第5話 謎の女 後半

 突風が引いて、メシアが姿を見せたが雰囲気がガラッと変わった。


ツインテールを下したピンク色の髪は、お尻にかかる位長い。先程とは違い、全体的に大人びた見た目になっていて一瞬別人だと見間違えそうになる程だ。唇は、マット系のリップを塗ったかの様な色合いになっていて、目元は若干ではあるがタレ目からツリ目寄りになっている。

そよ風が、静かにメシアの長い髪をなびかせる。


「どう? 大人びたでしょ? これでも、中坊って言う? もうちょっと、おっぱい大きかったら良かったんだけどね。」


服の中を、覗き込みながら胸元を見て嘆くメシア。


「可愛い系と綺麗系、どっちも似合うのかよ・・・」


「そうだよ。顔もスタイルもモデル級だよ。」


良い物を見せてあげるって・・・ 全体的に雰囲気が変わっただけじゃないか・・・ せいそうって小声で呟いていたけど、綺麗な格好して俺を油断させる為の秘策なのか・・・


誠司が警戒しながらメシアの爪を見て見ると、先程まで塗られていなかったネイルが塗られていた。指ごとに、違う種類のネイルが塗られていてどれも可愛らしい。


「あ、気になった? ネイルに気付くなんて嬉しいね。誠司君、モテルでしょ?」


「女の子はね、ロングからショートにした時の大きな変化より、ネイルやメイクとかの小さな変化に気付いてくれた時の方が嬉しいんだよ。それが出来る男ってさ、意外に少ないんだよね。」


「覚えておいて。私がこの姿を見せる時は、3つの理由から。1つ、命が奪われそうになった時。2つ、好きな人に自分の全てをさらけ出す時。3つ、好きになった人を殺す時さ。」


「それって、つまり・・・」


「そういう事だよ。」


メシアが、右手の人差しの爪を伸ばして切り離す。人差し指に塗っている、茶色とクリーム色のチェックのネイルが具現化して箱の形となった。


ネイルで出来た箱型の爪を見渡していると、地面から小指の爪が現れていた。


「怖・・・。」


「メインは、こっち。」


小指には、キラキラ光っているラメが入った赤いネイル。ラメが具現化すると、箱の中で浮かんだ。


次の瞬間、小さな針の様になって大量のラメが誠司を襲う。誠司は、身構える暇もなく体中傷だらけとなる。


「はぁ~~~はぁ~~~ どうなっているんだ・・・。」


「キャァァァァァァ!!! 私の可愛いネイルで、誠司君が血だらけになってくれてる!!!」


「あんまり、地面に落とさないでね。血が乾く前に飲むんだから。」


なんだ、この技は・・・ さっきまでの技や戦い方とは全く違うし、威力も桁違いに上がっている。


体中激痛でうずくまっている誠司が、振り絞ってメシアに問いかける。


「君は・・・ なにが・・・ したいんだ・・・。」


「んー、なんだろうね。深く考えたこと無かったけど、自分の楽しみと快楽の為かな。」


「仲間から、ラブホの事件を聞いた。あれは、もしかして君の仕業か?」


「ラブホ? あー、この爪で頭ぶち抜いていたら私だね。」


「それも、自分の楽しみと快楽のためか?」


「それ以外に何かある? くずを殺してなにが悪いのさ。世のため人のための世直しだよ、世直し。」


「ダークヒーローを気取ってるつもりかよ。君がやっている事は、ただの人殺しだ!!!」


誠司は、大怪我をしながらも声を振り絞るが、その言葉でメシアの怒りをかってしまう。


「今日会ったばかりの誠司君に、何が分かるの? さっきも言ったけど、私は無駄な殺しはしない。なぜなら、無駄に殺したらその分の依頼者やターゲットが減るから。」


「意味が分からない・・・」


「そのまんまの意味だよ。私は、依頼者に頼まれてターゲットを殺す。まるで、その人のヒーローになったようにね。対象は、不倫や浮気をしている人、犯罪者がメインね。一番多いのは、主婦層やメンヘラな女の子が依頼して来るんだけど、女の嫉妬や憎悪は怖いねぇ。」


「私の殺し方は、快楽と同時に地獄へ落とすのさ。この瞬間が、たまらないのよ。」


「現場が自宅やホテルが多いって事は、つまり・・・。」


「そうだよ。性行為だよ。人間が快楽を最高に感じる瞬間は、男女の性器同士が中で激しく絡み合っている瞬間だ。快楽が最高潮に達した瞬間、ターゲットの男と一緒にいた女の頭をこの爪で串刺しってことさ。特に、パートナーに隠れながらする性行為は、快楽とスリルが同時に味わえる。それが一瞬で、崩れ去ったらどうだ。快楽を味わったままこの世を去るって、本当に天国から地獄へ行くみたいだろう。殺した瞬間、絶望していた依頼者は報われ地獄から天国へ、ターゲットと一緒にいた奴は天国から地獄へ落ちるのさ。私は、この瞬間が気持ち良くてたまらない。」


メシアは、不気味な笑顔で嬉しそうに語りながら自分の全てをさらけ出している。


「まじで、狂ってる・・・ そんなの世直しとは言わないし、ヒーローなんかじゃない。」


誠司の所までメシアが飛んで来ると、誠司の顎を触りながら囁く。


「まぁ、依頼者にとって私は正義のヒーローじゃないかな。」


「あのね誠司君。正義と悪は紙一重なんだよ。

この2つは、混ざり合って出来ているから成り立っているのさ。多数の言う正義が少数にとっては悪となる。逆に、多数の言う悪が少数にとっては正義となる。世は、私がやっていることも世間一般がやっている事も、正義と悪の両方になるってこと。」


「本当の悪は、国を滅ぼす程の独裁者や兵器の事を言うのさ。世間の言う正義感で、私の善し悪しを決めるんじゃねぇよ。」


メシアは、誠司に顔を近づかせると、鋭い目つきで誠司を睨んだ。


右手の小指に付いてるネイルのビーズが、小さく具現化する。


「むかついたからお仕置き。」


「ビーズショック。」


ビーズが爆発すると、誠司は再び吹き飛ばされた。


誠司は、もう戦える状態ではない。あばら骨は、いくつも折れ出血の量も酷い。おまけに、何度も頭を打っている。


「もう、ピクリとも動きそうにないなーーー。」


「名残惜しいけど、そろそろ終わりにしちゃおうか。」


メシアは、誠司に満足したのかトドメを刺そうとする。


「カゴ爪」


両手の爪を伸ばしながら、大きく広げて切り離す。切り離した爪は、鳥かごの様な形となり徐々に狭まって来ている。


誠司を、このままバラバラ死体にするだろう。もう、抵抗する体力も気力も誠司には残っていない。息を吸うのがやっとだ。


「バイバイ。誠司君。」





 「呪い・・・ がま」

突如、耳に入って来た一言でメシアの胸元に切り傷が入り体制を崩してしまう。それと同時に、カゴ爪も消滅してしまう。


辺りを見渡して見ると、奥から美月と流馬が現れていた。


流馬は、潰された喉で必死に声を出したがこれが限界だったらしく、口から大量の血を吐いてしまう。


「流馬さん、もう限界だよ・・・。」


「そうだよ。もう寝てなさい。後は、お姉さん達がどうかするから。」


誠司のすぐ近くには、美来が拳銃を持ちながら立っている。


メシアは、流馬の技だと分かると、すぐさま流馬にトドメを刺そうと走り出そうとする。しかし、それを達滉が阻止しようと現れ、日本刀を抜いて剣術でメシアに斬りかかる。


「星光一刀流 参の型 炎炎暫」


日本刀を地面に付けて走り出すと、勢いと摩擦で火花が飛び散る。火花と共に、日本刀を持ち上げて風の斬撃を起こす。鋭い風の斬撃に先程の火花が加わる事で、激しく燃える炎の斬撃となってメシアを襲う。


早い・・・ この剣士、認知はしていたけどこんな神速な技を出すとか聞いてない・・・ 爪焼けちゃうじゃん。


メシアは、即座に地面のコンクリートを広範囲に切り刻むと、コンクリートを上げて斬撃を交わす。


トンネル上に上がるメシアだが、次は銃弾の雨が上から降って来る。


すぐさま、ネイルに付いているラメを具現化し、空中に飛ばすと銃弾の雨と共に爆発させた。


「7日振りかな? メシアちゃん。大人の姿になっても、貧乳のままでちゅね。」


「嫌味全開だね。ミサイルおっぱい。この姿になっても私の方が全然若いんだよ。」


「私だって、まだ、ぴちぴちの20代前半だわ。この野郎。」


「こんな時に張り合うな。見ろ。流馬がつけた傷が、もう塞がっている。」


美来も達滉は、いつ攻撃が来てもいい様に武器を構えている。


そこに、ミョッチも飛んで来て美来達と合流する。


「メシア、その力はなんだ!?」


「おぉーーー、ミョッチじゃん。どお? この姿、可愛いでしょ?」


「そんなことはどうでもいい。どうして、君が『星装』出来るんだ? その力は、君達には絶対に使えないはずだ。」


「人間みたいな事言わないでよ。この世界に絶対って言葉は存在しない。」


「この力は、星座人や『繋ぎし者』の様に星を救う者が使うべきだ。」


「良いことを一つ教えてあげるよ。この無限に広がる宇宙にはね、滅びが救いになる星もあるって事を学ぼうね。」


ミョッチは、小さな拳を強く握りしめながら涙をぐっと堪えた。


誠司が、地面を這いつくばりながらミョッチ達の所へ来る。


「まだだ・・・ まだ・・・ 俺は・・・ たたか・・・ える。」


「嬉しいな、誠司君。殺し損ねちゃったけど、また誠司君の血が飲めるって考えたら生かしたままがいいね。」


「次、会った時はお互い裸になって愛をはぐくもう。血もいっぱい頂戴ね。」


「私達は『破滅者』世界に復讐し破滅へと導く。」


月明りに照らされながら、メシアは一瞬で姿を消した。


誠司は、そのまま意識を失う。

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