神童アリオンによるチート令嬢の育て方【名門ハーツ学院特待生アリオンの大誤算】

夢幻の翼

第1話 学院からの依頼と子爵家

 その日、僕は学院から渡された依頼書に指定された場所に来ていた。


「だからこれを見てください。学院から正式に発行されているものですから。それに学院から僕が来る事を事前連絡してあるはずなのでその確認をしてください」


 正式な学院からの依頼書を持参しているにもかかわらず門番は何度説明しても首を縦に振らない。


「ふん。確かに学院から家庭教師を派遣してくるとの連絡はあったが、カリオスト子爵様のご令嬢に対してこのような者を寄越すとは考えられん」


 もう、何度目か分からない問答に僕は正直うんざりしていた。


 確かにこの門番の言っている事も理解出来る。僕は今年学院に入学したての十二歳になったばかりなのだから。


 そんな僕に貴族令嬢の家庭教師なんて務まるはずがないという先入観は当然だろう。


 ――ハーツ学院。


 十二歳〜十八歳が通う学院で勉学の他に貴族に必要な教育や魔法の使い方から護身用の剣術まであらゆる分野で王都一のレベルと実績を誇る伝統ある学院である。


 国内の住民であれば年齢さえ達していれば身分関係なく受験することが出来てあたかも誰にでも門は開かれているように謳っているが、実際は高度な知識と高額な授業料が必要で、幼い頃から英才教育を施されてた貴族の子女か裕福な商家の子息が主な生徒だった。


 それでも学院長の方針で平民から極めて優秀な生徒を特待生として授業料免除にて入学させている。ただし授業料免除の対価として彼等は学院長からの依頼をこなす事が義務づけられているのだが。


 そして僕は今年その特待生として入学していた僕に対する学院長からの依頼は次のようなものだった。


◇依頼内容:カリオスト子爵家令嬢のフローラ嬢の家庭教師。


◇対象者詳細:子爵家の長女。現在十一歳で来年春に当学院を受験する予定だが学力は及第点。しかし実技が合格基準点に達していない。


◇依頼期限:来年の受験合格まで。


◇依頼報酬:成功報酬は学院授業料。なお、失敗した際は無報酬とする。


 神童と呼ばれた僕には達成出来る目算はついていたが最後の報酬のところが厄介だった。依頼に失敗して無報酬なら学費が払えず退学になるからだ。


 僕は気を引き締めて準備万端に子爵邸へと向かったが思いもしないところで失敗の芽が現れた。


(……能力をひけらかすのは好きじゃないけど仕方ないか)


「ちょっとこれを見てください」


「まだ居たのか、早く帰……」


『レヴィテーション』


 魔法を唱えると、僕の身体はふわりと宙に浮く。これは結構な上級魔法だ。ついでなので、鳥よりも速い速度で辺りをぐるぐると飛び回ってやった。これが使える人はそうはいない。


 通りがかった人たちが僕を見て歓声を上げた。


「ち、ちょっとここで待て!」


 少し青ざめた様子で門番は慌てて確認しに門の中に入って行く。数分後、やってきた執事の案内で広い庭を通って屋敷内の応接室に通される。


「少しここで待つように」


 案内してくれた執事の言葉に頷いて暫く待つと数分後にドアの開く音と共に壮年の男性と幼い女の子が入ってきた。


「アリオン・メビウスと申します。この度は学院よりお嬢様の家庭教師の依頼を命じられて参上致しました。こちらが依頼書になりますのでご確認をお願い致します」


 僕は先に挨拶をしてから依頼書を提示し、ゆっくりと丁寧なお辞儀をした。それを見た男性が頷くと話を始めた。


「ダグラム・フォン・カリオスト子爵だ。そしてこちらが娘のフローラになる。詳しい事は依頼書にあるが最初に君に聞いておく事がある」


「はい。どのような事でしょうか?」


 質問の内容はだいたい予想はつくが、あえて相手に優先権をゆだねる。


「学院からの連絡によると君は今年学院に入ったばかりの一年生との事。学院で右も左も分からない君を家庭教師として送り込んできたからには相当な自信があるのだろうが率直に聞く、娘を学院に合格させる自信はあるか?」


 予想どおりの内容に僕は事前に用意しておいた模範解答を話した。


「はい、もちろん自信はあります。確かに僕は今年入学したばかりです。ですが僕は今年の入学試験にて首席合格を果たしております。それはつまり入試対策に関してならば僕以上の適任者は居ないと言うことであり僕を全面的に信用してくださる事がお嬢様の合格に繋がる事をお約束します」


(よし! 完璧だ!)


 僕は子爵家当主を前に自信を全面に押し出してアピールをしたのだが子爵はなにやら考え込んでいる様子だ。


(何か心配事があるのか?)


 そう考えていると、横からフローラが発言をする。


「お父さま、私は問題ありませんので彼に頼まれてください。学院首席ならば頭は良いのでしょうし、もしも教えるのが下手ならばまた先生を変えてくだされば良いだけの事ですわ」


だって?)


「分かった。君に娘の家庭教師を正式に依頼しよう。但し、いくつか条件があるのでその確認をしてから大丈夫ならば契約書にて契約をしてくれ」


 子爵が出した条件とは。


◇娘の家庭教師をする際には必ず侍女等を同席させること。


◇時間は授業後から夕食前まで、学院が休みの時は必要に応じて行う。


◇月に一度定期試験を行う。その時に成績向上が見られない場合は学院に報告し、家庭教師の変更を申し立てる。


 以上のような常識的な内容だったが、さっきの言葉がすごく気になる。でもやらないという選択肢はない。


「仰せのままに。つきましては学習が出来る部屋と実技の訓練が出来る場所の提供をお願いします。それと家庭教師を行うに先立ってお嬢様の今の状態を知りたいですので面談の許可をお願いします」


「分かった。あとは執事の指示に従ってくれ。娘を頼むぞ」


 カリオスト子爵はそう告げると部屋を出て行った。

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