第109話 第3層テストプレイ-眷属-

「これは仕様ではありません……これは、不具合です」


手番ターン目半ば。

私、スペクト・プラウスは、ロベルタ狂王女殿下に毒消しの水薬ヴィアルフォス・ポーションを飲ませながら、告げた。


「不具合じゃと!?」

「はい。召喚じっそう前に確認したステータスでは、九ツ首蛇竜ハイドラにこんな特殊能力はありませんでした」

「なんですって!?」


クヴィラ侍女長が黒金人形ブラックドールを操り、攻撃を加える。

が、行動失敗ファンブル

動揺で手元が狂ったのか、狙いが大きくそれる。


「くっ!」

「Hydiiii!」

それでも黒金人形ブラックドールの軌道を修正し、別の首に当てる。


「聞いたことがありません、戦闘中にLEVELアップするなど!?」


LEVELアップ……戦闘、鍛錬、依頼クエストの達成などで培った『経験EXP』を、冒険者の宿など『特別な場所ホーム』で『休息レスト』することで、心身の強化を促す。


だからこそ、戦闘中にLEVELアップするなど、通常であればあり得ない。


あり得ないのだ。

こんな破格な特殊能力など……。


「でも、今実際に目の前で起きているよ。それは認めなきゃ」

ロベルタ狂王女殿下に中治癒の水薬ヴィアル・ポーションを飲ませながら、ラーラ・マズール師がのたまう。

ロベルタ狂王女殿下に、ではなく、私に、諭すように。


そうだ。

あり得ないことが起きているからこそ、不具合なのだ。


ならば、私の運営プランナーとしての仕事は決まっている。

不具合の現象を見極め、原因を特定することだ。


「死ねや、オラアアアア」

ケイティ嬢の能動技能アクティブスキル聖撃セイント・スマイト』が突き刺さる。

上位技能の神聖撃セイクリッド・スマイトには劣るが、こちらの防御を捨てて、相手の防御を貫く効果は絶大……。


そのはずだが、彼女の攻撃でも、もはや首を落とすには至らなかった。


「コイツ!!! あの邪神! あの邪神と同じ気配がします!!」

ケイティ嬢が憎々し気に言い放つ。


あの邪神?

あの邪神像ディープ・フィアーか!?

遺跡入口に鎮座していた異形の邪神像を思い出す。


「え~、でも邪神像。なんの仕掛けもない置物だよ~。調べると槍が飛び出す仕掛け入れよ~としたら、スペクトくんに怒られたもん」

魔王ダーナ・ウェルが、暗闇の杖ロッド・オブ・ブラインドをフルスイングして、九ツ首蛇竜ハイドラの首を吹き飛ばしながら、証言する。


確かにそうだ。

あの邪神像は、『水没遺跡』の基盤フォーマット迷宮を呼び出しょうかんした際、初期状態デフォルトで配置されていた偶像オブジェクトだった。


こちらも事前にチェック済みで、何の仕掛けギミックもない背景フレーバーだった。

(だからこそ、魔王ダーナ・ウェルがいらない即死仕掛けギミックを入れようとしたのだ)


だが、邪神像ディープ・フィアー九ツ首蛇竜ハイドラ

2つ揃うことが不具合の発生条件だとしたら……?


九ツ首蛇竜ハイドラ邪神像ディープ・フィアーに対して、元より縁のある存在だったとしたら……。

あるいは、この『水没遺跡』に召喚された時点で眷属化されたのだとしたら……。


この『水没遺跡』自体が九ツ首蛇竜ハイドラにとっての『特別な場所ホーム』となっている可能性がある。

ならば、おそらく再生能力が『休息レスト』に該当しているはず……。


しかし、それだけではLEVELアップの条件は満たしていない。


手番ターンの終わり。

炎雲イドゥンの炎が九ツ首蛇竜ハイドラを焼く。



九ツ首蛇竜ハイドラは火属性が弱点のはず、それなのに炎を嫌がるどころか、むしろすり寄っている?

あえて、ダメージを受けるように……。


そういえばクヴィラ侍女長の攻撃の時もおかしくなかっただろうか。

外れた攻撃を、まるで当たりに行っていたような……。


そうか!


「不具合の概要は掴めました」

私は、仲間たちに向けて説明を始める。


「予測ですが、不具合の発生条件は邪神像ディープ・フィアー九ツ首蛇竜ハイドラが揃っていること」

「やっぱりか、あンの邪神!!」


「発生状況は、戦闘中における九ツ首蛇竜ハイドラのLEVELアップ」

「お~、すごいね~」


「手順は、受けたダメージを『経験EXP』とし、この『水没遺跡』を『特別な場所ホーム』に設定して、再生能力を発動することで、『休息レスト』を行っていると考えられます」


「つまり、再生を許せば、毎手番ターンLEVELアップしていくという訳じゃな?」

「おお~、い~ね~」

良くはない。


「フム、ならどうするかね?」

ラーラ・マズール師が促す。


「あンの邪神像ディープ・フィアーをぶっ壊さねば!!」

ケイティ嬢が気炎を吐く。


「ですが……戦闘前ならいざ知らず、戦闘中に九ツ首蛇竜ハイドラから逃亡して、邪神像ディープ・フィアーまでたどり着くのは至難の業です」

クヴィラ侍女長が冷静に分析する。


確かに、今撤退を行えば、LEVELアップした九ツ首蛇竜ハイドラ素早さAGILITYで先制され、無防備な状態で攻撃を受けることになる。


そうなれば、例え邪神像ディープ・フィアーまでたどり着いて、破壊したとしても、再度九ツ首蛇竜ハイドラと闘う戦力が残っているかどうか……。


「ならば、手はひとつ! 最大火力をもって1手番ターンのうちに、きゃつめを倒しきる」

我らが一党筆頭パーティ・リーダー、ロベルタ狂王女殿下が力強く宣言した。





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