第8話
馬車の旅は1日で終わるということはなく、都合よく町にたどり着けるということもない。
そのためルーク達は野宿を行うことになる。
王都への旅で慣れているルークは、今回の旅は大人数な事もあって物資が豊富であるためいつもより快適な野宿であった。
しかし、セレスティアやリーゼロッテは旅の経験がないため、戸惑った様子である。
それでも旅の質素な食事に文句は言わない。なんなら旅の疲れで腹が減っていたのかしっかりと食べていたくらいだ。
食事を終えた後は、疲れを取るために早めに就寝する。
ルークの前世の旅行のように食後の娯楽にトランプでもなんて余裕はなく、しっかりと疲れをとらねば翌日の馬車で体調を崩すことは必至である。
勿論、セレスティアとリーゼロッテと寝る場所は別である。
婚約者とはいえまだ結婚はしていないので、セレスティアとリーゼロッテは女性兵士やメイドに守られてゆっくりと寝るのだ。
ルークが就寝前に夜の番をする兵士達を見回りにテントの外へ出ると、別の場所で番をしていないといけない女性兵士が困った様子で一つの方向を見ていた。
「なにかあったのか?」
「ルーク様、申し訳ありません。あれを……」
ルークが女性兵士の見ていた方向を見ると、そこではセレスティアが1人で必死に剣を振っていた。
「申し訳ありません。私達は止めたのですが、セレスティア様は聞いてくださらなくて……」
女性兵士の話では、セレスティアは昼の襲撃時に何もできなかった自分を悔やんで、素振りを始めたそうだ。
話を聞いたルークは苦笑いであるものを用意して、セレスティアに声をかけた。
「早く寝ないとお肌に悪いですよ?」
一心不乱に剣を振っていたセレスティアは、ルークの声を聞いて手を止めてゆっくりと振り向いた。
「肌なんて別にいいわ。それよりも今日の不甲斐ない私のままの方が問題なのよ」
セレスティアは意志の強い瞳でルークを睨んだ。
「私は聖剣なの。スキルを使えない貴方に助けられているようでは、王族として失格なの!」
ルークはセレスティアの言葉にため息を吐いて、セレスティアに近づくと、持ってきた温かい飲み物の入ったカップを渡した。
「だから、私にそんなことしてる暇は——」
「そんなに無茶苦茶しても何も変わらないよ」
「な!」
ルークの指摘にセレスティアは絶句した。
「スキルを貰ってもさ、経験を積まないと使いこなせないんだよ。俺があの時魔物の攻撃を防げたのは子供の時から家庭教師に習って経験してたから。それでもスキルがないからあのていたらくだけどね」
ルークは自嘲気味に笑って、セレスティアに渡したのとは別の飲み物を啜った。
「あんた、いきなり喋り方が変わったじゃない?」
「こんな話、かしこまって話しても意味ないでしょ? 今は旅の途中でさ、セレスティア様が無茶して何かあれば迷惑がかかるのは兵士達だよ。今の僕達は兵士や指揮官じゃなくて護衛対象なんだから。一朝一夕に実力が上がるわけじゃなし、まずは領地についてから訓練しなよ」
ルークの正論に黙ってしまったセレスティアを置いて、ルークは飲み物を空にして踵を返した。
「迷惑かけないように早く寝なよ! 護衛の人達もどうしていいか分からず困ってるんだから。ほら」
ルークが女性兵士がいた場所を指差すと、セレスティアは無言でそちらを見る。
急に2人に見られた兵士は恐縮そうに頭を下げた。
「迷惑かけたらダメだよ。それじゃ、おやすみ」
ルークはその後、夜の番の兵士達に労いの声を掛けると、セレスティアが剣を振っていた場所へ戻ってきた。
「うん。ちゃんと寝たみたいだね。さて、僕もちゃんと寝よう」
ルークは小さく欠伸をすると、自分のテントへ戻るのであった。
◆◇◆◇
「おはようございます。セレスティア様、よく眠れたようですね」
次の日の朝、クマなどはないセレスティアの顔を見て、ルークは笑顔で声をかけた。
「昨日みたいな話し方どいいわよ。別に」
セレスティアはそう言うと、不貞腐れたようにツンとした様子で先に馬車へ乗り込んだ。
ルークは苦笑しながら、その後に続いて馬車へ乗り込むのであった。
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