第4話

 わたしたちは、言われるがまま、おずおずとお屋敷のエントランスにまわる。

「おじゃましまーす」

 大きな玄関の扉は音を立てずに開いた。中に踏み込むといきなり大きなシャンデリアが目に入る。いつも玄関先でマダムを待つわたしたちが、このお屋敷の中に入るのははじめてのことだった。

「やば。このツボとか高そう」

「文月、きっとこのラグとかスリッパもいいものに違いないよ」

 マダムの物腰から予想していたこととはいえ、外から眺めることしかしていないわたしたちは、お屋敷の中に別世界が広がっていることに圧倒される。この空間にはわたしの暮らしとはかけ離れた時間が流れている。

 わたしたちは、サンルーフのある部屋に通される。いつも庭から見えている部屋だ。

 そこにはすでにお茶の用意がされている。紅茶のいい香り。そういえば、蝶を撮るのに夢中だったから気に留めないでいたけれど、お庭も花の匂いでむせかえるようだった。

「さあ、おかけになって。紅茶とスコーンを用意しましたよ。ジャムとクリームをつけて召し上がれ」

 こんな時間におやつを食べたら夜ご飯食べられなくなっちゃう、なんて思ったけれど、スコーンがあまりにも美味しそうだったので、

「いただきます!」

 わたしたちは遠慮しないでいただくことにした。筒型のどっしりとした熱々のスコーンはお腹のところで割れている。そこから半分にして、まずは何もつけずに頬張る。

「お、おいしい……!」

 しっとりした生地は口に含むと甘く広がる。ふんだんなバター、本場のスコーンというものを知らないけれど、間違いなくこういう食べごたえがあると思う!

 今度はジャムを乗せる。あんずのジャムかな? とろっとしていて、スコーンに吸い付く。それをひとかじり。

「! うま!」

 ほどよい酸味がとっても上品! 文月もたまらず、わあ、と声をあげる。

「ジャムだけじゃなく、クリームも。クロテッドクリームだからおいしいわよ」

 マダムにうながされるままに、わたしはクリームをつけてスコーンをいただく。すうっと吸い込まれるように溶けてゆくクリーム。

「何これ、おいしい!」

 濃厚なのにバターよりさっぱりしていて、ほのかに甘くて、スコーンとの相性はばっちりだ。ジャムの余韻とクリームの広がりを残したまま紅茶をひとくち飲めば、口の中はまるでメリーゴーラウンド。これって、現実にあるメルヘンだよ! そして、鼻に抜けてくる紅茶のその香りがかぐわしい。

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