第4話 佐久間 新の試練①

翌日の放課後、乙葉は部室に入ってきた。そこにはほとんどの部員がいた。最初に反応したのは優菜だった。

「嘘…。」

「嘘じゃないよ。私はもう一回この部活で頑張ろうと思ったんだ。でも、一回逃げだした人間を受け入れられるとは思ってない。雑用でもなんでもやるからここに入れて欲しい。入れて下さい。」

乙葉はそう言うと頭を下げた。

「気にしないでいいんだよ!だよね、みんな!」

優菜は少し慌てながら言った。他の部員達も頷いた。正直な話、入ってきたばっかりの1年生はこの状況をよくわかっていないだろう。

「優菜…。ありがとう。」

その返事を聞けた優菜は自分のように乙葉の紹介を始める。

「乙葉はね、すごいんだよ!私たちにも出来ないことを簡単にやり遂げたり、人に教えるのもとっても上手いんだよ。だから何かあったら乙葉に聞くといいよ!でさ…」

「優菜、そしてみんな、本当にありがとう。これからよろしくね。」

優菜はまだ話したいことがあるようだが乙葉の言葉で話すのを辞めた。乙葉がお礼を言った後、優菜が今日の部活動について話し始めた。基本的には昨日と同じであるが、乙葉は優菜とともに練習をすることになった。一方、湊と律は新からのテストの対策を始めようとしていた。新はすでに帰っていた。

「とりあえずやってみないとわかんないよな。ちょっとやってみようぜ。」

「そうだな。先にやってみてくれないか?律。」

律は湊からの言葉に承諾するとボールを3つ持ち昨日見せられた動画を一度確認した後、見様見真似でチャレンジした。

「ほいっ、ほ。」

湊は目を大きく見開いた。律が成功させてしまったのだ。しかも一発で。

「意外とできるな、これ。湊もやってみ。」

律はボールを渡してから一歩下がって湊を見つめる。湊はボールを受け取り、チャレンジしようと準備を整える。そしてボールを上げ始めた。しかし、回転した後に脇の上でキャッチしなければならない所でボールを落としてしまった。

「あっ。」

「湊。そこは腕をこうやっとスッとするんだよ。」

律は人に教えるのが下手なのだろう。湊は全く理解できずに何回かチャレンジするが同じ所でミスをしてしまう。

「くそっ。なんでできないんだ。」

「俺も教えてやりたいけど感覚でやってるからなー。」

律に悪気はなかっただろうが、その言葉は湊に強く刺さった。その後も何度もチャレンジしてみるが一回も成功しなかった。そのまま部活は終わってしまった。


帰路に着こうとしていた時、湊はある人物に話しかけられた。

「なあ、湊。ちょっといいか?」

律が話しかけてきた。さっきのことがあって湊は話しづらいと思っているが律には関係ないことであるし、ここで不満をぶつけても何にもならないと考え、黙って話を聞くことにした。

「どうしたんだ?」

「今日来た先輩さ、彼氏とかいんのかな?」

思ってもいなかった言葉が湊の耳に飛んできた。湊は動揺を隠しながら話そうとしたが出来なかった。幸い、律も少し興奮状態にあったのか、湊の態度には気付かなかった。

「だ、ど、どうしたんだよ。いきなり。」

「俺さ、多分一目惚れってやつなんだろうけどさ、乙葉先輩のこと好きになったんだと思う。」

「!…、そっか、なら頑張ってくれ。」

湊は少し素っ気ない反応をしてしまったが、律は気付かずにお礼を言う。

「おう、ありがとな。」

そう言うと、律はそのまま帰っていった。

(律が水野先輩のことが好き…か。)

少しどんよりとした感情を持ちつつ、学校を出た。その時、後ろから声が聞こえた。乙葉である。

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