第98話 第3層テストプレイ-簡易裁判・被疑者スペクト-

「では、釈明を聞こうか有罪」

「早い! 判決が早いです! せめて釈明を聞いてからにしてください!!」


スペクトとラーラ・マズール師の密室淫行疑惑に関して、簡易裁判を行う。

聞くまでもなく、痴女と密室でふたりきりになった時点で有罪なのだが……。

仕方ない、聞くだけは聞こう。

そののち、有罪判決を下す。


「錬金術の手ほどきを受けていただけですので、誓って疚しいことは……」

「運営人殿……悲しいことに錬金術というのは、世間一般の目には疚しい所業に映るのだよ……」

「どうして、こういう時だけまともな倫理観なんですか?」


「つまり、密室でふたり、疚しいことをしていた……と」

クヴィラが要点をまとめる。


「傍聴人は、どう思われますか?」

「密室でふたりで筋トレをしているのでなければ、疚しいことだと思います」

ケイティ・ルゥが答える。

良くわからぬ理論だが、考慮に値しよう。


「では、もうひとりの傍聴人にもお聞きします」

「密室で、ふたり仲良く迷宮のこと話してるのでなければ、えっちなことだと思います」

魔王ダーナ・ウェルが答える。

待て、その理論には何か引っかかりを覚える。


えっちなことではないかもしれんが、何かとても良くないもののように思える。

法で禁じるべきか?


「待ってください! そもそも狭い密室で行っていた訳ではないんです!」

「フム、聞こうか」


そうだ、例え有罪前提だとしても、何を行っていたかは詳しく聞いておく必要がある。


「錬金術の講義は、ラーラ・マズール一門の錬金工房の大講堂で行っておりました。門下生の少ない時期でしたので、確かにラーラ・マズール師とふたりではありましたが、講堂の扉は開け放っておりではありませんでした」


そうか、それならばいかがわしいことはできないな。

信じておったぞ、スペクト!


「つまり開けた場所でコトに及んでいたと……」

「いやあ、やはりいつ誰かに見られるかわからない状況というのは、実にゾクゾクするねえ!」


信じられんな、スペクト!

いつからそんな変態趣味に走るようになった!?


我とて、王宮庭園の隅の方とか、王座の後ろの隠し階段の下とかなら、そういった趣味に付き合えなくもないぞ!


あ……いや、しかし初めての時はできるだけ人目のつかない場所の方が……。


「では、容疑をスペクトとラーラ・マズール師の密室淫行疑惑から、公然淫行疑惑に変更いたしますね」

「ウム」

「ウムじゃありませんよ! そもそもラーラ・マズール師から錬金術を学んだだけで、なぜ淫行が疑われるのですか!?」


ラーラ・マズール師が痴女で、貴様がスペクトだからだ。

とは思ったが、口に出さずにおいておく。


度量の狭い女とは思われたくない。

フム……度量か……。


「ならばスペクト! この第3層試験運用テストプレイにて、証明してみせよ! ラーラ・マズール師と淫行にふけらず、純粋に錬金術を学んだ成果を!!」

「はっ!」


ここらでひとつ。

我が寛容で、度量が広く、嫉妬とかそういうのはまったくしない点をアピールしておくのも良いかもしれん。


「あと、魔王とふたりで迷宮談義で盛り上がったり、目と目で通じ合ってたりしたら許さんからな!」

「はあ……」


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