第3話 シルキドとの出会い



一人で旅をつづけたワルドは、数日かけてノーズ山の麓にあるノーズ村に到着する。そこはドワーフの住む村で、ノーズの山から掘り出される炭鉱産業で栄えていた。

「王都ネックはここから南にフィルトゥラム大通りを通っていくのが正しい道だけど、ディミウスはなんでノーズ山のダンジョンを通り抜けろなんていったんだろ」

疑問におもったワルドは、宿のおかみさんにダンジョンのことを聞いてみた。

「ノーズダンジョン?あそこはダメだよ。昔は貴重な金属や石炭が取れるからって、鉱山夫や冒険者に人気の場所だったけど、今じゃすっかりすたれてしまってね」

「なんでですか?」

ワルドがきくと、女将はため息をついた。

「なんでも、その奥に伝説の剣の材料になる鉱石が眠っているという噂が広まってね。一時期は冒険者が殺到したてんだけど、彼らが奥に入り込みすぎたせいで、ズルリンという厄介なモンスターが出てきたんだよ。強くはないけど、迷惑な奴でね」

そのモンスターの特徴をあげる。

「そんなわけで、今じゃ鉱山夫どころか冒険者たちも近寄らないよ。まして通り抜けるなんて無理だね」

それを聞いて、ワルドはダンジョンに行く気が失せた。弟の言ったことが気になるが、自分ひとりで危険なダンジョンに行く気にはなれない。

「やめた。時間はかかるけど、大通りを通っていこう」

村を出たワルドは、無難に大通りを通って王都に向かうことにする。

しかし、その途中で足止めをくらってしまった。

「道が魔物でふさがれた?」

「ええ。突然巨大なダンジョン『オーラルダンジョン』の中から魔物がわんさか出てきて周囲の村を襲いました。この先に行くのは危険です」

王国の兵士はそういって、大通りを封鎖する。

「……困ったな。仕方ない。ディミウスのいう通り、ノースの山のダンジョンに行ってみるか」

こうして、ワルドはノーズダンジョンに向かうのだった。


一度ノーズ村に戻り、必要な装備をそろえたワルドはノーズダンジョンへと向かう。

そこには、ゼリー状の形状が定まらない魔物が大量にうごめいていた。

「ええと……こいつらが最弱モンスターのズルリンだったよな。たしか核をつけば倒せるんだけど、攻撃したらなんでも溶かす強い酸を出して剣や防具を痛めるから、冒険者に嫌われたらしい」

ノーズ村の宿屋で聞いた情報を元に、ワルドはどう戦うかを考え込む。

「よし。なら最初から武器を使い捨てする前提で使おう。『亜空間格納庫』」

ワルドは、『空』の属性の魔法で亜空間に通じる穴を開き、この旅にそなえてディミウスが作ってくれた大量の木製の槍を取り出す。

「えいっ!」

ワルドが槍を繰り出すと、簡単にズルリンの体を貫いて核を破壊した。同時に木の槍も溶けていく。

「やった。初めて魔物を倒した!」

魔物の持つ魔力がワルドの体に入っていく。

「経験値を獲得、レベル2に上がりました」

ワルドの脳内に、何者かの声が響き、新たな力が体に満ちていく。

「面白い。これがレベルアップというやつか。どうせなら魔法学園に行く前に、ここでレベルを上げていこう」

調子に乗ったワルドは、ズルリンを倒しながら奥へと入っていくのだった。


奥に入り込んだところで、ワルドは奇妙なものを見かける。

「なんだろ。黄色のズルリンが集まっている」

たくさんのズルリンが何かにたかっている。よく見ると、白い肌をしたドワーフの少女だった。

「まずい!助けないと。でも、どうしたら……」

手をだしたら大量のズルリンにたかられ、溶かされてしまうかもしれない。

焦るワルドだったが、ディミウスが言ったことを思い出した。

「そういえば、薬が役に立つっていってたな。よし」

亜空間に手をいけて、ディミウスが持たせてくれた聖水を取り出す。

黄色のズルリンに振りかけると、一斉に逃げていった。

「大丈夫……ですか?うっ」

助けようとかけよったワルドは、その少女の美しさに絶句する。小さな体に茶色の髪、整った顔立ちに真っ白い肌のその美少女は、きている服がポロポロになったきわどい姿で倒れていた。

「生きている……のか?」

駆け寄って口元に手を当ててみると、なんとか息はある。しかし、苦しそうに全身が痙攣していた。

「まずいな。毒か?いや、たしか毒消し薬もあったよな」

亜空間から薬を取り出して飲ませようとするが、飲む力も残ってないのか口を開かない。

「仕方がない……」

ワルドは毒消し薬を口に含むと、倒れている美少女に顔を近づけた。

「……んっ……」

倒れていた美少女が目を開けると、知らない男がのしかかっていて、キスをしていた

「きゃーーーーー!変態!」

思い切り強い力でビンタする。

「何するんだ。俺は君を助けようとしただけで……」

ワルドが弁解すると、美少女はハッとなった。

「あ、あれ?、そ、そういえば、私はこのダンジョンを通り抜ける途中でアシッドズルリンにつかまっちゃって……もう死んだかと……」

そこまで言ったところで、自分の来ている服がポロポロになっていることに気づく。

「いゃぁぁぁぁぁぁ!」

その場にしゃがみこんで泣きじゃくる。ワルドはどう慰めていいかわからず、おろおろするのだった。


数分後

亜空間格納庫から取り出したポーションを与えると、少女はやっと泣き止んだ。

「……落ち着いた?」

「うん……助けてくれてありがとう」

そういって殊勝に頭を下げてくる。

「僕はワルド。ここへは王都に行く途中に通りかかったんだ。君は?」

「シルキド・ノーズ。私も王都に行くつもりでこのダンジョンに入ったの」

「そうか……考えることは皆同じなんだな」

ワルドはそういうと、空間魔法を使って亜空間格納庫からお茶を取り出す。

「どうぞ。熱いから気をつけて」

「ありがとう……って、その魔法はなに?見たことないんだけど」

空間からモノを取り出すワルドの魔法を見て、シルキドは首をかしげる。

「これが俺が女神ロース様から授かった力さ。『空』属性っていうらしいよ」

「『空』属性?聞いたことないわね。あなた、どこの貴族家の者なの?」

美少女のワルドを見る目が、不審なものに変わる。

「……僕はまだ貴族じゃないよ。平民なんだ」

「平民?」

それを聞いたとたん、シルキドはすっくと立ちあがり、ワルドを睨みつけた。

「魔法が使えない平民の分際で、こんな危険なダンジョンに入ってくるなんて、どういうつもり?すぐに出ていきなさい」

「えーっと。僕も入りたくなかったけど、どうしても王都の魔法学園に行かなきゃならないんだ」

ワルドは、女神ロースから新属性である「空」の魔法を与えられたので、魔法学園に入学しなければならなくなった事情を話した。シルキドもそれを聞いて納得する。

「そう。新属性の魔法なら、まだ貴族に任じられてなくても当然ね。あんたの事情はわかったわ。なら一緒に行きましょう」

手をさし伸ばしてきた拍子に服が崩れ落ちたので、ワルドは慌てて目をそらした。

「どうしたの?」

「いや……君の服が……」

そう指摘されて、シルキドは今の自分の恰好に気づく。

「いや―――――!」

再び洞窟内に、ビンタの音が鳴り響くのだった。

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