第6話 『親切な門兵』

 2人の兵士は顔を見合わせた。

 そして頷き合う。


「身分証を持っているかい?」


 もちろん、【オフェーリア・デラメンテラ=ハプレイシス】名義のものは持っている。

 だがオフェーリアは姿と共に名も変えるつもりでいた。


「いえ、今回初めて村を出たので、持ってません」


「それならまずはギルドで登録してギルドカードを発行してもらえばいい。

 おっと、その前にこの町に入るのなら銀貨3枚を徴収させてもらってるんだが……金は持ってるか?」


「えっと、はい。銀貨3枚ですね?」


 ローブの中のポーチから出した銀貨3枚を兵士に渡すと、もう一人の兵士が“ついて来い”と合図して歩き出した。


「この町にはいくつかギルドがあるが、どうする?

 やはり商業かな」


 彼はオフェーリアが先ほど森で採取をしながら来たというのを覚えていて、そう言った。


「商業ギルドですか?」


 オフェーリアは少し考えてみる。


「そんなに難しく考えないでいいさ。

 ギルドは複数所属してもいいのだから」


「そうですね。よろしくお願いします」


 ちょこんと頭を下げた姿がとても可愛い。


「じゃあ、行こうか」



 人目につかないうちに素早くフードをかぶったオフェーリアは、親切な兵士に続いて町中に出た。

 そこは大勢の人で賑わっていて、オフェーリアは思わずキョロキョロしてしまう。


「しかしエルフとはな。

 びっくりしたぜ、お嬢さん」


「そんなに珍しいですか?」


「ああ、なのでそれなりに騒ぎになると思う。

 しばらくの間は、そのフードは出来るだけ外さない方がいいな」


 失敗したなと小さく舌打ちしたオフェーリアは今更どうしようもないので、このままでいくことにする。

 サクラメント侯爵家が絡んでくるので人に変化するのには抵抗があったのだ。


「ああそうだ。

 初めての宿なら少し割り高だが、そこの【青い泉】という宿がいいと思う。

 何より飯が美味いんだ」


 耳寄りな情報に礼を言って、またしばらく歩くと、同じような建物が並んだ場所に来た。


「一番右の、剣を交差させた看板が出てるのが冒険者ギルド。

 次の、麦と果物の看板が農業ギルド。

 硬貨が商業ギルド。

 薬草のキネタ草と瓶が医薬師ギルドだ。

 そうか、お嬢さんはこっちの方がいいかもな」


 オフェーリアは首が痛くなるほど上を向いて、各ギルドの看板を見つめた。


「そうですね……

 やっぱり最初に教えていただいた商業ギルドにします。

 ありがとうございました」


 ペコリと頭を下げると兵士が照れ臭そうに頬を掻いた。


「うん、まあ、気をつけなよ。

 じゃあな」


 兵士をしばらく見送ったオフェーリアは、扉の取手に手をかけた。


「大っきい」


 そう、小柄なオフェーリアにとってはすべてが大きく感じられる。

 人族の男には2mを超えるものが多くいるのだ。


「こんにちは」


 よっこいしょ、と扉を開けて入った中は……混沌としていた。

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