第116話 王都での休日01

秋祭りから十数日ほど経ち、そろそろチト村が冬支度を始める頃。

いつものように指示書が来る。

今回巡るのはチト村に近い辺境かエリシア共和国南側の村。

回るのは4か所ほどらしい。

往復するだけなら十数日程度の距離。

冒険だけならおそらく1か月もかからず帰って来られるだろう。

教会長さんもそのことは何となくわかっているようで、

「その冒険が終わったら一度王都へゆっくりしに来てちょうだい。武器のお手入れもあるでしょうし、少しお話もありますからね」

と何とも気安い感じの呼び出しの言葉が一文添えられていた。


さっそくみんなにそのことを話しにいく。

「じゃぁ、西側から順に回って帰りに王都によればいいかな?1か月ちょっとくらい?」

とアイカがなんとなくの目算を立てると、ユナも、

「そうね。今回はそれほど奥地にもいかないし、冒険は割と早く終わりそうだから、あとは王都でのんびりできそうね」

と言って、楽しそうに微笑んだ。


王都では武器の手入れを待っている間、教会長さんに会う以外に特にすることはない。

おそらくユナの言う通り、2、3日はのんびりできるだろう。

私は、

(久しぶりにリリエラ様にも会えるし、ユリカちゃんに新しい本やおもちゃもたくさん買ってきてあげられるわね)

と楽しみに思いながら、

「じゃぁ、そういうことで、明後日、出発しましょう」

と言うとさっそくアンナさんの家に戻って冒険の準備に取り掛かった。


翌日を準備とユリカちゃんとの触れ合いにあて、翌々日。

少し寂しそうな笑顔で見送ってくれるユリカちゃんを抱きしめ、いつものようにエリーに跨る。

そして、いつものように村の門のところで、

「頼んだわよ」

とジミーに声を掛け、

「おう。頼まれた」

という返事を受け取ると、さっそく私たちは村の門をくぐっていつもの田舎道を進んでいった。


旅は順調に進み6日。

「烈火」と猿の魔物を退治した時に待ち合わせたニルスの町からやや北にある小さな宿場町に入る。

私たちはそこから冒険を開始し、いつものように浄化の魔導石を調整しては森に入るということを繰り返した。

そんな冒険も15日ほどで終わり、無事王都に入る。

私たちはいつものように安宿を手配すると、まずはバルドさんが営む武器屋を訪れた。


「いる?」

と気軽に少し大きな声を掛ける。

「おう。誰だ?」

というダミ声が返って来たので、

「ジルよ」

とまた少し大きな声で答え、

「おう。待ってろ」

という返事のあと、バルドさんが汗を拭きつつ店の奥から出て来てくれた。


「どうした?」

といきなり聞いてくるバルドさんに、

「調整をお願い」

とだけ言ってそれぞれに武器を差し出す。

バルドさんは、私たちの武器を少し観察して、

「盾がちょいと傷んでるな。4日ってところだ」

と言って、私たちにどうだ?というような視線を送ってきた。

私たちはもちろん了承して、

「お願いね」

と告げて注文を済ませる。

そして、

「おう。任せとけ」

と言ってさっそく奥に引っ込んで行くバルドさんの姿を見送ると私たちは武器屋での用事を終えた。


「さて、どうしよっか?」

と、とりあえずみんなに向かって聞いてみる。

「うーん…。ご飯、にはまだ早いよね」

「うふふ。そうね。どうしましょうか?」

「私はなんでもいいけど…。そうね。せっかく王都に来たんだからお茶でもしない?たまには甘い物でも食べたいわ」

というベルの意見が出たところで、私たちはさっそく適当な喫茶店を探して貴族街よりの通りの方へ足を向けた。


適当に見つけた喫茶店でそれぞれ好みのケーキを選ぶ。

私は栗のケーキ。

アイカは大きめのパンケーキでユナは桃のタルト。

ベルは迷っていたようだが、お酒がたっぷりしみ込んだパウンドケーキを選択した。

それぞれに分け合いながら美味しく食べ話に花を咲かせる。

やがて時は過ぎ、すっかりお茶がなくなった頃、私たちは笑顔でその喫茶店を出た。


「意外と…っていったらお店に失礼かもしれないけど、美味しかったわね」

「ええ。お茶も良かったし、桃も新鮮だったわ」

「うん。おしゃれな喫茶店にしては量も多かったし」

「ふふ。あのお酒の効かせ方はなかなかだったわ」

と感想を述べあいながら、慣れ親しんだ下町を目指す。

私たちは久しぶりに和気あいあいとした雰囲気を楽しみながら、王都の整えられた石畳の道を軽快に叩いた。


いったん宿に戻ったあと、いつものように銭湯に向かう。

そして、いつものように、

「ふいー…」

と言いながら湯船に浸かった。

「いやぁ…やっぱりお風呂は気持ちがいいねぇ」

とアイカがしみじみと言う。

今回の冒険ではあまり苦労しなかった。

狼の魔物にしろ、コウモリの魔物にしろ、これまでの自分たちならそれなりに苦労していたはずの相手を難なく倒せるようになっている。

きっとアイカもそのことを感じているんだろう。

私にのんびりお湯につかりながら、なんとも言えない充実感を覚えていた。


お風呂から上がり、

「さて、今日はどうしよっか?」

と、みんなに食事のことを相談する。

ベルとユナが、

「うーん…」

「そうね。あまり希望は無いけど」

と言うと、アイカが、

「今日は焼肉でしょう!」

と提案してきた。

私はその提案をいいなと思いつつも、「?」という表情をアイカに向ける。

するとアイカが、

「ほら、ちょっと前に牛の魔物を倒した時、焼き肉の話してたじゃん?せっかく王都に来たんだし、焼肉屋さんに行こうよ」

と、目を輝かせてそう言ってきた。

「うふふ。やっと牛タンが食べられるのね」

とベルが嬉しそうな顔になる。

「そうね。ああいうお肉は焼肉屋さんじゃないと食べられないし、いい機会だわ」

とユナも期待のこもった表情になったので、私は、

「じゃぁ決まりね」

と言ってみんなに笑顔を向けた。


銭湯を出て職人街の方へ向かう。

こういう場所には安くて美味しい焼肉屋が多い。

私たちは、

「ハラミとカルビは絶対だよね!」

「私はロースかしら?」

「イチボみたいに肉肉しいのも捨てがたいわ」

「ギアラとかミノは?」

「お。ホルモン系もいいわね」

というような楽しい会話をしながら、ウキウキと焼肉屋を探して下町の路地を歩いた。


しばらく行くと、いかにもという店を見つける。

店の外にも席が置いてあり、肉の焼けるいい香りとワイワイとした声が響いてくるから、きっと人気店に違いない。

そう思って私たちは迷わずその店の扉をくぐった。


「らっしゃい!」

という威勢のいい声に導かれて適当な席に座る。

席に着くと、すぐに店員がやって来て炭を入れてくれた。

「とりあえずビール」

と言ってお酒を頼むと、

「じゃぁ、お肉決めちゃおっか!」

というアイカの音頭でさっそく品書きから肉を選び始める。

そして、店員がビールを持ってきてくれると、すかさず肉を頼み楽しい夕食が始まった。

肉を焼き、ビールを飲む。

アイカとベルは美味しそうにご飯をかき込み、ご飯は〆派の私とユナは葉物野菜に巻いてビールを楽しんだ。

肉を追加で注文し、お酒も進む。

楽しい宴は盛り上がり、店を出る頃にはみんな香ばしい香りを身にまとっていた。


私はいつものようにふわふわとした足取りで宿への道を歩く。

みんなも、

「美味しかったね」

「牛タンも良かったけど、ハツも当たりだったわ」

「ええ。テールスープも良い味出してたしね」

と嬉しそうに話しているからきっと楽しかったのだろう。

「ジルは何が美味しかった?」

と聞いてくるアイカに、

「そうねぇ…全部美味しかったけど、やっぱりホルモン系かしら。あれってお酒に合うのよね」

と答えると、

「あはは。相変わらず呑兵衛だね」

と笑われてしまった。

「いいじゃん。呑兵衛で」

と笑いながら答える。

「ふふっ。そうね」

「ええ。全く問題ないわ」

と言ってベルとユナも笑った。

それぞれに幸せな気持ちを抱えて王都の路地を歩く。

いつの間にか出ていた満月がほんのりとその道を明るく照らし、私たちを宿までふわふわと導いてくれた。

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