35.再会という名の別れ

 『此処が、果てしなく続く真っ暗な空間か。』

 和人は真っ暗な空間に一人立っていた。獄天隠滅書と弓を持ちながら。

 『あ、もしかしたらこの本を使って現世に行けるかも。これが最後の願い。獄天隠滅書よ、僕を生まれ育った町に飛ばしてくれ!!』

 和人は叫んだ。しかし、辺りはシーンとしており、なにか起こった様子もない。

 『やっぱり無理か・・・。』

 そう思った瞬間和人はいつの間にか見慣れた町にポツンと立っていた。私服を着ており、まるでまだ生きているかのように。

 「嘘、本当に出来てしまった・・・。でも体が消えかかっているという事は魂が完全に抹消されてしまうという事なんだね。」

 町を歩いている人は和人の存在に気づいていない。幽体だからだ。しかし時間はあまり長くない。義両親に逢いに行く為和人は急いで自分の家の前へと走る。

 「運動能力が落ちている・・・。いやあの世界がおかしかっただけか。」

 息を切らしながら走り、自分の家の前に着く。そして恐る恐る庭の方を見るとやせ細った義両親が野菜を植えていた。

 「・・・あの!」

 和人はつい声を出してしまった。伝わる筈がないのに。しかし現実は違った。

 「和人・・・!?和人なのね・・・!!」

 義両親は和人の存在に気づき、一目散に玄関の扉を開け、和人を抱きしめた。幽体である筈なのに義両親は和人に触れる事が出来たのだ。それを感じとった和人はつい泣いてしまった。

 「ごめんなさい。お義父さん、お義母さん!あの時心がおかしかったんだ。その・・・。」

 「いいえ。謝るのは私達の方。あの時止められなかった事をずっと悔やんでいた。でも今こうして逢えた事が嬉しいよ。逢いに来てくれてありがとう。」

 義両親と和人は互いに泣き合い、再会を喜んだ。

 「あれ・・・!その弓って、もしかして瞳の・・・?」

 「そう。実はあの世で瞳お姉ちゃんに逢ったんだ。黒髪ショートだったから仏壇の写真と違って最初は分からなかったけど・・・。でも優しくてとても素敵な人でした。そして、この弓を両親に渡して欲しいと。」

 和人は義両親に弓を渡した。義両親は泣いて喜び、大事そうに抱え込んでいた。

 「・・・。ごめん。実はもうこの世界から消えてしまうんだ。だから最後に言いたい事がある。聞いてくれないかな?」

 「なんでも言って!」

 義両親は泣きながらも、和人に相槌を打った。

 「分かった。今まで虐めを隠して、お義父さん、お義母さんに迷惑をかけてしまってごめんなさい。精神的に追い詰めてしまってごめんなさい。」

 「そんな事言わないで。あのニュースの後、テレビ局側が虐め問題の重要性を世の中に訴えているの。確かに和人のした事を恨んでいる人は沢山いる。でも和人だけじゃない。今虐められている人達は貴方の味方。だから、そんな悲しい顔をしないで。最後くらい笑って!」

 「そうなんだ・・・。僕の為に尽くしてくれてありがとうございます。」

 「いいの。和人は私達にとってかけがえのない家族なのだから。」

 三人は最後にもう一度抱きしめ合い、家族の絆が芽生えた。そして和人はその中で静かに消えていった。

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