第101話 第3層テストプレイ-痴女でもステディ-

第3層での初戦闘を経て、我らは幾つかの小島を探索した。

※ジャイアント・トード戦を除く、あれはスペクトの着替えを覗こうとした不届きな蛙どもを蹴散らしただけじゃ。


わかったことは、ふたつ。

ひとつの小島につき1回か2回、玄室戦が発生する。

また小島には2艘または3艘の小舟があり、それぞれ行き先が違う。


最初の舟の行先が左寄りだったので、我らは左手の法則で動くことにした。

……そう宣言した時のスペクトの嬉しそうな顔よ。

得意げに迷宮における左手の法則の有用性を語っておったわ、早口で。


貴様、その迷宮に対する愛情を、もう少し身近な人間に向けてみんか?


探索とは別にわかったことがもうひとつ。

錬金術師アルケミニストラーラ・マズールの実力じゃ。


対多数においては、火炎の杖ロッド・オブ・フレイムで1集団スタックに対し、範囲火炎マ・ハイドの効果を発揮する。

破損確率10%と言っておったが、未だ壊れる様子はない。


そして対個人においては、修道僧モンクの技能により火炎の杖ロッド・オブ・フレイムで棒術を用いて闘う。


そして防御面においても、修道僧モンクの『防御強化』の技能と、錬金術師アルケミニストのアイテム知識による幅広い装備。

装備しているのは影のマントシャドウ・クローク魔術師の帽子ウィザーズ・コーンだけだが……。


対多数、対個人、そして全射程オールレンジ対応、さらに防御面も万全。

前衛としては、文句のつけようもない。


また探索においても、有用だった。

感知センシズの呪文で迷宮に隠された仕掛けを感知し、識別アイデンティスの呪文で敵識別を容易にする。

そして何より魔物モンスターからの素材剥ぎ取りの獲得量と品質が段違いだった。


流石、二つ名持ちの冒険者だけのことはある。

痴女でさえなければ、実に安定したステディな能力の持ち主だ。

痴女でさえなければ……。


「それにしても、召喚体の魔物モンスターからも素材が取れるのは奇妙な感じがしますね」


ラーラ・マズール師の剥ぎ取り作業を見ながらクヴィラが疑問を呈す。

クヴィラのげんももっともじゃ。


一時的に受肉しているとはいえ、迷宮内の魔物モンスターは召喚陣より出づる非現実の存在。

倒して一定時間が過ぎれば、死体は跡形も残らず消えていく。

魔物モンスター素材とて、消えてしまっても不思議ではない。


「それは迷宮から一党パーティに、素材の所有権が移譲されているからですよ」


スペクトが嬉しそうに語る。


「召喚された魔物モンスターは基本『迷宮』に属する存在となっていますので、魔物モンスターが死ねば、死体は『迷宮』に吸収されます。しかし、『剥ぎ取り』された素材は一党パーティ所有権が移りますので、『迷宮』に吸収されなくなります」


スペクトの解説はなおも続き、召喚できる魔物モンスターや宝物が、基礎となった迷宮の設計に左右されることにまで及ぶ。


「ですから当然、この第3層『水没遺跡』では水棲系あるいは水陸両用の生態を持つ魔物モンスターが召喚しやすく、宝箱チェストの中身もまた『水』に関係するものが出現しやすくなっております。この関連性を構築している機構は、実はまだ解明されておらず……」


やたら早口で……。


だから、その迷宮への好奇心をどうして我に向けてくれないのか!?












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