第23話 『森での採取』

 翌朝、早々に旅立つことにしたオフェーリアは、ジルに見送られて町を後にした。

 ここから先は採取を兼ねて行くので森の中に入る。

【探査】の能力を持つオフェーリアにとって森はお宝の山である。

 早速、腹痛の薬に使う薬草の群生地を見つけ、嬉々として採取を始めた。


「ここは日当たりも良いし、何よりも質が良いわね。

 きっと冒険者はここの存在を知らないのだわ」


 と言うか、この薬の存在自体知るものは少ない。

 ヒト族の医療は著しく遅れていて、ちょっとした風邪程度で命を落とすことも珍しくないのだ。

 なのでオフェーリアはどんどん採取していく。

 この薬草は根の部分を使うので、文字通り根こそぎ採取だ。



 そんな事を繰り返していたので、オフェーリアは大して進んでいない。

 この森にはそこそこ強力な魔獣が生息しているため、中級以上の冒険者でないとやってこない。

 そんな彼らは余程でない限り薬草採取の依頼など受けないので、オフェーリアにとってはまるで手付かずのような森に見えるのだ。


「あら〜

 すっかり夢中になってたけど、もうお昼じゃないの」


 せせらぎに誘われてやってきた水辺で珍しい水棲植物を見つけたオフェーリアは、自分が濡れるにも構わず採取に励む。

 そうこうするうちに、今度は水中に装飾品に加工するに適した玉石を見つけて……

 オフェーリアは河原に開けた場所を探し、そこに“家”を出すことになった。


 日が翳るまで河原を散策し、薬草や玉石を採取していたオフェーリアは、とても貴重な薬の材料となる亀を見つけ、それも討伐する。

 小型でも魔獣である。

 舐めてかかると痛い目に遭うこともある、要注意の素材だ。

 これは全身、甲羅からその血までが貴重な素材なので、周りを真空にして窒息させて入手する。

 そうして本日の探索を終え、家に入っていった。


 軽く【洗浄】をかけた衣服を、歩きながらもどんどんと脱ぎ捨てていって、オフェーリアは浴室にいた。

【水魔法】の応用の湯水シャワーで全身を濡らし、ヒト族には高価な香料入りの水石鹸で全身を洗い清める。

 そして髪だけは仕上げ剤を使って手入れする事を忘れない。

 入浴後は肌触りの良いタオルで水気を拭き、香油を塗ってようやくさっぱりした。

 他に誰もいない我が家でオフェーリアはほとんど裸のまま、先ほど脱ぎ捨てた服を拾い【洗浄】していく。

 裸足のまま、ガウンの前を合わせて腰紐を結ぶと、次は夕食の準備に取り掛かった。


「身体の芯が冷えてるだろうから、今夜はリゾットにしましょう。

 シンプルに生クリームとチーズ、仕上げに香きのこのスライスを散らして出来上がり。

 サラダ代わりの前菜は生のカブのスライスにスモークサーモンをのせたもの、ポテトサラダをのせたもの、トマトとチーズをのせてオリーブオイルをかけたもの。

 うん、美味しそう」


 キッチンカウンターで、足のつかないスツールに座って摂るひとりきりの夕食。

 オフェーリアにとってはこの方が気楽でリラックス出来るのだ。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る