第14話 天災を生きる獅子+暗を生きた猛獣 Ⅲ

「クソ、クッソ…がぁ!」


自身を格下にしか見ていない癖に、一切隙を見せていないのに腹が立ったのかもしれない。


刺客は魔法の砲撃をグリムの全方向に固定、展開し、グリムに放とうとするが、グリムは決して動じる事は無い。それどころか、問題は存在していない、と言わんばかりの沈黙にして静寂。


それは何故か。背後に居るからだ。その実力を認めた者が。


シュッ、と風切り音と共に、魔法の砲撃が展開されている空間ごと切り裂く。


「流石だね、クリス」

「流石だね、じゃない!怒りによって魔力の質が高まった攻撃、今度は無傷じゃ無かったでしょ。それなのに避けようとしないなんて」

「信じていたからな。クリスの事を。空間を切り裂ける事も、俺を助けてくれる事も」

「最近会ったばかりなのに、何を言ってんの」

「俺は本当の事を言っただけだぜ?どんなに出会ってから月日が経ったとしても、信じない奴は信じない。だから、信じる奴が居たら、時間が少なくとも信じるさ。信じるに値する者がクリスだからな」

「あっそ」

「もしかして照れてる?」

「照れてない!」


襲撃され始めた頃と真逆の立ち位置に立ち始め、元に戻った事に笑みを浮かべる。


やはりと言うか、グリムは照れてしまう受けよりも、照れさせる責めの方が好きなようだ。


「さて、あの刺客君は随分と君たちヴリアルケルンの丸薬と類似しているのを持ち合わせているようだね」


グリムとクリスはそのような会話をしていれば、刺客から魔力によって発生した暴風が二人を襲う。


噛み潰した物は、先日ヴリアルケルンによって製造された黄金の丸薬によく似ていた。それは決して勘違いという事では無く、開発した魔法の一つ、物質の性質を見分ける『玉傀ファンタニスタ』で鑑定をしたのだから。


そしてそれで浮かんできた疑問が一つ。何故こんなにも類似しているのか。丸薬の効果を調べた性質は殆ど同じと判断された。最終的な結果の性質は違うものの、それ以外は同じなのだ。


丸薬の効果が喉から広がり、魔力の波が心臓まで即座に到達し、内部から人間を塗り替えていく。効果も、強化幅も。全くの同じ。


「違う点を挙げるとすれば、最終の結果かな。というか、それしか存在しないのだけど。過程、それが驚く程に類似している。いや、類似しすぎてしまっている、の方が正しいかな。結果はそれぞれの組織の方針で違うのかな?」

「本当に、どこまで知っているのだか」

「その話は後でね」


そのような言葉と共に、二人は後ろへと飛び退く。元いた地点には、魔術によって肥大化された巨大な拳が当たっていた。今回に使用をされた黄金の丸薬は戦闘後に絶命をしてしまう、ある意味自殺薬。それを使ったからに、命を奪おうと必死なのだろう。


まあ、奪わせるつもりは微塵も存在していないが。グリムにはミカ達家族が。クリスには己を拾ってくれた組織と絶命してでも行わなければいけない悲願が。


心の奥底にある思いが全身に回る。何ものよりも熱く燃えたぎる意思が体を突き動かす。両者が動き出したのには瞬時の歪みズレしか無く、最小限の魔力で脚のつま先に強化の魔術を発動させる。


超速と言っても遜色が無い速度で近づく二人。先ず攻撃に、と打撃を打ち出したのはグリム。動きの小細工など一切なく、一直線な一撃。速度と力。そしてより大きい痛手を与える為だけの一撃。


次に繰り出したのはもう一人のクリス。腹に重い一撃を受けた事で怯んでいる刺客の首に回し蹴りを叩き込む。何方も殺す気で放ったのだが、まだ絶命はしていない。流石は命を代償として強くなる丸薬と言ったところか。


だからと言っても、コレで終わる訳が無い。『宝来鳳来』を物体生成魔法で生み出したナイフに付与を放つ。新しく開発をした魔法、魔術実験で体験した『宝来鳳来』の危険性を知っているからか、当たらない様にうまく避け続けているが、狙いは違う。


必死に避けている刺客に嘲笑うかのように向かう絶望の使者クリス。加速の魔術を己に掛け、先程の速さで目が慣れていたであろう刺客に反応をさせず、腹部に両手を広げて当てる。トンッ、と軽く触れれば、退いていくクリスに何をしたかったのか、それが分からなくなる刺客。


だが、目的はすでに狙いは既に達成をしていた。


「がっ!」


数秒後、刺客の懐には衝撃が突き刺さっていた。使用をした魔術はグリムが独自で生み出した魔法、『還収六角イープアープ』。それは六つの衝撃魔術が内包されている魔術である。そして今回クリスが使用した『還収六角』は一番使用が簡単な『一段天正カーニスタ』。


一番簡単な割に、威力が他の衝撃魔法や衝撃魔術よりも遥かに高い魔術である。


「嘘でしょ、コレで一番簡単なの?戦った時も感じてたけど、魔力操作うま過ぎだと思うんだけど。どんな鍛錬をしていたら其処まで至れるのだか」

「昔、弟が言ってな。『まりょく使うとき、なんかうしなう感じするの。あれ無くなったらむてきだと思うのになー』と。魔法師、魔術師にとっては当たり前となっていたが、幼い子供で魔法師でも魔術師でも無い彼奴には当たり前じゃ無かったんだ。其処からだな、俺が魔力を操作する上で確実に発生する喪失を無くそうと努力し始めたのは」


大変だった日々__現在進行形でしているので今もなのだが__を思い出し、遠い眼をしているグリムであるが、クリスからは呆れた様な眼で見つめられる。


その視線にいやんいやん、と言いながら体を捻っていると、心の底から出したような「キッッッッモ」という嫌悪の声が耳に入り、……その隙に、グリムは大きな攻撃を受けた。


「ガァァアァアアァ!!」

「おー、こんな呑気な話してたら理性が吹き飛んじゃったみたい。大変そうだなー。同情しちゃうなー」

「微塵も思ってないくせに何を言ってるんだか。少しはマジメにして。グリム」

「はーいはい」


その言葉と共に、グリムは本格的に腰を入れ始める。相手の実力を測る為に普段から『すろーすたーたー』なのだが、今回はもう終わり。既に測り終えた。


クリスは、自身に課していた魔力の枷を一つ取る。グリムと交戦した時の力では無い。必要など無いのだろう。


余裕な態度を終始崩さない二人を目の前にして、突如叫び声が口から発せられ、周囲に響き渡る。


「オ前ラ、ブッ殺シテヤル!」

「「断る!」」

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