第7話
物心ついた頃には、俺は既に“勇者”だった。
──貴方様は勇者なのですから、常に人々を想って動かねばなりませんよ──
──貴方には魔王を倒すという宿命があるのですから、もっと修行なさらないと──
教師に、国から派遣された監査官に、そうやって何年も何年も言われ続けたけれど、俺の返事は変わらない。
「はい!尽力いたします!」
元気よく、明るく、勇者らしく。
苛立ったり反抗したりしなかったのは、それが当然のことであると理解して受け入れていたから。
なんてご立派な理由ではない。
だって期待しても無駄だろう。
あいつらが見たいのは“勇者様”で、“俺”という個人は“勇者様”をより良く存在させるための演者でしかない。
演じるのを辞めればなんとか矯正しようと“演技指導”を試みるだけだというのは試すまでもなく分かっていることで。
怒りも、悲しみも、祈りも、“俺”という存在の“意見”も、全部無意味だ。
あいつらが聞きたいのは、“勇者様”のお言葉なのだから。
なら俺は、怒られたり呆れられたりしないように、“勇者様”で在り続けよう。
だって、面倒臭いから。
……そんな風な俺が人々を救おうと思い続けられるのは、やっぱり俺が欲深いからだろう。
欲深いから楽をしたいし、欲深いから心のどこかで“俺”を見てほしいと願ってしまう。
そして何より、欲深いから大事な人には笑っていてほしい。
でも、勇者である前に自分たちの息子だ』と抱き締めてくれた両親といい、『いつでも帰ってこい』と送り出してくれた昔から仲の良い友人たちといい、俺の大事な人たちは皆優しいから。例えば俺の大事な人たちだけ生き残ったとしても、死んだ人たちを想って胸を痛めるような人たちだから。
だから俺は、俺の大事な人たちの為に──言ってしまえば大事な人たちのついでとして、人々を救わなければならないのだ。
──……ほら、なんて欲深い。
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