第16話 『イモムシ』

「お兄さんはこのあたりの冒険者ですか?」


「ギルドの所属ってことか?

 ああ、そうだ。昨日この馬車が出発した町【フォドン】の所属だ。

 それと俺の名はアレックス。パーティー【レッドフォックス】の戦士をしている」


「私はフェリアです。

 えーっと、何だろう?」


 オフェーリアは自分の事をどう言い表していいか、よくわからない。

 そんな少女をアレックスは微笑ましく見ていた。


「で、何だい?」


「そうでした。

 これなんですけど……」


 リュックから取り出したのは立派な装丁の本と、ギルドで売っている冊子だ。

 そのページをめくり、しおりの挟んであるところを指し示した。


「この魔獣の事を教えていただきたいのです。

 このあたりではさほど珍しいものではなさそうですが、私の出身地では滅多に見ないものなのです。

 そしてこれは錬金術で使う貴重な素材でもあります」


 説明していた途中から熱心さが変わってきた。

 それは百戦錬磨の冒険者をもたじたじとさせるものである。


「ああ、うん、何となくわかったよ。

 それで?」


「この魔獣【ダルベリナピラプス】について教えて下さい」


 オフェーリアは大真面目に言っているが、アレックスにとっては見慣れた、通称【イモムシ】である。


「こいつはこの見かけからあまり好まれていない奴だ。

 素材としても大した値がつかないし……見かけてもわざわざ狩ったりしないな。

 それにこいつって、こんなに大っきいんだぜ」


 身長2mを超えるアレックスが両手を思いっきり広げて見せた。

 そう、このイモムシは超特大のイモムシだった。


「なるほど、そんなに大きいのですか。

 やはり地元の方に聞いてみないとわからないものですね。

 ところでこのイモムシはそれなりに生息しているのですか?」


「森に入ったらいくらでもいるよ」


 オフェーリアの心に炎が灯る。

 次の町に到着後の予定が決まった瞬間だった。

 その不気味な笑みにさすがのアレックスも引く。


「どうもありがとうございました。

 このお礼と言っては何ですが、今夜のお食事をご馳走させて下さい。

 もしよろしければパーティーの皆さんもご一緒にどうぞ」


「本当か?

 喜んで馳走になるよ」


 そのあとアレックスは護衛の任務に戻り、オフェーリアは読書を続けた。

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