第4話 女ともだち

「ここに座ってもいい?」

「いいけど。」


 3年生になってクラス替えをし、1週間が過ぎた頃、お昼休みにクラスの中で1人、コンビニで買ってきたパンを食べていると、同じクラスの人が話しかけてきた。


「いつも1人でお昼しているけど、寂しくない?」

「別に。1人の方が楽だし。」

「ちょっと、気を悪くしたらゴメンだけど、ご両親、お亡くなりになったんだよね。」

「ええ。」

「家でも寂しいでしょう。私はいつでも、話し相手になれると思うけど。」

「別に、寂しくはないわ。」

「そんなこと言わないで。」


 おせっかいだと思ったけど、別に、ずけずけとプライベートゾーンに入ってくるわけでもないし、まあ、いいかと思って、気にしないでいた。


 でも、別に損得勘定もないようで、気づくと横にいて、私に、今日あったこととか話て笑いかけてくるという感じで、いつのまにか友達のように、雫、花恋なんて、名前で呼び合う仲になっていった。


「私、中学まで共学で、女子高には本心で言うと、女性ばかりの社会って感じで入りたくなかったんだけど、女子高に入って、良かったこともあるんだ。」

「何なの?」

「まず、昔は、クラスメートの男性の目が気になって、飾ってるというか、本心をだせなかったんだけど、ここでは、自然体でいられるっていうか、周りを気にしなくても過ごせるんだよね。」

「それはあるよね。でも、その分、だらしなくなるっていうか、恥じらいがないというか、そんなことない?」

「それ程でもないんじゃないかな。まあ、食堂でメイクを直したりとか、暑いからって、はだけたりとかはあるけど。」

「そうでしょう。」

「でも、自然体でいられることで、逆に、何が自分で、男性の前でどう変わっているのかはっきり分かったのは良かったと思うの。そうじゃないと、ずっと、飾って、ぎこちない自分が本当の姿だと勘違いしていたというか。」

「そうかもね。でも、私は、男性がいようと、女性の中でも変わらないし。逆に、誰も止めないから女性どおしのいじめとか、嫌らしい部分が目立ってる気もするけど。」

「この学校は、そこまでひどくはないと思うけど、そういうことはあるわね。」

「私が思うのは、男性って、単純というか、バカが多いんじゃない。だから、話していて、くだらない話しとかも笑えるというか、場が盛り上がるよね。でも、女性って、そこまでバカな話しはしないから、心から楽しめないというか、なんかつまらない。」

「そういうところあるよね。なんか、上滑りの会話というか、会話というか、一緒にいることを楽しんでるというか。まあ、雫も、そういう女性との時間も大切にしたほうがいいとは思うけど。」

「放っといてよ。」

「放っとくけど。あはは。」


 花恋とは、ずっといることで、日頃思っていることをいろいろと会話をした。このような付き合いは初めてだったけど、心地は良かった。


 普通だと、両親が亡くなって大変だとか、余計なおせっかいをしてくるのかもしれないけど、花恋は、私が言わないことに、あえて踏み込むことはない。


 だから、心穏やかに花恋の話しは聞いていられる。そうは言っても、ただ頷くだけじゃなくて、ちゃんと自分の気持ちは言う。ただ、私が嫌がるような話題をださないだけ。


 私は、学校ではドライというか、人付き合いが悪い雰囲気で通していたから、花恋とは、学校を出て、多摩川の河川沿いのベンチとかで座りながら話すことが多かったかな。


 花恋と話しながら、目の前で小学校ぐらいの子どもたちが野球をしているのが見える。小学校の野球部で、別の小学校との練習試合かしら。


 野球のルールとかはよく分からないけど、たぶん、メンバーどうしの連携とかが大切なのよね。


 みてると投手の役割は大きいみたい。でも、投手がミスをしても、チームで連携してリカバリーをする。


 これから私が仕事をするようになっても、同じように連携って大切なのかしら。でも、私は、個人で動くのが好きだし、連携は苦手。花恋とは仲良くしてるけど、未だに、その他の学校の人とは話もしないし、話しかけられることもない。


 私って、変わっているというか、人間として何かが欠落しているのかもしれないわね。花恋と一緒に時間を過ごして、少しは普通の人に近づいているのかもしれないけど。


 川沿いの道を2人で夕日を見ながら歩き、家に向かった。その途中で、お母さんの手を離し、走り始めた3歳ぐらいの女の子が目の前でころんだの。私は、起き上がる時に手をかし、お母さんに手渡した。


 女の子は泣いていたけど、なんか、こんな微笑ましい、心静かな時間がずっと続けばなんて思っていた。


 人生の中で、一番、心穏やかに過ごせた時間だったのかもしれない。

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