第4話 出会い

放課後・・・


 学生がそれを待ち望まない、ということは無いだろう。教室で駄弁るのも良し、部活動に勤しむも良し、速攻帰るも良し、発狂するも良し。どれをとってもその人がしたいことが出来る。とても有意義な時間である。そして勿論、家に帰ってゲームするも良し。


「うーむ」


 薄暗い部屋の中、ゲームモニターを前に難しい顔をするのは我らが主人公、氷戈である。

 力己いさき燈和とうかを含む幼馴染4人が部活動に勤しむ中、氷戈は帰宅部部長兼エースとしての役割を存分に全うしている。


「あああ!出費がぁぁ!」


 どうやらゲーム内の課金アイテムを買うか否かで頭を悩ませていたらしい。

ゲーミングチェアから勢い良く立ち上がり、落ち着くために好物のエナジードリンク「purple」を1口含むと死んだようにベットに倒れ込んだ。


「なんか面白いゲームないかなぁ・・・」


ぼんやりと、独り言のつもりでそう呟やくと先ほどまで向かっていたパソコンから「ピコン」という機械音がした。


「面白いゲーム、の検索結果です」


「ん?ああ、誤作動ね」


 人工検索機能の「NIRA」は氷戈の独り言を誤作動で拾ってしまったらしい。

氷戈は重い体を起こし、「どれどれ」とパソコンを覗き込む。


「今更俺の知らないゲームなんてないっしょ。ん?なんだこれ」


 下に2、3ページスクロールしてから現れたゲームタイトルの広告に目が釘付けになった。そのゲームの名前は「Wisteria Hearts」。調べてみると完全ダイブ型ゲームの第1号として来年にリリースされるという。まさかこんな面白そうなゲームの情報が出ていたとは。


「一生の不覚、っていうやつか。フッ」


 少しカッコつけたのも束の間、このゲームの情報集めにかかる。すると「自分が学校の授業を受けている合間に発表された最新情報であること」や「なんの音沙汰もなくいきなり発表があったこと」、「半年後に先行体験会を開くこと」など様々な情報が出回っていた。ネット上ではこの話で持ち切りで、今日のトレンド1位は固いだろう。


 しかし氷戈の目を1番引いたのはこのゲームを開発したのが「株式会社カナリア」であることだ。カナリアは国内では最大級の薬品会社である。薬品会社がゲームを、それも今まで開発困難とされていたダイブ型のものを開発したというのは充分驚きなのだが氷戈は別の驚きも覚えていた。

 というのもこの「株式会社カナリア」というのは氷戈の父親が勤めている会社なのだ。両親は家に居ないどころか2、3年話していないので何もおかしくはないが、一報くらいあっても良かったのでは?と思ってしまう。

 なんといったって、この無連氷戈は自他ともに認める重度のゲーマーなのだから。


「こりゃ買いだな・・・っと、その前に」


 マウスのカーソルを「先行体験会」のボタンに合わせて手順通りに申し込みを進める。

値段なんて気にする素振りを見せないのがこの男。欲しいもんは何としても手に入れる。お金のことなんて後回しなのである。


 広告に1番見やすいフォントで「製品版価格は500万円を予定!」と書かれてることに気づき、死ぬ気で資金調達を開始するのは少し後の話であった。

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