執事喫茶の誤算 451話
「という訳で執事喫茶の場所が王都の貴族街になりました。商業街の一等地です。王女様とその関係者が非常に楽しみにしておりますのでよろしくお願いしますね、メイさん」
え? は? 何? 何を言っているんですかレイシア様! もっと気楽な喫茶店じゃなかったんじゃありませんでしたっけ? は? 王女様と公爵・侯爵・伯爵家の奥様、お嬢様の前でナノ様ことキジ猫さんたちが執事喫茶の体験イベントを? あれってそういうことだったのですか? 何やっているんですかレイシア様!
それに、王都の貴族街の商業地の一等地って! たしかオズワルド様の提案でオヤマーを活性化するために作るって話でしたよね。お願いしますって……どうしろっていうのですか!
「私は商会の立ち上げや、王女様との取引き、魔道具の本格的な製作とかがあって、喫茶部の方には手が回らないの。大丈夫、メイさんならできるわ。お願いね」
……無理です~! って言いたいけど、レイシア様がお忙しいのは分かる。私一人じゃ無理! ここはスタッフ全員で話し合わなくては!
私は緊急会合をかけてみんなの意見を聞くことにした。
◇
「「「え~~~~!!!」」」
そりゃ驚くよね。私も驚いたんだから。
「そういう訳で、場所は今言った通り、王都の貴族街、それも商業地の中の一等地に決まりました。公爵夫人たちからのご寄付だそうです。何も聞かないで受け入れて! レイシア様のやったことですから」
そう。レイシア様がやったことです。仕方ないんですよ~!。
ざわつくよね。信じられないよね。
「ええと、じゃあ僕たちの拠点は王都ということでいいのかな、メイさん」
「そうなりますね。ナノ様達執事喫茶組の方はオヤマーに行かなくなりますね」
「まあ、僕たちはどっちでも構わないけど……。王都の貴族街か。大変そうだね」
そうなのです! 同じ貴族街でも王都は別格なのです。他の領地の貴族様が社交の時期にお泊りになる別邸が集中しているのです。そこに勤める使用人たちはほぼ法衣貴族か貴族の子女なのです。私達は、平民にもかかわらず、そこで商売をしなくてはいけないのです。貴族様を相手にだけでもプレッシャーなのに、公爵家や侯爵家のご夫人ですか!
「お給金は以前の提案よりもあげても大丈夫と言われています。休業日も作ってよいと交渉して勝ち取りました。大変ですが、よろしくお願いします」
頭なんかいくらでも下げます! なんとかしないといけないのです! 開かないと貴族のご夫人様のお怒りが!
「大変だねメイさん。分かった、協力は惜しまないよ。いいお店にしよう」
うわぁ~、ナノ様! 好きです! ありがとうございます!
「あのう、メイさん」
「なんですか、リンさん」
リンさんは執事喫茶ができたらここメイド喫茶の店長になる。今はランさんの下で引継ぎをしながら副店長として頑張っているわ。
「お客様からの質問というか、ご意見が上がっているのですが」
「何でしょう? 教えて下さい」
「はい。お客様はイリア・ノベライツ様のお書きになった宣伝用小説をいつも楽しみにしていました。オヤマーに出来たら必ず行くんだと遠征用貯蓄を始めた方までおります」
「そうですか。それはよい話ですね」
「ですが、最新作でオヤマーの貴族街に出来ますとの発表がありました。皆さまに動揺が走りました。貴族街に入ることは非常に勇気のいる事ですし、価格もどれほど高額になるのだろうかと。それでも、皆さまは貴族街に出入りできる服のレベルを調べたり、オヤマーの貴族街について情報収集を行ったり、共同で装飾品を買おうかと相談したりしています。前向きにとらえてもらえたのです。しかし王都の貴族街、しかも王女や公爵家の御用達となると……、おいそれと通う訳にはいきませんよね。ここのお客様」
……そうですね。無理でしょう。王都の商業地、それも中心街など私の父でも近づくことができない上級貴族の聖地。ここのお客様が割と裕福な方が多いとはいえ、全然レベルが違いますね。
「どういたしましょう。お客様もの凄く楽しみになさっているのに」
「そ、そうですね。宣伝は効果を上げていますし、期待もされている執事喫茶ですもの。どれほどがっかりするか」
「がっかりするとかその程度ならいいのですが、店の信用と評判がどうなるか。もしかしたら暴動が起きるかもしれないです」
ひええええ。そんなに⁈
「メイさん、全然お店に出てくることができないですから分からないのです。執事喫茶に対する熱い思いと期待感が!」
「そうだね。僕も感じているよ。お客様から早くナノ様の執事姿が見たいとラブレターが何十通も来ているし、声もかかるよ」
そうなのですか。どうしよう! ただでさえ貴族街のプレッシャーで一杯いっぱいなのに!
「まあ、プランの立て直しだな。アイデアを出しあおう。メイさん、一人で抱え込まなくていいから。みんなで協力しよう」
「そうです! メイさんは頑張っています」
「とりあえず、この事はお客様には秘密ね。ここにいないバイトの人にも教えちゃダメよ。分かった?」
みんな、ありがとう。ナノ様もリンさんもランさんも。涙出てきた。
それから私達は、何日もアイデアを出しあって、レイシア様と交渉することになるのだが、それはまた後のお話。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます