第94話 第3層テストプレイ-水着回が始まる-

「なぜ、水着?」

「当然であろう! 水中戦を行うのだ、なんらかの手段で水中行動が可能だろうと、水に濡れた状態で行動し続けなければならんのだ。 適した恰好でなければ、探索行動に支障をきたすであろう。他意はない!!」


Vの字を模した水着を着たロベルタ狂王女殿下がのたまった。

切れ込みが鋭すぎて、実に目の毒である。


確かに、狂王女殿下の言は正論である。

呼吸と水中行動への対策は行っていたが、常時『衣服が水に濡れる』という点には思い至らなかった。


失策だった。

これは直ちに対策を練らなければ。


しかしながら、水着が必要という理屈には納得いきましたが、そこまでの露出度は必要だったでしょうか?


「どうした、スペクト? 何か我に言うことがあるのか?」


ロベルタ狂王女殿下が胸を張って問う。

Vの谷間の部分が非常にあやういので、あまり胸を張らない方がよろしいかと。


「はい、狂王女殿下の仰る通りです。試験運用テストプレイが終わり次第、ボッタクル商店に水着系装備の発注を行います」


水着系装備と侮るなかれ。

露出度の高い装備に限って、耐性や特殊能力付きなど高性能なものが多いのだ。


「ハア……なってませんね。教育が必要なようです」

クヴィラ侍女長に盛大なため息をつかれた。


あれ? 返答間違えていたでしょうか?

王宮側のご指摘を受けて、迅速な対応を取ろうとしたのですが。


やはり露出度が高すぎる点について、指摘するべきだったか?


そう言うクヴィラ侍女長の水着は、『学院指定水練着スクールみずぎ』。

迷宮産出土品ドロップアイテムで、装備すると胸の空白に謎の紋様が浮かび上がる仕様である。


転生者によると、その紋様は『ヒラガナ』なる異世界の文字で、装備者の名前が書かれているらしい。

実に異世界らしい不可解な仕様である。


紺色の水着はロベルタ狂王女殿下のものほど露出度は高くなく、クヴィラ侍女長のスレンダーな体系と相まって、大人しめの印象を受ける。


が、しかしなぜだか背徳感を感じる。

目の毒である。


「ご安心を、クヴィラさん。スペクトさんの教育は順調ですよ。なんでしたら、朝の運動量を増やしましょうか?」


ケイティ・ルゥ受付嬢が恐ろしいことをのたまう。


勘弁してください。

第2層の試験運用テストプレイ以後、毎朝彼女主催の地獄の強制連続ログインボーナスフルマラソンに参加させられ、体力を使い果たして午前中は仕事にならないのです。


そのケイティ・ルゥ受付嬢は、いつものビキニアーマーブレストプレート・オブ・グッドネス……かと思いきや、水耐性を付与された青のビキニアーマーブルーライン・ブレストプレート・オブ・グッドネスだった。

目の毒である。


それならビキニの水着で良いのでは、と思わなくもないが、彼女なりのビキニアーマーブレストプレート・オブ・グッドネスへのこだわりなのだろう。


「おお~、だいじょ~ぶ。あたしも一緒に鍛えるから平気だよ」

魔王ダーナ・ウェルが、死刑を宣告する。

種族最大値の貴女と一緒に鍛えたら、種族最低値わたしは死んでしまいます。


魔王ダーナ・ウェルは、なぜか『サラシバンテージ』と『ふんどし』姿だった。

目の毒である。


「魔王様……なんですか、その恰好は?」

「えとね~、明日来あすらい海女あまさんスタイルだって~」

「誰に聞いたんですか?」

「ボッタクルのムジナちゃん!」


おそらくボッタクル商店はすでに、水着系装備の大売り出しセールに向けて、動き出しているな。


あの狸!

おおかた、迷宮産不良在庫の『サラシバンテージ』と『ふんどし』を、明日来あすらい海女あまさんスタイルと称して売りつけたのだろう。


それから、『サラシバンテージ』はきちんと巻くように。

ほどけかけてますよ。


「スペクトくん、やってやって~」

私に背中を向けてくる魔王様。


「ケイティ嬢、お願いします」

「はい」

さらりとケイティ・ルゥ受付嬢に流す。


それをやってしまったら、なんとなくあやうい気がしたのだ。

が、クヴィラ侍女長が盛大なため息を吐いた。


間違ってますか、対応?


「なあ、運営人殿」

「なんでしょう、ラーラ・マズール錬金術師アルケミニスト


そして、いつも通りの裸マントのラーラ・マズール錬金術師アルケミニストが話しかけてきた。

目の毒である。


「露出度に関しては、吾輩はだかマントが一番低いのではないか?」


仰る通りです。

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