週末だけ神主見習いをする俺の日常生活がハチャメチャなんだが  ~異世界とつながる神社に生まれた俺は魔王を父に持つ~

白神ブナ

第1章

第1話 今週末は異世界との結界を解く予定

初夏の夕方、自転車は川を渡る橋にさしかかった。


「だから、何回頼んでもダメだって。週末はモブ爺ちゃんから大事な仕事に立ち会うように言われているんだ」


学校から自転車で下校している途中で、

友達の頼みを断っている俺は、斉木紫音(さいき しおん)、高校2年生だ。


「週末の地方大会の予選だけでいいからさ、助けてくれよ斉木。それにさ、お前は茶髪で目立つし身体能力も高い。

お前がベンチ入りしてくれれば女子の応援がいっぱい来るから、俺ら野球部員はモチベーション上がりまくりよ。」


「どういう理由だよ、それ」


俺の後ろで自転車をこぎながら頼み事をしてくるのは、同級生の狩野。

こいつとは、家が近くで幼馴染だ。

昔から仲が良くて、俺は狩野の所属している野球部の助っ人に週末だけ駆り出されることがある。

ベンチ入りしたら3000円、ピンチヒッターで活躍したら5000円と報酬がもらえるいいアルバイトだ。(これは内緒ね)

だが、今週末だけは助っ人アルバイトに行けない理由があった。


「なんで週末ダメなんだよ。モブさんに何かあったのか。まさか、不思議な古文書を見つけたとか」


「……なんでわかった?」


「げっ、マジかよ。冗談で言ったのに」


モブさんとは俺の爺ちゃんのこと。



夕日に輝く川を見ながら、俺たちの自転車は橋を渡り切って右に曲がる。


「都市伝説かよ。斉木の家は昔から不思議な神社だしな」


「それを言ったら、おまえんちだって神社の氏子じゃないか。不思議な神社の氏子のくせに都市伝説とか言うなよ」


角の中学校を曲がるとそこからは長い登り坂が続く。

この長い登り坂を上りきったところにある神社が俺の家で、狩野の家は神社への道路両側に並ぶ氏子のひとつだ。

一本の登り坂が始まる地点から、俺たちは自転車を立ちこぎするのが習慣になっている。


「行くぞ、狩野、ここから立ちこぎ。この道なら、古文書について話してもいいかな。どうせ誰も歩いていないし」


「よっしゃ! 負けるもんか。不思議な話を聞けるのなら、絶対離されないで付いていくからな」


俺の神社のことは学校で話さないようにしている。

なぜなら、俺の家はかなり不思議な神社で、その不思議に関わる内容は集落以外に口外してはならない掟があるからだ。

集落の氏子たちは昔からその秘密は知っていて、特別に不思議がることもなく、秘密を口外しないことという掟はずっと厳守されてきた。


「数か月前に、爺ちゃんが廃村になったところの神社に行って古文書を見つけたんだって」


「爺ちゃんって、モブさんだよな」


実は、爺ちゃんは周囲の人から『モブ爺ちゃん』か『モブさん』と呼ばれている。

何故そう呼ばれているのか、その理由は俺もはっきりとはわからない。

ただ、婆ちゃんが爺ちゃんをモブと呼んでいたから、すっかり『モブ爺ちゃん』か『モブさん』で定着してしまっている。


「神社も担い手不足だもんね。モブさんはいくつかの神社を掛け持ちしているんだってな」


「それそれ、限界集落で消えそうな村もあるし、祠が壊れている神社もあって、結構大変なんだよ」


「へぇ、斉木はそんなところまで行くのか。週末の神主見習いも大変なんだな。で? 古文書に何が書かれていたのさ」


「それなんだけど、はっきりと教えてくれない。とにかく、危機が迫っているから異世界からある人物を召喚して協力を求めるとか・・・」


「すっげ! 異世界から誰かを召喚するのか。はぁ、はぁ、・・・きっつい! この坂」


異世界との結界を解く白滝神社。

これが不思議な神社と言われる所以だ。

しかし、いつも召喚の儀を行っているわけではない。

今週末に行う召喚の儀は何十年ぶりで、俺が生まれてから初めてのことだ。


「はぁ、はぁ・・・・斉木、お前よく平気で息を乱さずに会話できるな。お前超人かよ」


「小さいときから爺ちゃんに鍛えられているからな。この坂道も鍛錬のひとつだよ」


「その高い身体能力でピンチヒッターってのは、もったいないよ。

お前も野球部に・・・入って・・・あ、俺はもう限界。立ちこぎ無理っす」


狩野は脚力に限界がきて、ついに自転車を降りた。

息をはぁはぁさせながら自転車を押して、俺についてくる。


「ほらほら、どうした。早く俺に追いつかないと話ができないじゃないか」


「待ってくれよー。その召喚に俺も立ち会っちゃだめかぁー?」


狩野の奴、何を言い出すのだ。

週末は野球の地方予選があると言っていたのに、試合に出ないつもりなんだろうか。

俺は聞こえないふりをした。


「何言ってるのか、聞こえないよぉぉぉぉ。じゃあなぁぁ」


俺は全力で一の鳥居まで立ちこぎのスピードをあげて逃げ切ることにした。


「待てよぉおおおお。くっそぅううう。いいよ、母ちゃんに頼んでみるから」


狩野は自転車を押しながら、速度をあげて走ってくる。

その形相は非常に怖いんですけど・・・


「母ちゃん? お前、ガキかよ」


「なんだ、聞こえてるんじゃん」


「ふっ、かなわないな、狩野には」


俺は思わず笑ってしまった。

狩野もつられて笑い出した。

一の鳥居に着いた頃には、二人とも汗びっしょりになって笑いあっていた。

鳥居の横の石柱には『白瀧神社』と書かれている。ここが俺の家だ。

石柱の横に自転車を置いて、俺たちは地面に寝転んだ。

見上げると夕焼けの空にオレンジ色の雲が流れていく。

ここまで坂を登ってくると、街とは違う時間が流れているようだ。


カナカナカナカナ・・・・・・

ヒグラシが初夏の境内で鳴いていた。

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