第89話 元転生冒険者クンと復活の呪文

「なあ、先生。どうしてこの世界には病気を治すがないんだろうな?」


隠れ家的酒場『少年科学倶楽部』にて、執筆中だったボクに、『老師』を名乗る青年が聞いてきた。


ボクは元転生冒険者。

2度の異世界転生を経て、今はエロ小説家をやっている。

職業柄『先生』と呼ばれることもある。


どうして、こんなところで執筆活動をしているかとえば、自宅で執筆していると、訓練場の某受付嬢こと筋肉半裸変態エルフケイティ・ルゥが定期的に襲撃してくるのだ。


そして、ボクを無理やり地獄の特訓ケイティズ・ブートキャンプに連行する。

おかげで最近、生命力VITALITYが上がってきた。


毒消しヴィアルフォスの呪文はある。麻痺消しヴィアルミンの呪文もある。だけど、病消しは無い……なんでかな?」


『老師』が質問を続ける。

彼もまた別世界から来た転生者、本名はボクも知らない。

この世界にはないを現代知識チートで新たに作り出そうとしている人間だ。


「単に研究されていないだけ、とか?」

「現在の死因の大半が病死なんだよ、研究に着手してないわけがない」


確かにそうかもしれない。

なにせ、死者を蘇生させる呪文があるのだ。

金銭に余裕さえあれば事故死などはなかったことにできる。


「それなら病死しても、復活レヴィの呪文で生き返らせればいいんじゃ……」

「病死した人間を復活レヴィを使っても、病気が治らないまま生き返って、そのまま再び死んでしまうらしいからね」


「それにね。復活レヴィの呪文は迷宮での死者限定なんだよ」

「え?」


初めて聞いた。


「本来、この世界での死者蘇生には僧侶プリースト系最高位の還魂アンクトの呪文が必要なんだ。復活レヴィはもともと、損壊した遺体を補修するだけの死に化粧……葬儀専用の呪文だったんだよ」

「そうなのか!?」

「おかしいと思わないかい? 呪文位階で言えば復活レヴィは第5位階。第6位階の快癒ラヴィより下なんだよ」


生体の欠損すら修復できるのが快癒ラヴィの呪文。

そう考えると、死体の損壊しか治せない復活レヴィが下位なのは納得できる。


「じゃあ、どうして迷宮内の死者だけが復活レヴィで生き返るのさ?」

「さてね、それは自分にもわからない。アンクト寺院や迷宮都市を運営している王宮側が何か隠しているのかもね」


迷宮都市運営はアーガイン王宮が担っているというのが世間一般の常識だが、ボクは迷宮側……魔王ダーナ・ウェルも運営に絡んでいると考えている。


陰謀論みたいだが、最近ウワサになっている『裏ボス系男子』とやらも、一枚嚙んでいるかもしれない。


それならば、復活レヴィの呪文の件も納得がいく。

魔王級の存在と、魔王すら陰で操る存在ならば、その程度、容易いはずだ。


一つ前の異世界で、邪神と呼ばれる存在と闘った経験がそう告げている。


なぜ迷宮内限定で、復活レヴィの呪文が死者蘇生の効果を発揮するようにしたのか、その理由はまったくわからないが、きっと邪悪な企みに違いない。


◆◇◆◇


「ね~ね~スペクトくん」

「なんです、魔王様」

「なんで迷宮で死んだ人たちって復活レヴィの呪文で生き返ってるの~?」

「あー、それですね。なぜできるかは、私を含め誰にもわからないんですよ」

「ほへ?」

「迷宮は、現存している先史ウィズダム文明の機構システムを利用していますからね。使えるから利用しているというだけで、どうしてそういう設定にしているかとか。どういいう理屈で可能にしているかは、失伝しているのが現状なんです」









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