ep.15 盗賊殲滅3

「全機準備完了!」



「よし、パイロットを集めろ!」



パイロット不足を補うため、半数以上の機体に法皇国の兵士を載せている。


法皇国のワイバーンは、何やら特殊な魔法技術を持っていなければ操縦できないらしく、憧れてもなれない層がかなりいたのだ。


そこにワイバーンのような空を飛べる兵科が追加されたため、想定の三倍ぐらいの数が集まった。


そのため当初銃座と魔導無線機(光魔法でモールスを打てる。)は無人にする予定だったが、それは必要なくなった。


二式複戦と二式複襲は法皇国が裏切った場合に備えて今回の出撃は見送る予定であったが、あまりにも人が余ったので勢いで法皇国と満州に貸すことにしてしまった。


そのせいでいくら連合を組んで山に籠城しているとはいえ、たかが盗賊相手に



九九式双発軽爆撃機 8機+司令部偵察機型1機


二式複座戦闘機 4機


二式襲撃機 2機



といった過剰な戦力を投入することになってしまった。もはや満州ぐらいなら一瞬で整地できそうだ。


ちなみに司令部偵察機には参謀長の他に観戦武官としてアレクセイ・プリルコフ少将も乗り込む。



ーーーーーー


神聖ザユルティ法皇国空軍所属ルッツ・ヨーゼフ・ペーター少尉(元々は歩兵)



「本当に操縦できるだろうか…」



二式複座戦闘機に乗り込んだ彼は、人生で数えるほどしか経験したことのない不安だった。


彼は一応学校のpcで動かせるぐらい軽量なオフラインの飛行機ゲームで訓練は受けていたが、実際に飛ばすのは今回が初めてであり、訓練も兼ねての盗賊殲滅である。



「墜落しそうになったらすぐに脱出して良い。人間と違って機体はいくらでも生産できるからな」



教官にはそう言われたものの、一回で墜落させれば法皇国の威厳が傷ついてしまうため、絶対に落としてはならない。



「それにしてもこんなワイバーンに対抗する切り札を他国の兵に使わせるとか、日本は変わった国だなぁ...」



そんなことを考えながらマニュアル通りに機体をチェックしていた。



「第一飛行隊、準備完了次第順次離陸せよ!」



メガホンで指示が入る。


彼の乗る二式複座戦闘機は九九式双発軽爆撃機に先立って盗賊が潜伏している山周辺の制空権を確保する。


盗賊なんかがワイバーンを持っているとは思えないが、第三国経由で入手してないとも限らないからだ。



「ペーター少尉、出ます!」



スロットルレバーを押しこみ、出力を90%ほどにして離陸する。


ここまではゲームどおり。順調に旋回もこなし、数分で作戦空域に到着。


途中、法皇国のワイバーンが遠くにいるのが見えたが、おそらく観戦でもしているのだろう。


ひとまず着いたは良いが、早速届きもしない矢が飛んできている。


無視して後続の爆撃隊に任せても良いが、暇なので少し機体を傾け後部銃座に片付けてもらう。



「よし、今だ!撃て!」



ドドドドン、ドドドドン



耳を塞ぎたくなるような轟音が二回響いた後、盗賊の悲鳴に置き換わった。


20mmが直撃して即死した者はまだマシであったろう。破片が突き刺さりゆっくりと血を流しながら段々と死に近づく者や、もともと味方だった”なにか”の惨状を見て発狂したりする者に比べれば、の話だが。



「うわぁ...これが法皇国に使われなくて本当によかった...」



「それにしてもこれだけで天下統一できそうですな?」



「いや、通常のワイバーンなら勝てるかもしれないがゼイトゥア空中民主教皇国の巨大な船には勝てぬだろう。海に浮かぶ島のようなあれは一艦でワイバーン30騎に匹敵する」



「でもあの国は本当に謎ですよねぇ。強大な力を持っておきながら積極的に侵略するわけでもない。なんなら本国の位置すら明かさない」



「う~む...おとぎ話によれば空に地面を浮かしているらしいが、超巨大ワイバーンかなんかでもあるのかね?」



ーーーーーー


同所 盗賊軍対空バリスタ要員目線



「堕ちろ〜!」



ヒュヒュヒュヒュヒュヒュン!



バリスタは単発ではあるが、複数のバリスタが連続した射撃を交代で行い、弾幕を張る。


これは地上攻撃態勢のワイバーンにとって脅威だが、時速350kmで飛ぶ二式複戦には効果がなかった。


一回だけなんとか主翼に当たったが、弾かれてしまった。



ドドドドドドドン



短い爆裂魔法の音とともにバリスタ陣地は赤く塗装された。



そして盗賊連合本拠地の隠蔽された司令部では...



「我々の直上を我が物顔で飛んでいるあの生物は何だ? なぜ落とせない?」



「バリスタと弓矢で攻撃していますが、あの物体はワイバーンの三倍程度の速度で飛ぶため全く当たりません!」



「ということは虎の子のワイバーンを今出撃させても逃げられるだけということか...」



誰もが絶望に近い感情であった。



ーーーーーー


大日本帝国 校庭



「全機出撃準備完了!」



「よし、出撃開始!」



空母の甲板に並んだ艦載機のようにギュウギュウ詰めに校庭に並んだ九九式双発軽爆撃機と二式複座襲撃機は、整列しながら順番に滑走路へと向かう。



「フラップよし! エレベーターよし! ギアよし! エンジンよし! 離陸だ!」



滑走路から順次離陸。乱気流対策で二分間隔ではあるが10機が離陸していく姿はなんとも言えない力強さがあった。



ーーーーーー


神聖ザユルティ法皇国ワイバーン基地



「皇帝陛下、ゴンドラの発進準備ができました」



「うむ。発進せよ」



神聖ザユルティ法皇国では、好戦的な皇帝のために戦場にいながら安全に指揮できる装甲ゴンドラがあり、4匹のワイバーンで引っ張って飛ぶ。


ちなみにこのゴンドラとワイバーンは空軍ではなく近衛軍所属である。



「ゴンドラ発進!」



合図と共にワイバーンが滑走を開始。


ワイバーンは通常200mぐらいで離陸できるが、今回はゴンドラがあるため1500mほど使ってゆっくりと加速し、離陸した。



15分後...



「こちらは大日本帝国空軍である! 貴官は我が国と神聖ザユルティ法皇国が設けた防空識別圏に侵入している! ただちに南西方面に回頭し、防空識別圏から退去せよ!繰り返す...」



「あ、近衛軍のワイバーン識別マーク(ワイバーンの頭につけられた鎧に刻んである。)とか通達してなかった...」



空軍とは違う制服の近衛軍は他国と勘違いされ、大日本帝国の校庭から新たに発進した二式複座戦闘機二機にスクランブルされていた。


しかも、運悪くスクランブル機は神聖ザユルティ法皇国人ではなく転移してきた日本人が乗っていた。



「まだ指示に従わないか! 警告射撃だ!」



パパパン!



ゴンドラの後ろに張り付いた1番機から放たれた7.7mm曳光弾がゴンドラから3mほどを横切る。



「こちらは神聖ザユルティ法皇国近衛軍! これは皇帝陛下座乗ゴンドラだ! すぐに攻撃をやめろ!」



必死に叫ぶが、質の悪いガラス製のキャノピーを閉めているパイロットには聞こえない。



「まだ回頭しない...もうすぐ領空に入ってしまう...攻撃しよう」



パパパパパパパパン



装甲がある部分は7.7mmでは貫通せず凹んだだけであったが、窓ガラスはいくら魔力強化が施されているとはいえきつかったようで、木っ端微塵に破壊。


その惨状を見た護衛のワイバーンは張り付いた1番機を敵とみなし戦闘を開始。



「よし、背後をとっ...は!?」



ワイバーンではありえないような急降下で振り切ったその瞬間...



パパパパパパパパン!



上空の2番機から7.7mmが放たれワイバーンは血しぶきをあげた。



「これでトドメだ!」



ドドドドドドドン!



20mmの重低音が響き、護衛のワイバーンは騎兵とともに消えていった。



「この野郎!」



機首を下げたままの2番機に向かい、もう一騎のワイバーンが導力火炎弾を放った。


それは運良く2番機の左翼に命中し、魔力強化がされていないエンジン部分が炎上したため2番機は戦線を退避。


これで1対1である。



「やばい!後ろに付かれた!」



練度の低さゆえに性能を覆され、焦った1番機は左右に急旋回をし、導力火炎弾を撃たせまいとしていたその時...



ドーン



ワイバーンが装甲ゴンドラに衝突した。

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