第123話 巡回衛士さんと抜き打ち視察

巡回衛士おまわりさん、こっちです」


別に、いかがわしい代物しろものを通報している訳ではない。

王国連合衛士隊所属の巡回衛士おまわりさんと待ち合わせしていたのだ。


私、スペクト・プラウスはクヴィラ侍女長を伴い、アンクト寺院を訪れていた。

アンクト寺院で行っている『レンタル僧侶』の抜き打ち視察のためである。


先日、ルシエン君の配信で話題にあがったレンタル僧侶プリーストに関する評判。

ルシエン君が言った、あの台詞。

「あー、わかります。ちょっと恥ずかしいですよね、レンタル僧侶プリースト

それが気にかかったのだ。


「抜き打ち視察であれば、衛士隊ではなくウチの王国騎士団を連れてくれば良かったのでは?」

「王国騎士団VS神殿騎士団の抗争にしたくないのですよ」


同じ騎士団の名を持ち、同じ街に住む2つの戦闘集団は、すこぶる仲が悪い。

クヴィラ侍女長には、こちらの意図を包み隠さず話す。

どうせ隠したところですべて見抜いてくるのだ、この侍女長姉貴分は。


「なるほど。確かに衛士隊ならば中立の立場を取ってくれるでしょう」


衛士隊は、アーガイン王国も加盟している『王国連合』所属の組織である。

『王国連合から派遣されている』扱いにはなっているが、実際は王国連合衛士隊が隊員を現地雇用している。


厳密には派遣ではないが、この場合、所属がアーガイン王国でないことが重要だ。

アーガイン王国とアンクト神殿との問題を、公正に審査してくれるはず。


「しかし、それはそれとしてわたしのことを信用してくれないのは、腹立たしいですね」

「痛い痛い痛い、尻をつねらないでください」

「姉は弟に対し、あらゆる感情のはけ口にできる権利があるのです、覚えておきなさい」

「……はい」


そんな権利は聞いたことないが、ここは素直に従っておく。

それと、実の姉ではなく姉貴分的存在であるのだが、そこを指摘すると後が怖いのでやめておく。


一通りの折檻を受けた後、『クヴィラお姉ちゃんは美人で優しい理想的な女性です』と、王宮内の廊下に立たされて100回詠唱させられるのだ。


小さい頃、やらされた覚えがある。


「それでは行きましょうか」


あまり思い出したくない過去を振り切り、私はふたりを先導して、アンクト寺院に向かう。


付き添ってくれた衛士隊員は、甲冑フルプレート鉄仮面アーメット姿の方だった。

無口な人で、今のところ声は一切発しておらず、男か女かも判別がつかない。


が、甲冑フルプレート鉄仮面アーメット姿には、なんだか親近感が沸く。

そういえば、私の持っていた鉄仮面アーメットは、ロベルタ狂王女殿下の脳天締めアイアンクロウを受けて、ガラクタブロークンアイテムとなってしまったのだった。


私の頭蓋の身代わりとなってくれたかと思うと、感慨もひとしおである。


「何を見つめているんです?」

「ああ、いえ何でもありません」


クヴィラ侍女長にジト目で見つめられる。


「冒険者フェチの他に、装備フェチのもありと……」


そして、何やらメモを取る侍女長。


「そんなはありません。あと、冒険者は敵です」

「そんなことを言って、この間、見目麗しい冒険者たちと一緒に汗を流していたと聞きましたよ……いやらしい」


人聞きの悪い。


地獄の早朝フルマラソン連続ログインボーナスに強制参加させられただけじゃないですか。それに迷宮都市アーガイン、そしてダーナ・ウェルの迷宮は、常に死の危険と隣り合わせの実力主義! 冒険者を外見で評価することなど……」


あ。


話しているうちに、アンクト寺院にたどり着いていた。

そして、その外観には、ところ狭しと見目麗しい美少年僧侶たちの写真が飾られていた。


巡回衛士おまわりさん、こっちです」


















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