アメリカに降り立ったら、空港で武装した警官達に銃を突きつけられた話①

「貴方、一人でアメリカへ行くの?」


 国際線の飛行機でたまたま隣になった白人女性に声をかけられた。彼女はウェーブがかった癖のあるブロンド髪をヘアゴムで一つに束ねており、アメリカ人らしいぽっちゃりとした体型をしている。


 N子は将来は自分もこんな体型になるのかなぁ……と少し不安に思いながら、「そうですよ」と返事をした。


「語学留学? それとも母国へ帰るのかしら?」


 この言葉で察したかもしれないが、N子はアメリカ人と日本人のハーフだ。髪や肌の色は日本人寄りだが顔の彫りが深く、目の色がヘーゼル色だからか、日本にいても英語で話しかけられる事が多かった。


 N子は微笑みながら、小さく首を振った。


「どちらも違います。亡くなった父の遺骨を墓地へ埋葬しに行くんです」

「まぁ、そうだったのね。貴方、まだ二十代前後に見えるけど、受け答えがしっかりしてるわね。お母様はアメリカにいらっしゃるの?」

「えぇ。母が向こうで待っていてくれているんです」


 N子はにこやかに答えたが、変な気を遣わせたくないという思いから、母親も既に他界しているとは言わなかった。


「それなら安心ね。でも、このご時世に一人でアメリカだなんて勇気あるわね。つい数年前にワールドトレードセンターにハイジャックされた飛行機が突っ込んだというのに――」


 当時の事を思い出したのか、白人女性は憂いを帯びた目に変わる。


 アメリカ同時多発テロ事件は9.11事件ともいわれており、この最悪な事件はイスラム過激派テロ組織の手によって引き起こされた。


 ハイジャックされた飛行機がワールドトレードセンターへ突っ込み、黒い煙を上げて崩れ落ちていくのを目の当たりにしたN子は、ショックで学校へ行けなかったのを今でも鮮明に覚えている。


「あの事件以降、空港の警備もかなり厳しくなったし、ハイジャックなんてもう起こらないとは思うけど、一人で移動する時は気を付けるのよ。お手洗いの時は特にね」

「はい、お気遣いありがとうございます」


 その白人女性とはそれきり喋らなくなった。

暫くして彼女はお腹が減ったのか、お土産で買ったであろうポテチの袋を手提げ袋から取り出し、気圧でパンパンになった菓子袋を両手でポンッ! と快音を鳴らして開けた後、ポテチをムシャムシャと食べ始めた。


 これからアメリカまで約半日。空港から外へ出るまで更に時間が取られるだろう――そう思ったN子は寝れる時に寝ようと思い、イヤホンを耳に装着して目を瞑った。

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