第19話 ふたりでキノコ集め
ブリーウッズの森に入るのは、俺ひとりのつもりだった。
キャロルには狼と一緒に、ブラックレオンの亡骸を持って帰ってもらおうと思ってたんだけど、彼女は意外にも俺についてきたんだ。
「キャロル、もう森は怖くないのか?」
「はい、今はお兄さんがいますから」
美少女にこう言われると、男として守ってやらないとな。
……キャロルの方が俺より強いってのは、今は言わないでくれ。
「それにしても、随分と急ですね。キノコ類の素材は、物置にあったと思うんですけど……」
さて、俺が森に入っていく理由を、キャロルは知らないみたいだ。
「昨日まではな。ブランドンさんから、何も聞いてないのか?」
「お父さんが、何かしたんですか?」
なるほど、ブランドンさんは困りごとを娘に隠してたみたいだな。
「……実は、キャロルが肉屋に夕飯の食材を買いに行ってる間にな……」
ほわんほわんいおり~。
俺が思い返すのは、昨日の昼間の出来事だ。
その日もブランドンさんは、いつも通り便利なアイテムを合成させようとしてたんだけど、今回はとことん失敗続きだった。
不思議なキノコと『動く石』を合わせて、簡単な手伝いをする『キノコゴーレム』を作ろうとしたんだけれど、動かないか爆発するかを、もう5回は繰り返してたんだ。
『ブランドンさん、もう無理ですって! アイデアは面白いですけど、キノコの在庫がなくなりますよ!』
『も、もう1回、もう1回だけ! 俺っちの長年の勘が、今度こそ成功すると……』
パチンコ中毒者みたいな目つきでブランドンさんが合成すると、今度は成功した。
『キノキノキノキノキノキノキノーッ!』
ただし、制御はできなかった。
キノコに手足の生えた珍妙な生物が、店の中で爆走し始めたんだ。
『わーっ! 逃げたぞイオリ、追ってくれーっ!』
棚のアイテムをひっくり返すわ、部屋中を駆け回るわ、もう大変だった。
「……と、いうわけ。キノコゴーレムは暴れ出す前に俺が生成した猫が食べたし、物置にはキノコはほとんど残ってないな」
「もう、お父さんってば……」
一部始終を聞いたキャロルは、歩きながら頬を膨らませる。
「今日中にキノコを使ったアイテムの納品を頼まれたら、もう一度ブリーウッズの森に来ないといけないからな。ここで必要な分、集めて帰った方がいいだろ?」
キャロルが頷くのを見て、俺は地面に手をあてがう。
「そんじゃ、案内人を生み出すとするか! スキル【生命付与】!」
すると、後ろを歩いていた鋼の狼の部品の一部が飛んできて、土を覆うようにまとわりつき、1匹の豚へと生まれ変わった。
『ブヒー』
土に【生命付与】しながら、狼の素材にした鉄の部品を体の一部にする。
こうすれば、土だけで造るよりもずっと強度を高められるってわけだな。
「オークは怖かったですけど、こっちの豚さんはかわいいですね」
『ブー』
「トリュフを探すなら、豚に手伝わせるのが一番早いって言うしな。あいつについていけば、キノコが見つかるはずだ」
ぶひぶひと鳴きながら、【生命付与】で生み出した豚は森の奥にとことこ歩いてゆく。
そうして間もないうちに、拓けたところに大量のキノコが自生しているのが見つかった。
「ありました、お兄さん! キノコがこんなに……!」
嬉しそうな顔をして、キャロルはキノコを引っこ抜く。
「『バクハツタケ』に『ソラシイタケ』、『エノキッポイノ』もあります。これならきっと、『キノコゴーレム』だけじゃなくて、しばらくキノコ類の素材には困らなさそうですね」
「ついでに余った分は、ブランドンさんにキノコスープにでも……ちょ、おい!」
『モグモグブー』
「食べるなって、貴重な素材なんだぞ!?」
ぶーぶー言いながらキノコを食べていく豚を引き離しながら、俺とキャロルでキノコを収穫して、持って来た麻袋に投げ込んでゆく。
それでもこっそりキノコを食べたんだから、豚の食欲ってのは大したもんだ。
結局、豚が食べるのは仕方ないと諦めて、残った分だけふたりで集めてしまった。
「2割くらいこいつが食っちまったが、これだけ集めれば十分だな」
予想以上の収穫で、麻袋はパンパンだ。
土と鉄製の豚はまだ物欲しそうに俺を見てたけど、指を鳴らしてスキルを解除すると、土の中に戻ってしまった。
「そろそろ帰るか、キャロル……キャロル?」
麻袋を狼の首元に巻きつけた俺のそばで、キャロルはおかしな様子でうつむいてた。
「……チャンス……近づき……ふたりきり……」
しかも、何かを考えているようなキャロルが、いきなり俺の腕に手を組んできたんだ。
「わっ!? ど、どうしたんだよ!?」
女の子の柔らかいものが全部当たって、俺みたいな経験なし男が驚かないわけがない。
肌の温かさを感じるほどの距離に、必死に理性を保とうとしていると、キャロルの少し上ずった声が耳に入ってきた。
「あ、あの、私……やっぱりまだ、オークのことを思い出しちゃって……」
そう聞いた途端、俺は自分の
俺を手伝いたい気持ちで森に入って来てくれたけど、やっぱりまだ怖いんだ。
そりゃそうだよな、無事に助かったとはいえ、オークに追いかけ回されて殺されかけるなんて最悪の恐怖体験だ。
「ちょっとだけ、くっついてもいいですか……?」
キャロルのお願いを、断るわけがない。
「ああ、いいぞ。森から出るまで、離れないようにしような」
俺は彼女の頭を撫でながら、狼と一緒にブリーウッズの森の出口まで歩きだした。
「お兄さん、あったかいです……ふふっ♪」
「……?」
どこか嬉しそうなキャロルが、腕に頬を寄せる理由までは分からなかった。
――まあ、この子が嬉しそうなら、それでいいか。
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