匠と弟子とホムンクルスがいたわけだ。


 ……エリィははたしてどっちなのか。

 エリィを見つめていると、エリィは若干恥ずかしそうにしながらこう言った。


「えと、僕は多分ホムンクルスの方だと思うよ? 弟子として育ってきた記憶がないからね」

「なんでそれを黙ってたんだよ」

「確証がないからだよ。悪いがホムンクルスの製造法も、不死の霊薬エリクサーの製造法も知らなかった」

「自己同一性を保つためやね。自分のコピーにコピーと認識させへんほうがより本人らしくなる」


 ふぅん、とエリィが肩をすくめた。

 要はエリィの記憶が若干怪しいのは、よりということか。

 実際にはそのようになってないんだが……なんというか師匠より子供っぽいし。

 これはどういうことなのか。


「そういえば師匠と違って、なんか女子っぽいけどそれはなんでなんだ?」

「そりゃそうやろ。ホムンクルスにだって人格や魂は宿るもんや。記憶がまっさらでも肉体に引っ張られるのはどうしょうもあらへん」

「なるほどね……」


 エリィの謎や正体についてはだいたい把握できたか……? 

 だが肝心の術師狩り、ひいては師匠を殺した犯人がわからない。


「だったら誰が師匠を殺したんだ?」

「おいおい、鈍いな我が弟子は。僕は黙っていたけれど、おおよそ見当がついてたぜ」

「……というと?」

「──僕を殺せるのは、僕の弟子ぐらいしかいないだろ」

「なるほど。掲示板を使うよう言い出したのは」

「いなくなった君の弟弟子を引きずり出すためさ。僕の免許証は無くなってたし、そもそも弟子はインターネットを頻繁に使っていたからね。”縛り”に関してもあいつには無意味だったはずだ」


 俺たちが話していると、コルゴーが立ち上がった。

 俺が撃った手足を外して、新たな金属製の手足を作り出している。


 ……元から義手だったのか。

 亀裂が入った腹部に関してもドンドンと再生しているようだ。


「おっと、まだやるのか?」

「いや、残念やけど勝てへん戦いはせぇへん。また今度にするわ。アンタらもウチに聞くこと無くなったやろ」

「えっと……そうだな。他に知ってることは?」

「あらへんわ。その弟子とやらに会ったこともないしな」


 そう言って、邸宅の奥へと戻っていくコルゴー。

 話は終わったとばかりに手をひらひらと振っていた。


「せや。一つだけ注意しといたるわ。その弟子とやら、かなり強いと思うで。気をつけや」

「言われなくても」


 ……ひとまずこの邸宅で手に入る情報はここまでのようだ。

 コルゴーの気が変わらないうちに帰るとしよう。


 本来なら業務妨害で捕らえるところだが……相手は三賢人だ。

 それなりに権力がある。揉み消されるに決まっているので放置しておくことにした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る