第31話

 合宿なので、今日はこのまま学校に泊り込む。夜の食事は定番のカレー、かと思いきや

「はい。今年の合宿めしはチーズタッカルビです! おしゃれ~」

 これは完全に斉藤先輩の趣味なんじゃないの? と思ったけれど、確かにわたしもチーズタッカルビ食べてみたい。

 野外のキャンプじゃないから、飯盒炊爨とかはしないんだけれど、家庭科室で料理するのはなんだか楽しかった。その様子を撮影するのは萩原先生だ。

 斉藤先輩が率先して野菜を切るけれど、結構その手つきが危なっかしい。一番包丁使いが上手なのは蜂飼くんで、

「よ、料理男子!」

 斉藤先輩は冷やかす。そんな声にも蜂飼くんはどこ吹く風。逆に、

「今どき、料理に男子も女子もありません。そうやって男子を甘やかすから、社会が成熟しないんです」

 斉藤先輩、しゅんとしちゃった。

 蜂飼くんが提出したレポートもそういうジェンダーな視点が入っていた。大半がロバート・メイプルソープについてだったのが印象的だった。

「それでは、いただきます、の前に、」

 斉藤先輩が木べらでチーズを掬う。

「ヒーコ、わたしとチーズタッカルビ撮ってえ」

 わたしは、ぶんぶんと首を振る。斉藤先輩は、はてな? という顔をしたあと、

「じゃあハッチー」

 そういって先輩のスマホを蜂飼くんに手渡す。蜂飼くんは満面の笑みの斉藤先輩を撮影する。

「サンキュー、ハッチー。これフィルグラにあげちゃおう」

「斉藤、早くしろよ。冷めたらマズイだろ」

「そんなことありません。冷めたっておいしいに決まってます! でもこのとろ~りとした画は今しか撮れないんです!」

 斉藤先輩のフィルグラもなかなかいい写真が投稿されている。

「これはわたしが撮ったわけじゃないからフィルターかけちゃおう」

 どうやら自分で撮影した写真はフィルターなしで投稿しているみたい。蜂飼くんに、何ですかその差別っぽいの、と問われて、それは写真部の矜持よ、と答えていた。蜂飼くんも写真部だけどね。

 チーズタッカルビは抜群においしかった! とろけてゆくチーズと鶏肉の相性がぴったり。野菜もしっかり、ふんだんに摂ることができる。確かにこれは流行るわ、と思う。それを自分たちの手で作って食べるっていうのがなんだかいいね。

 はふはふしながらみんなで食べる食事はおいしい。家庭科室という非日常がなんだか特別な感じで嬉しい。

「おいしいね」

 無言で食べ続ける蜂飼くんにわたしが話しかけると

「レシピ通りに作ればおいしいのは当たり前です。隠し味とか、変なひと工夫をするから失敗するんです」

 蜂飼くんはそうドライに返してくる。あ、これってわたしが感じた写真家に必要な素質なのかも。

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