第4話 影 後半

 カウンターに、昴が作ったカルパッチョとフランスパンが並んだ。


カルパッチョは、マグロ、サーモン、ブリ、ホタテ、イカの5種類の魚介類とベビーリーフー、新玉ねぎを盛り付けてイタリアンドレッシングをかけている。


フランスパンは、1切れ事にトロトロチーズが全体を包んでいて、チーズの上にブラックペッパーがかかっている。


「さぁー、召し上がれ。」


「いっっっただきまーーーす。」


誠司達は、一斉に食事を始める。


美味い。なんだ、このカルパッチョ・・・ まるで、魚介類と野菜がドレッシングという名の音楽に合わせて口の中で踊っている様だ。俺の口の中は今、春の音楽祭が開催されている。


誠司は、今心の底から感動している。


「本当、美味しい。ヘルシーだし新玉ねぎがまたいい仕事をしてくれているのよね。」


「誠司も美月ちゃんも早く、フランスパン食べてみて。トロトロチーズがパン全体と絡み合いながら、口の中でダンスしている様だよ。」


「もうね、ほっぺが取れちゃいそうだよね。」


5分もしないで、誠司達は料理を全て完食してしまった。相当、美味しかったんだろう。


昴も作り甲斐があったみたいで、満足そうだ。鼻歌を歌いながら、皿洗いをしている。


「食い終わってすぐで悪いが、新人2人ついてこい。」


「なんで、そんな上から目線? しかも、僕と誠司の理由はなに。」


「時間が無いって言ってんだろ!!!」


流馬が壮也の胸倉を掴み、大声で怒鳴る。


そこに昴が流馬の腕を掴み仲裁に入る。


先程の爽やかな笑顔とは違い、周りが驚く程、顔の表情が怖い。


「女性もいるんだ。それに、魚達もびっくりする。怒鳴り声をあげるんなら、いくら仲間でも出禁にするよ。」


「悪かった。」


流馬は、壮也の胸倉を離して近くの椅子に座る。


「急ぐ理由も分かる。これ以上、犠牲者が出ない様にしたいんだろうけど、今のは良くない。」


「すまなかった。友人が襲われた商店街で働いているんだ。もしかしたら、宇宙人に襲われた可能性がある。」


「そうだったんだ。まぁどの道、流馬君を招集するつもりだったさ。それに、二手に分かれるつもりでいたし丁度いい。」


「どうゆうこと?」


「これとは別件で、ここ数日東京都内で人の頭を銃の様な物で貫通して死亡している事件があってね。共通しているのが、男女の営みの痕跡があること。現場は、必ずラブホか自宅のどちらか。金目の物は、盗まれていない。」


「もしかしたら、7日前美来さんの報告にあった奴かもしれない。」


その場にいた全員が、凍り付いた。


今までにないケースなんだろう・・・ 殺し方が完全に、スナイパーみたいだ。


「流馬さんでしたっけ? 俺と壮也を連れていきたいんですよね。とにかく、俺達は襲われた商店街に向かいましょう。」


「頼む。」


弦貴やゼミの仲間を失っている誠司には、流馬の先走る気持ちが人一倍分かるのだろう。


壮也もモヤモヤが残るが、誠司達の後を追う。

美月が、心配そうに口を開く。


「大丈夫かな・・・。」


「流馬には、考えがあるんだろうね。強いし大丈夫だよ。」


「そうじゃなくて。壮也と流馬さん。相性悪そうで・・・。」


「最初の数ヶ月だけさ。元々、口は悪くて強引な所もあるけど、根は優しいから。」


「とりあえず、僕達も調査に向かおう。」


立ち上がろうとしたら、美月のスマホの通知が鳴る。


美月がスマホを開くと、1件の通知が届いていた。中身を見て見ると、美月がカウンターの椅子から飛び上がりミョッチと昴にスマホを見せる。


「ねぇ、見て見て。美来さん、羽田に着いてこっち向かっているって。しかも、達滉さんも一緒。」


「そういえば、2人共海外で宇宙人討伐しに行っていたんだよね。」


「美来さんに会えるんだ。はぁー、美来さん本当に大好きだから嬉しい。あのエッチなフェロモンは、同じ女としても羨ましい。」


「それじゃあ、まずは合流しようか。美月ちゃん、品川駅の改札口で待ち合わせって伝えておいて。」


「オッケー。」


美月達は、BARを後にして品川駅へ向かった。





 西商店街入り口。


誠司達は、気味悪い雰囲気が漂っている商店街に入る。辺りは、物静かで薄暗い街灯のみが商店街を照らしている。


「本当に誰もいない。飲み屋も閉まったままだし、何より衣類や装飾品がそのままなのが不気味だ。」


「油断するなよ。特にそこのオタクっぽい奴。」


「せめて、名前で呼べよ・・・ チャラ男。」


3人が辺りを見渡していると、壁の隙間から影が現れて誠司達を上から襲って来た。


影は、20本の短剣に変化し物凄いスピードで向かって来る。


流馬がいち早くそれに気付き、左手の中指にはめている指輪に触れる。


「解放」


流馬の掛け声と共に、指輪の形状が巨大な鎌へと変化し、20本の短剣の影を一瞬で一層する。


「危ないなー。」


「じれったいんだよ。もっと、瞬時に反応しろ。」


確かに、流馬さんが反応してくれなかったら、俺も壮也も今頃串刺しにされていただろう。口が悪いだけで、この中で一番神経を使って気遣ってくれているのはこの人だ。


巨大な鎌を見て見ると、先端の刃が三日月の形をしていて、中央にさそり座のマークが付いている。


鎌全体の大きさは、2メートルを超えて片手で持つのはかなり難しそうだ。


「次、来るぞ。」


再び、影が襲い掛かって来た。次は、大量の蚊に姿を変える。


誠司と壮也も武器を解放し反撃を開始する。


「箱庭」

「星屑の雨(スターダスト・レイン)」


壮也は、杖から羊毛を空中に出すと、徐々に羊毛が集まり影の蚊を閉じ込め始める。影の蚊を数十匹単位で閉じ込めながら、羊毛は四角い箱の形となる。


誠司は、弓矢から大量の矢を天井に放つと、雨の様に矢が降り注ぎ影の蚊を打ち落とす。


「この宇宙人、蚊になって俺達の血を吸い尽くすつもりなのか。」


「どうだろうな。慎重に行くぞ。」


壮也が、ふと下を向くと影がみるみるうちに大きくなっていく。影が、3人を囲える程大きくなった所で影から口が現れた。


「なんか、出た。」


「ったく、こんな早くから使うつもりなかったのによ。お前ら、目つぶれ。」


流馬がポケットから何かを取り出し、それを影の口の中に放り込む。次の瞬間、眩しい閃光が商店街全体を覆った。


辺りが見渡せる様になると、影の口が消えていた。


「今のは?」


「閃光弾だ。どこぞの忍者から貰って来たんだよ。」


「忍者って、本物の?」


「その内、分かる。」


誠司達が話していると、影が商店街の奥から人間の形をしながら現れた。


「オマエタチ、フツウノニンゲンジャナイナ。クッテモマズソウダ。コロス。」


影は、剣を作り出し、誠司達に襲い掛かる。

しかも、12体に分裂している。


この狭い空間では、避け切れない。


「伏せろ。」


流馬は、持ち手の先に付いている鎖を伸ばす。素早く鎖を手に絡めて、鎌を円を描く様に振り回しながら影を真っ二つにして一掃する。


しかし、影は流馬の耳元で一言囁やいた。


「カカッタナ。」


真っ二つにした影は、爆発を起こし3人を吹き飛ばした。


流馬は、近くの居酒屋の店内まで飛ばされてしまう。体中大やけどを負い、更に頭も強く打ってしまう。


爆発の影響で、店内にあるアルコール飲料が割れてしまい、そのまま店内に引火する。


壊れた入り口から影が入って来る。


「ドウダ。カゲノバクハツノイリョクハ。カゲガバクハツスルナンテ、カンガエナカッタダロ。」


「あぁー、予想外だぜ。顔も出せないひよっこ野郎がよ。イキってんじゃねぇよ。」


「ウルサイヤツダ。」


影が人間の拳に代わり、流馬を激しく殴りつけた。


店内は、流馬の血が至る所に散らばっている。


「オレノボセイハ、イツマデモヒカリヲハゲシクハナッテイタ。オレタチノセイメイハ、ゼツメツスンゼンダッタガ、カゲニナルコトデイキナガラエタ。ソノオカゲデ、ナンデモヘンケイデキルヨウニナッタ。」


「ほう。そりゃ便利な機能だ。それが、どうして地球に来て人間を襲う様になったんだろうな。」


「キサマニ、コタエルギリハナイ。」


再び、拳で殴りつけようとした時、流馬は鎖部分で影を捕まえる。


流馬は、ニヤッと笑った。


「ナニ・・・」


「俺を殴れるって事は、実態するってことだろ。それじゃあ、今までの攻撃も当たってて痛かった事になるはずだ。つまり、お前は影になって色んな生き物や物に姿を変えてるだけの存在ってことだ。」


「ソレガ、ドウシタ。」


「お前には、実在する本体がどこかにあるって言ってるんだよ。襲った人間もどこかに閉じ込めているんだろ。ささっと、出せ。」


先程とは違い、余裕の笑みを浮かべる流馬。


影は、少し焦った様な素振りを見せたがこれをチャンスと捉える。


「ソンナニ、ダシテホシイナラ、ダシテヤロウ。」


影から、山積みになっている何かが現れた。


山積みになっていたのは、バラバラになった血塗れになった人間の死体の山だった。中には、皮膚が綺麗に剥がれて肉が丸出しになっている死体や繋ぎ合わせた複数の血管で肉体を絡んでいる死体もある。よく見て見ると、肉体が腐敗して腐っている死体、手足の指や骨をおもちゃの様に体の部位にくっつけている死体などもある。そこには、流馬の友達の姿もあった。


それを見た瞬間、流馬は思わず小粒の涙を流してしまい影を縛っていた鎖を緩めてしまう。


その隙を見て、影は巨大な大蛇となって流馬に襲い掛かった。


大蛇となった影は、流馬を口元に加えながら辺りの建物を破壊して行く。5秒もしないうちに、西商店街と半径5キロ圏内の建物は、跡形も亡く壊滅してしまう。残ったのは、瓦礫の山だけだった。


流馬は、瓦礫の山に叩き付けられた。体は、傷だらけで血塗れになっていてピクリとも動かない。辛うじて、目は薄く空いている。


「トドメダ。」


大蛇となった影が、流馬を丸呑みにしようとした瞬間だった。影が急にもがき苦しみ始めた。


「ギャャャャャャャャャァァァァァァーーーーーー」


「ナンダ。コノフカイキズハ。」


影が自身を見て見ると、至る所に深い切り傷を負っていた。その場に、倒れ込む影。大蛇の姿を保てなくなったのか、人間の影に姿を変えた。


ピクリとも動かなかった流馬が立ち上がり、口を開いた。


「隙だらけなんだよ。お前は。」


「イツノマニ、コンナ・・・」


「お前が、気持ち悪い大蛇になって俺を振り回していた時にだよ。俺も同様に、鎖で鎌を振り回しながら至る所に傷を作っておいた。」

「ったく、闇雲に建物を破壊しやがって。ミョッチに怒られるだろ。」


今日の夕方時点で、区役所から住民に避難命令が出されていた。住民は、全員避難してくれたのでミョッチの結界はいらないかと思ったんだけど、これは明日のニュースで大々的に報道されそうだな・・・。


上から、大量の棘の影が流馬に降り注いだ。


「星の障壁(スターバリア)」


空中に透明なバリアが流馬を守った。


後ろを振り向くと、誠司が立っていた。すぐ近くに、壮也が倒れている。


壮也は、全身傷だらけで重傷だ。


「今のは、誠司の技か?」


「そうです。流馬さんめちゃくちゃ重傷ですね。」


「まぁな。そこの、オタクもボロボロだな。」


「壮也は、爆発に巻き込まれてしまって・・・ 俺は、壮也の技のおかげで助かりました。」


「こいつが・・・」





 爆発寸前、壮也が大量の羊毛で誠司を囲い、羊毛は球体型となった。爆発したと同時に、羊毛の球体は駅方面に吹き飛ばされた。


吹き飛ばされた誠司は、無傷だった。


急いで球体から出て壮也の元へ戻ろうとするが、影が襲い掛かって来る。応戦しながら商店街に近づこうとするが、影は様々な生物に変化して誠司の行く手を阻む。


グンタイアリ、オオスズメバチ、クロドクシボグモ、トラ、日本狼


それぞれの影が、誠司の行く手を阻む。


左右は、狭い道に建物があり逃げ切る事が出来ない。前後には、トラと日本狼で道を塞いでいる。上を見上げるとオオスズメバチ、建物にクロドクシボグモ、下にはグンタイアリがいてどこにも逃げ場がない。


「まずいな、これ。」


日本狼とトラは良いとして、オオスズメバチとクロドクシボグモはかなりの猛毒を持っていて厄介だ。もし、影が毒までコピーしていたら一度でも刺されたら一巻の終わりになる。グンタイアリは、しつこく食らいついては大型動物までも食い殺す昆虫だ。


「試しにやってみるか。」


誠司は、弓矢の先端にある刃に力を思いっきり込める。影が、襲い掛かって来たと同時に刃に込めた力を解放する。


「氷河円舞」


弓矢を円形に振り回すと、影の周りに氷河が出現し辺り一帯が凍り付いた。


影の生き物は、凍り付いてピクリとも動かない。


「一生、冬眠してな。」


誠司は、急いで商店街に戻る。入り口付近に着くと、壮也が倒れていた。





 「こいつ、見かけに寄らず度胸あるんだな。」


「優しいんですよ壮也は・・・。」


壮也は、もう戦えそうにない。

爆弾の殆どをまともに喰らっているが、母体満足で命に別状はない事を考えると星座人の力は本当に凄い。

影が、誠司達の前に現れる。


「キサマラ、ブッコロス。」


先程の余裕はもうなさそうだ。声もかなり荒々しくなっていて、怒りに身を任せ大量の肉食獣の影を出して襲い掛かる。


「悪いが、もうお前の技は通用しない。諦めろ。」


肉食獣の下から、巨大な鎌が現れて肉食獣の首元を突き刺して一層する。


巨大な鎌は、流馬と同じ三日月型の鎌と同じ形をしていた。


「俺は、さそり座の星座人だ。さそりが出来ることは、なんでも出来るしそれを応用して技を拡大することも可能だ。」


「ダチの仇だ。後、一撃で決めてやるよ。」

流馬は、落ち着いている様に見えるがかなり怒っているのが良く分かる。


影は、次々と昆虫や肉食獣の影を作り出す。


「またかよ。」


「安心しろ。もう、毒が回る頃だ。」


「毒?」


影が、急に苦しみ始めた。昆虫の影や肉食獣の影は、原型を保てず溶ける様に消えていく。


「そろそろ姿現せよ。近くにいるの分かってるんだよ。」


近くのマンホールから影の宇宙人が姿を現す。


影の宇宙人は、人間の形となって立ち始めた。


「やっと、現れたな。どうだ、今の気分は。人間の形をしていないと核守れないだろ。」


「キサマ、ナニヲシタ?」


「お前が大蛇になった時に、深い傷を付けただろ。そん時に、猛毒を入れておいたんだよ。毒を注入した時点で、俺の勝ちは確定してんだよ。」


「ショクリョウゴトキガ、イイキニナッテンジャネェヨ。」


「その食料にこれから殺されるんだよ。陰キャ野郎。」


「最後の晩餐に、さそりの毒を無料で注入してやったんだ。感謝して味わえよ。人間にとっては、高価な物なんだからな。」


「フザケルナ~~~~~~。」


影の宇宙人は、かなり弱って来ている。流馬の猛毒が全身を覆って、殆ど力が残っていない。


その隙に、流馬は影の宇宙人の目の前まで近づく。


「呪い鎌」


流馬は、鎌を思いっきり一振りする。


しかし、影の宇宙人に変化はない。


「ナンダ。ナントモナイ。イマ、ヤツハユダンシテイル。コノスキニ。」


「俺が、どうして人間の形じゃないとお前を生かせない様にしたか分かるか? お前の核を人間の心臓付近に持っていけば、核をぶった切る事が出来るからだよ。」


「ハ?」


次の瞬間、影の宇宙人は核諸共、真っ二つに切り裂かれた。


影の宇宙人は、跡形なく消えていく。


「呪い鎌。この技は、切りつけた相手を俺の好きなタイミングでぶった切る事が出来る。」


「山本、仇は取ったぞ。ゆっくり休んでくれ。」


流馬は、影の宇宙人の犠牲になった友人の名前を言いながら、大粒の涙を流した。





 誠司が、流馬の所に来る。


「終わったんですね。」


「あぁ。俺のわがままに付き合わせて悪かったな。」


「いいんですよ。どの道、倒さなきゃいけなったんですから。」


「そうだな。それと、俺達は仲間だ。他の連中は知らねぇけど、敬語なんていらない。」


「分かった。」


二人は、改めて握手をした。


「あらあら、男同士の友情って暑苦しいね~~~。」


どこからともなく、女の声が聞こえる。


辺りを見て見ると、電柱の上から見下ろしながらこちらを見ている少女がいる。


薄暗くて分かりづらいが、ツインテールのピンク髪で綺麗な白い肌をしている。見た目的には、14~16歳位だろうか。丸で、月明りに照らされて夜空の星空と共に輝く、美しく可愛らしい女神の様だ。


「初めまして。射手座の星座人さん。」

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