VRMMOでテイマーになりました
三毛栗
第1話 始めよう、VRMMO!
突然だが皆さんは、ペットを飼っているだろうか。
私、
私がこんなにも強烈にペットへの憧れをもったのは、まだ物心ついたばかりのあの頃だった…。
□◼️□
「わんわんっ」
幼かった私はその時、お母さんと一緒に近くの公園を散歩していた。すると何処からやってきたのか、小さくて可愛い犬が、私の足元にじゃれついてきた。
「コラ!ミルク、止めなさい」
すると、その子の飼い主らしき女性が駆け寄ってきて、その子を叱咤した。先程まで元気に走り回っていたその子はショボンと項垂れて…。
その時の、尻尾の下がり具合、耳の畳み具合、悲しそうなその姿、駆け回っていた時とその様子のギャップが…私の、超絶ドストライクゾーンにピッタリと嵌まってしまって…。
「かわいいいぃぃぃぃぃぃぃぃ…………………」
確かにあの時、私は猛烈にペットという存在に憧れたのだ。
□◼️□
…え?思ったよりありきたりだったって?
うん、私もそう思う。でも、出会いってそんなもんなんだよ。好きって気持ちは止められない…のに、なぜか両親はペットを許可しないのです。許せないでしょ?
両親が言うには、夢中になりすぎて、何よりも優先しすぎて、自分のことすらも疎かにしそうだから。と言うことらしい。あと、ペットというのは大体飼い主よりも先に天寿を全うしてしまうもので、そうなったら一緒に死ぬとか言い出しかねないから…らしい。
どちらも、否定しきれないのが悔しい。多分1番の理由は、後者なんだけど。でも、大好きな存在が居なくなってしまったら、生きている意味なくない?ないよね?
けど今日、そんな両親から1つ提案をされた。
何でも、もうすぐお母さんがデザインしたキャラクターが出てくるゲームが発売されるらしく、そのゲームにテイマーという生き物を従え共に冒険が出来る職業があるらしい。
勿論今までだって、ゲーム内だけでも死なないペットを作ろうとチャレンジしたことはあった。けれど、最初は熱中しても段々と冷めてくる。だって、ずっとずっと穴が開くほど見つめて、行動を覚えて、そしたら嫌でも分かるでしょ?やっぱりこれは、プログラムだって。最初から分かっていても、自覚するのはまた別物なんだよ。
ちょっと違う理由で、ロボットAIも受け付けなかった。違和感を感じる。温もりが、ない。私はペットに、生命を求めていたんだ。明確に感じる、確かな温もりを、鼓動を。錯覚じゃない、本物を。…いや、錯覚でもいい。本気で錯覚できるようなものでも良いから共に居たかった。
だから今回も、断ろうと思っていた。空しいだけだから、と。けど、違った。両親が話した内容は、思わず耳を疑ってしまうようなものばかりだったのだ。
最新のVRMMO、《FANTASY PARADISE》。略してFP。現実と寸分の違いもない感覚が味わえ、もう1つの世界を体感できるらしい。
これだけでも信じられないような話。それこそ、どこかの小説や漫画のような技術。けれど、キャラクター製作に携わった者として実際にそれを体感したお母さんは、これを嘘ではないと熱弁した。
そして、これが1番信じられない話。なんとゲーム内に出てくるキャラクターそれぞれに、全く違った役割を与えた高性能AIが組み込まれているらしい。
…何が言いたいかと言うと、この世界に出てくるキャラクター1人1人が、明確な個性、意思をもって生きている。つまり私の理想、本物のような錯覚を味わえる、らしい。
正直、期待はしていない。けど、今までだってそうだった。何度も試して、何度も挫けて。1回は断ろうともしたけど、こんなに説得されてやらないなんて選択肢はない。それに、ここで止めたらペットを求め続ける私らしくない気もする。
と、いうわけで今、私の目の前には大きな楕円形のカプセルが1つ。近未来感満載の白と黒の無機質な色合いに、時々青い電子的な光がキラリ。機械音みたいなのもする。
カッコいい。もう、ゲーム関係なくインテリアとして置いておきたいくらいカッコいい。そして、高そう。いくらしたんだろう。
…うん。細かいことは、気にしない!設定とかはやってあるらしいし、早速ゲームをプレイしてみようかな?
どうやって入んのかな、これ。切れ目みたいなのに手を突っ込んでみる?
「えいっ!って、うわっ」
開いた…?手をかざすだけでよかったのかな?
『人物の照合が完了しました。これより詳細な身体情報を読み取ります。シートに横になり、60秒間目を瞑ってください』
なるほど。手をかざすというか、その前からカメラで私のこと確認してたってことかな。っと、シートに寝なきゃなんだった。あ、フワフワだ。ずっと寝てたい感じのやつだ。いいの?目閉じたら寝るよ?
…寝るとは言ったけど、寝れないもんだな~。今、この機械何してるんだろう。
………。
『身体情報の読み取りが完了しました。全ての機体設定が終了しました。機能を使用されますか?』
あ、終わったんだ。
「えっと、使用します」
『医療、観光、娯楽、の機能がインストールされています。どの機能を使用されますか?』
「娯楽、かな?」
『娯楽が選択されました。1件のヒット。《FANTASY PARADISE》を起動しますか?』
「それです。お願いします!」
『承認されました。これより、《FANTASY PARADISE》の起動を開始します』
思ったよりあっさりして…るな……ぁ…?……
『それでは、いってらっしゃい』
□◼️□
「…ん?」
あれ、私何してたんだっけ。
『ようこそ、旅人よ。私は案内妖精です』
「あ、はい」
…そうだ、ゲームだ。何かフワッと意識が遠のいて、気が付いたらここにいて。目の前には、小さな妖精が1人。とても可愛い。この子がペットでもなんの問題もないな。
「突然で申し訳ないのですが、私のペットになりませんか?」
『…はい?』
「変なことを言い出してすみません。けど、これは私にとってとても重要な事なんです」
『えっと、あの、ちょっと待ってください。一旦情報を整理するので』
「大丈夫ですよ。良い返事を期待しています」
『あ、はい…』
いけないいけない、いきなり本題に入ってしまった。だってこの子、あまりにも可愛いんだもん。手のひらくらいの背丈に、華奢な身体。ガラス細工のように繊細な羽と身体より長い金色の髪。肌は真っ白で、顔はとびきりの美少女で。瞳は海の色で…本当に可愛い。ペットにして、デロッデロに甘やかして可愛がりたい。愛したい。お世話したい。一緒にいたい。
『あの…ですね、そんなことを言われましても、私には職務というものがありまして、ですね?なので、一緒にいたいとか言われても、その、困るというか…上に話を通すのも非常に面倒でして、その…』
…?
「あれ、声に出してました?いつから?」
『え?いつからというか、ずっとですけど…』
「マジですか。まあ、伝えたいことだったから良いんですけど。所で、その面倒だからというのは、貴女自身はそこまで嫌がっていないと取っても良い言葉ですか?」
『あ、いや、その…。案内精霊になってからこのように誘われたのは始めてで。その、ペット、というのは愛玩動物のことを指すと取ってもよろしいですか?』
「ああ、私的にはちょっと違うんですよね。愛でるべき存在というか、家族というか、恋人というか、片割れというか…とにかく、全てを越えた特別なものですね」
『な、なるほど…。何だか凄いですね。私の認識とは違います』
「よく言われます。それで妖精さん、答えは出ましたか?」
『妖精さんって…。…そう言えば私名乗っていませんね。これまでの旅人にも名乗ってこなかったような気がします。…まあ、良いです。貴女には名乗っておきましょう。私の名はA-613。お見知りおきを』
A-613…あ、ろ…いや、61だからりかな?となると、ありさ?いやでもな。やっぱりここまで来たらこっちの方が良いよね~。
「よろしくお願いします、A-613さん。所で質問なんですが、アリスと呼んでも良いですか?」
『アリス、ですか…?別に構いませんよ』
「ではアリス、そろそろ答えは出ましたか?」
『…少々お待ち頂いても構いませんか?少し上と相談してきますので』
「ええ、いくらでも待ちますとも。是非、私のペットになって欲しいですから。けれど、よく考えてから決めてくださいね?同意の伴わない一方的な感情ほど寂しいものはありませんから」
『分かっていますよ』
ああ、アリスが行ってしまった。飛ぶ姿が可愛い。物凄く可愛い。
ーー30分後
『ただいま帰りました。遅くなってしまい申し訳ありません。上もこういった事例は初めてらしく、何やら慌てておりまして。最終的には私の意思で、ということで話がつきました』
「そうですか。全く構いませんよ。ではアリス、改めて。私のペットになりましょう?甘やかします、愛します、側にいます、一緒に人生を歩みましょう」
『…1つ、質問よろしいですか?』
「1つと言わず、いくつでも」
『ありがとうございます。それではお聞きしますね。…何故、私なのでしょうか』
「?何故、とは」
『私はあなたがこの世界に降り立って始めて出会った生命体で、妖精です。別に、私でなくてもよかったのではないでしょうか。ここにいてあなたに話し掛けた妖精なら、誰でもよかったのではないでしょうか。そう、先程から考えてしまうのです。私は一体、どうしてしまったのでしょうか』
ああ、なんだそんなことか。深刻な顔で言うから、何を言い出すかと思ったのに。
「何を言っているんですか。アリスじゃなければいけないに決まっています。私が一目見て欲しくなってしまった、好きになってしまったのは他でもないアリス自身なんですから。それにこう見えて私、人を見る目はあるんですよ?あ、アリスは妖精ですけど」
妖精なら誰でも良いとかじゃない。だって、その妖精それぞれに個性がある筈だから。そして、その中でも私は、目の前にふわりと現れたアリスをペットにしたいと思った。まあ、他でもこの衝動が起きなかったという確証はないけど、アリスを選んだのは紛れもない事実だし。可能性の話なんてし出したらきりがないからね。
『そう、ですか。そう…ですよね』
「はい、そうです」
え、可愛い。納得したような表情が突き刺さる。何、その微笑み。人を殺せるよ。
『…はい。私の意思は決まりました』
「本当ですか?良い返事を期待しています」
『ならご期待に沿えますね。私は、あなたのペットになることにしました』
…ふぁえ?
「ほ、本当に!?本当に本当ですよね!?」
『勿論、二言はありません』
そんな、そんな…そんなことって…!!!
「…嬉しい、嬉しい嬉しい嬉しい!!!ありがとう!アリス!」
『わっ!急に抱き締めないでください。痛…くはないですね』
「ふふ、私は何があってもペットは傷つけないと決めているんだよ」
『フフフ、見ていたら分かりますよ』
「今日が私の人生最高の日かもしれない…」
『そんなにですか?』
「うん。だって、夢が叶っちゃったんだよ?凄いことだよ!」
『…そう言って貰えて、とても嬉しいです。私も、あなたのような方のペットになれてよかった』
「こちらこそ、ペットになってくれてありがとう。その分、たくさんたくさん愛してあげるからね」
『程々で良いですよ』
「いや、私の愛は重いからね。しーっかり、受け止めてよ?」
『程度によります』
「ははっ、アリスらしいなぁ。そういう所も最高にキュート!所で、何だかんださっきから敬語を外しちゃってるんだけど、良いよね?」
『勿論です。所で、私もう1つあなたに質問があるんです』
「何~?」
『お名前を、知りたいなと』
…あ。
「そっか!?そうだね、私教えてない!私は、藤川 麗だよ。藤の花に川、麗しいで藤川 麗!麗って呼んで!」
『承知しました、麗様』
「堅いなぁ。ま、いっか!じゃあ、改めてよろしくね、アリス!」
『はい、よろしくお願いします。麗様』
こうして私は、アリスをペットにすることに成功した。最高のスタートをきった私のVRMMO人生。
これから、どんなことが起こるのだろう。けど、この子とだったら何だって楽しくやっていける。私はそのとき確かに、そんな確信を覚えた。
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