色々気付きました
改めて、今自分が貴族なんだと実感させられた。同時に根は庶民なんだと実感しています。
(この部屋で寝ろと?無理、無理、無理。ベッドの上でも気が休まれないっての)
ジェイド領には馬車で行く。しかも、団体なので移動速度は遅い。そうなると当然、泊まらなきゃいけなくなるんだけど……。
「トール様、こちらのお部屋をお使い下さい」
ホテルマンが恭しく頭を下げてくる。中身はともかく俺は中坊だ。年齢に関係なくきちんと対応するのは、流石プロだと思う。
だけど、勘弁して欲しいのです。
「あの……俺、一人で泊まるので、もう少しせま……手頃な部屋はありませんか?」
出来たら、もっと地味で狭い部屋が良いです。
案内されたのは、パーティールームみたいな広さの部屋だった。広さは従者も一緒に泊まる設計だから仕方がない。
でも、内装が派手過ぎます。バブル時代のラブホ顔負けの派手さなのである。
壁紙はバラの模様で、天井に宗教画らしきものが描かれている。柱やベッドは金箔で覆われ、装飾も細かい。
早い話が豪華過ぎて、気が休まらないのです。
「何かお気に召さない所がありましたか?」
ホテルマンは、穏やかな笑顔を浮かべているが、少しむっとしているのが伝わってくる。ホテル自慢の部屋も馬鹿にされたと思ったのだろう。
ここで下手を打てば悪評が流れてしまう。
でも、舐めてもらっては困る。こちとら日々人間関係に苦慮してきたジャパニーズサラリーマンだ。
玉虫色の解答をしてやる。
「いえ、大変素晴らしいお部屋です。しかし、私はまだ学生の分際。この部屋に泊まれる身分ではありません。成人した暁には、泊まらせて頂きたいと思います」
どうだ!貴族の癖に敬語で話してやったぞ……だって、一流ホテルの従業員ってだけで、圧を感じるんだもん。
俺は格安ビジホが好きなんです。クオーカード付きなら愛用しちゃうぞ。
「そんな事気にされていたのですか?……大丈夫ですよ。ゆっくりお休み下さい」
ホテルマンはニコリと笑うと、そのまま去っていた。だよね、ホテル側にしたら、この部屋の方が売り上げ良いんだし。
(いい加減貴族生活にも慣れないとな……地図アプリでもチャックしておくか)
落ち着かないので、従者用の小さいベッドに移動して地図アプリを起動する。
ジェイド伯爵が襲撃を掛けてくる可能性は低いと思う。でも、対策を建てて置いて損はない筈。
(……うん、お約束の展開だね。さて、どうすっかな?)
ゲームでも、ここまでベタな展開は無いぞ。小説で出てきたら、都合が良すぎますって赤字チェックをしていたと思う。
ジェイド領の領都に向かう途中で、襲撃に打って付けの場所があったのだ。
それは馬車一台がやっと通れる様な狭い道。右側が森で左側は崖というお約束のシュチエーション。
正確に言うと、そこは脇道になるんだけど、本道には工事予定の文字が書かれている。
「トール、何の用?まさか一人じゃ、寂しくて寝れないとか?」
考えた結果、俺一人じゃ無理って事で、姉ちゃんに助けを求めた。
アプリを共有出来るのは姉ちゃんだけ。他の人に襲撃を説明するのが難しいのだ。
「ジェイド領の地図を見てみたら、まずい事が分ったんだよ」
俺の話を聞いた姉ちゃんはジェルエンブレムを顕現させた。俺は乳首タッチなのに、姉ちゃんはジェルエンブレムに触れるだけでオッケーなのです。
「……クレオもいるって言うのに、馬鹿過ぎない?貴方の事だから対策は出来ているんでしょ。何か問題があるの?」
姉ちゃんは、そう言うと盛大に溜息を漏らした。気持ちは分かる。
VIPの目の前で婚約者を殺す……
「この話を言えるのは、姉ちゃんだけなんだよ。どうやって他の人に、この事を伝えれば良いか悩んでいるんだ」
(そこまでして、俺を殺したいのか?……待てよ)
ゲーム的に考えると、俺はとんでもないお邪魔虫だ。姉ちゃんの悪役令嬢化の阻止・
もし、シナリオ通りに事を進めたい奴……つまり姉ちゃんを悪役令嬢に仕立てあげたい存在がいるのなら、俺は是が非でも排除したい人間になる。
貴族に関与できる力を持っている奴なら、ジェイド伯爵を使って俺を消そうとするだろう。
「そうね……斥候を放つのは、どうかしら?怪襲撃地点は分かっているんだから、怪しい動きがあれば、直ぐに分る筈よ」
二コラさんに頼めば何とかなるか。問題は……。
「ホテルに地図があるか聞いて来る。早めに手を打っておきたいし」
向こうは奇襲を考えている筈。そして狙うのは、俺の馬車だけだと思う。それだけ分かれば、逆に利用してやる。
◇
二日後、二コラさんが呆れ顔で話し掛けてきた。
「ト―ル様、予想通りでしたよ。ジェイド領の騎士が怪しい動きをしています」
ニコラさんの話によると、ジェイド伯爵は突然本道の工事を始めたそうだ。しかも、わざわざ脇道に出入口に騎士を立たせて誘をさせているとの事。
「騎士がちゃんと見張っていましたー。怪しい奴は通っていません―って言い張る気ですね」
それが通じると思っているのか?まあ、予想通り過ぎて有難いんだけど。
「しかし、どうやってト―ル様の馬車だけを狙うのでしょうか?クレオ様やキャナリー商会の馬車に損害を与えたら、最低でも代替わり、下手したら爵位取り消しですよ」
この世界の貴族は正々堂々と戦うのが当たり前とされている。騙し討ちや奇襲は、賊が行う事で、貴族がやれば名誉丸潰れで村八分ならぬ社交界八分になるそうだ。
「馬車の前後を丸太や大きい石で塞ぐんですよ。道を通るには、物をどかさなきゃいけない。もしくは、動けなくなった所を襲って崖に突き落とす……そのパターンだと思いますよ」
外国のゲリラや山賊が、この手で車を襲って金品……もしくは車ごと略奪するそうだ。
これなら俺の馬車が誤って崖下に落ちたと言い張れる。
それなら、俺はそれを逆手にとってやろうじゃないか。
「なりふり構わずという感じですね。それで、今後はどうすればよろしいのでしょうか?」
二コラさんが底意地の悪い笑みを浮かべる。正々堂々と戦うべき言っているが、魔族相手にそれが通じる訳がない。
前大戦で爺ちゃんやニコラさんは、色んな戦法を使ったそうだ。
「まずは爺ちゃんに連絡して下さい。それと王家の諜報部員と連携は取れますか?……後、切れ目の入った綱を準備して下さい」
残念ながら、俺はお利口で真面目な貴族じゃない。名誉より実利を重んじる卑怯者なのだ。
……ふと、思った。俺、敵多すぎないか?
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