第11話 魔法師&魔術師 Ⅶ

「ごめんな?少しからかい過ぎちゃった。つい可愛くて」

「……」


テスタロッサ領の街を歩きながらそう口にするグリムに対して、クリスは何も口をしない。けれども、耳を赤くさせているので、照れてはいる。可愛いと感じ、ニヤニヤと笑みを浮かべていれば、二の腕に強烈な一撃を受ける。


魔力の籠った攻撃ではあるが、受ける前に一部を魔力で覆ったので問題は無い。特に『だめーじ』を受けていなさそうなグリムに、クリスはグーイスハムスターのような魔物のように頬を膨らましているが、ただ可愛いだけというのは気づいているのだろうか。


「いやー、随分と親しく接してくれるようになったな。仲良くなる時間が短すぎて心配になるけど」

「失礼な言い方。私はグリムだからこんなに信用してるんだけど。優しさとか、口が硬い事とか、歩んできた道は違うのに一生懸命理解しようとしてくれている事とか。その全てが嬉しくて、信用に値するから親しく接してるの」

「そうなんだ。ありがと」

「むー、何で照れてないの」

「照れてるよ。言われる機会なんて無いから。でも貴族だから、女を利用した罠があるかもだからさ。だから顔にはあまり出してないの」


納得した様子を出しつつも、悔しそうな感情を同時に出すクリスについ笑み浮かべてしまう。


ヴリアルケルンの構成員として活動した時は感情を押し殺していたらしく、その反動として此のように感情を出してくれるのは嬉しく思う。ソレはグリムを心の底から信用している、という証だから。言葉で分かっていても、それが自分でも理解できると嬉しい物がある。


浮かべた笑みにクリスは不思議そうにしているのだが、すぐさま露店に売ってある焼き鳥に目を映し、瞳を輝かせていた。


青光鳥ウォールバード。世界に溢れる魔力で出現する最も多い魔物の一つだけど、美味しさは他の魔物と比べ物にならないくらい美味しいよ。青光鳥の群れは食の宝庫と言われる程美味とされている。テスタロッサ領は青光鳥は多いからな、沢山取れたんだろ」

「食の宝庫…!?あ、でも私お金持って来てない。どの返事を貰っても即帰るつもりだったから」

「だったら俺が奢るぜ?無理言って誘ったのは俺だからな。特に食べたい味はあるか?」


奢る、その言葉に申し訳そうな顔を見せていたが、引くつもりは無い、と悟ってしまったのか、「特に無いよ」という肯定と意を示した後、焼き鳥を買いに行くグリムを手を振りながら見送る。


鞄に手を入れる素ぶりをしながら亜空間倉庫の魔法を発動し、銅貨を取り出す。青光鳥の値段は銅貨二つなので、焼き鳥二つ分の銅貨四枚をピッタリにして渡す。そして受け取ってから数秒後、筋肉質で髭が生えている露店の主人である男はニヤニヤとしていた。


「グリムの坊ちゃん。背後に居る子は坊ちゃんの恋人ですかな?」

「うん?あれ、ヴォイじゃん。こんなところで何してるの?」

「嫁が一度露店をしてみたい、との事で俺は付き合ってるです。ですが、坊ちゃんも知っての通り嫁は体力が無くて」

「なるほど、休憩中って事ね。後言わなくちゃならない事が一つ。クリスは俺の恋人ではないよ。まあ、伴侶にしたいか、と聞かれれば即答でクリスと答えるけど」

「へぇ、それはどうして?」

「分かって聞いてるでしょ、それ。……クリスが待ってるから、早くして」


何故様々な貴族とのお茶会やお見合いをしているグリムが伴侶にしたいのがクリス一択なのか、というのは理由がある。先ず一つ、香水を付け過ぎて臭く感じる。二つ、貴族とは生まれ育ってきた環境のせいで大体高飛車で性格が悪いから。三つ、自分を選ばれた者だと思うのが多いから。


これがグリムが伴侶にするならクリス一択、と口にする訳である。貴族にも性格が悪くない者が居るのであろうが、貴族というだけで悪い先入観が働いてしまう。先に出会ったのが良い貴族なら、此の先入観は変わっていたかもしれない。


青光鳥の焼き鳥を硬貨との交換で手に入れた後、待ってくれたクリスに渡そうとすれば、頬と耳が赤いのが目に入った。


一緒に居た訳でも無いのに、頬と耳を赤くするなど、思い当たる原因は一つしか存在していない。少し失敗をしたな、と思いつつも、話し掛ける。


「聞こえちゃった?」

「聞こえちゃった。伴侶にするなら私が良いって」

「まじか〜、聞こえちゃったか」

「否定、しないんだね」

「否定をする程内容が濃い訳じゃないでしょ。俺は薄い話に評価を下さないからね。今まで出会ってきた中だと一番伴侶にしたいってだけ」

「そう…焼き鳥、もらうね」


クリスはグリムの言葉に何と答えて良いか分からず、焼き鳥を食べる選択をしたが、正解である。グリムも此のようなつまらない話を何時までもしたいとは思わない。


青光鳥の焼き鳥を食べて目を輝かせているクリスに続き、グリムも食べ始める。青光鳥は街に来た時、毎回のように露店で食べてはいるのだが、流石は鳥の魔物では上位を争う程の青光鳥。どんなに食べても飽きは来ない。


「割と大きい塊といえども、四個。すぐに無くなってしまうな」

「本当にそうだよ。美味しすぎるのは罪なんだね」

「ふっふっふ。クリスさんやい。これ程では無いが、そんな罪深い食べ物がこの街に沢山ありますぜ。回りまくる?」

「回る!」

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