ツーリング日和19
Yosyan
待望の納車
もう三年ぐらい前になるかな。あの頃はまさにコロナ禍の真っ最中で、マスクを着けて三密回避をしようと言うか、それをしない者は吊るし上げみたいだったんだよな。夜に飲みに行くにも補助金もらってお休みばかりで、旅行だって行けるような状態じゃなかったもの。
どちらかと言うと出不精の方なんだけど、出不精も出れるけど出ないと、出たら行けないではストレスが違うのがよくわかったぐらいだった。とは言うものの出歩くのも出来ないから暇つぶしにユーチューブを見てたぐらい。
その時に目に付いたのがバイクのツーリング動画。なるほどバイクなら三密を避けてお出かけは出来るんだと気づいたぐらいかな。バイクは今でも通勤用にスクーターに乗ってるし、学生の頃はツーリングの真似事みたいなこともした経験もあるのはある。
じゃあ、ということで、スクーターでツーリングに出かけたのだけど、これはサマにならないのは嫌でも気づかされた。誰がどう見たって近所のオッサンが買い物にでも出かけてるようにしか見えないものな。
見た目より本人の気持ち次第だろうと開き直るのもありだろうけど、どうせツーリングをするのなら格好からも入りたくなったぐらいかな。そうなるとバイクを買い替えないといけないのだけど何にするかになってくる。
ちなみにバイクは中型免許、今なら普通自動二輪免許を持ってるんだ。これは学生時代の悪友がコチコチのバイク狂でお付き合いして取ったもの。お蔭で四百CCまでは乗れることにはなる。当時は今でいう大型二輪免許のハードルは無茶苦茶高かったんだ。
免許はそこまで乗れるのだけど、バイクは乗り手を選ぶ乗り物になる。大きな方が馬力もあって速いのだけど、その代わりに大きくて重くなるのがバイクだ。それだけの重さを扱える体力がないと乗れないのがバイクでもある。
体力の衰えは嫌でも感じてるから四百CCには無理を感じるし、二百五十CCでもキツイかなってのが偽らざる本音でもあったんだ。他にも駐輪場の問題とかもあって小型バイクで考えようぐらいになったぐらい。
そんな時にツーリング動画で目に飛び込んできたのがモンキーだった。モンキーは五十CC時代のは知ってたのだけど、それが百二十五CCになって復活してたんだよ。歳を重ねると新奇なデザインを受け入れにくくなってるところは自覚してたからまさに、
「これだ!」
そう直感したぐらいかな。そこからモンキー情報をあれこれ集め出したのだけど、まず評判は悪くない。悪くないどころか、はっきり言って手放しぐらい良い感じ。もっともネガティブなレビューもあったけど、あれは言い過ぎだろう。
レビューはどうしたって比較があってのものになる。中型やましてや大型に普段は乗ってる者が、
『非力だ』
『振動が気になる』
あのな、小型バイクだぞ。そんなものポルシェと軽自動車を比較しているようなものじゃないか。タンデムが出来ないとか、高速や自動車専用道を走れないのも定番のように挙げられていたっけ。
だからそれは小型バイクだからじゃないか。先に気に入ってしまってるのもあったけど、欠点を挙げるにしても、それぐらいしか無いとボクには思えたぐらい。そりゃ、気になる人は気になるだろうけど、今のスクーターも小型だからボクには関係ないと思ったぐらいかな。
ここも付け加えるとバイク、とくに中型や大型のMT車は特殊な用途のところがあるのだよな。あれらは言い切ってしまうと、
「ツーリング専用」
もちろん中型や大型で通勤や通学に使う人だっているだろうけど、かなりの我慢を強いられる代物だ。バイクはクルマと違っていくら大きくても荷物がホントに乗らないんだ。五十CCのスクーターにさえ負けるぐらい。
その代わりにツーリングになると快適のはず。バイクは大きくなるほど実用性と趣味性がトレードオフになる乗り物だと思ってる。ボクの場合、日常的には通勤や買い物があくまでもメインなんだよ。
実用性がちゃんとあって、ツーリングもそこそこ出来るのがボクの求めるバイクになることになる。モンキーだって荷物を載せる点ではスクーターの足元にも及ばないけど、取り回しの点で実用性を確保しているぐらいは言えるはず。
この取り回しの負担はバイクでが大きくて、頑張って大型を買った人にしばしば起こるそうなんだ。若ければより大きなバイクが欲しくなるしボクだってそうだった。そうやってついに大型を手にしたのは良いのだけど大型は甘くない。
乗ろうと思えば気合が必要ぐらいに言えばよいと思う。求められる気合はかなり大きくて、いつしか乗るのが億劫になり、乗らないものだからオブジェと化して乗らなくなってしまうぐらいのサイクルだそう。
この辺は自分を納得させるための言い訳みたいなものだけど、とにかくモンキーに乗り換えようと思ったぐらい。ところがなんだけどモデルチェンジの噂が出ていたんだよ。それも四速から五速になるとしてたから、どうせだったら五速の新型が良いじゃないか。
半年ほど待ってるうちに噂は本物になり新型の発売日まで発表された。そこまで待ったのは五速の新型が欲しいのもあったけど、品薄で受注が中止されてる情報も出てたのもあった。だからバイク屋にオーダーに行った時にもオーダー自体を受けてくれるかどうかも心配したぐらい。
無事オーダーを受けてくれて後は納車を待つだけになった。ここもかなり待たされる覚悟はしてた。だけどそんな覚悟じゃ甘すぎたのは思い知ることにもなった。待たされると言っても半年ぐらいだろうと思ってたんだよ。
品薄の原因もわかっていてコロナ禍だ。モンキーはタイで作ってるのだけど、タイ国内ですべてのパーツが調達できるわけもなく、世界各地から集めているのだけどコロナ禍でその集まりが悪いらしい。
とくに品薄なのが電子部品。今どきのバイクもクルマもインジェクション仕様でその制御にCPUが必要なんだけど、これが圧倒的に不足してるとかなんだ。だからバイクだけでなくクルマの納車待ちも長くなってるとか。
とはいえバイク、それも小型バイクだからっと思ってたけどひたすら甘かった。半年なんかあっという間に過ぎ去り、一年も平気で越えていったものな。その一年を超えたころにトンデモないことまで起こってしまった。
お腹の調子がどうも良くないというか、便秘傾向が段々と強くなってたのだけど、ついに便が出なくなっただけでなく、ものすごい腹痛になってしまった。それが土曜の夜だったのだけど、あいにくの日月連休。
一晩苦しんで日曜の朝に救急外来受診をすることにした。こういう時の通常ルートはまず診療所を受診して病院に紹介されるべきだけど、もう二晩も耐えられないとの判断だ。それぐらい痛かった。
受診してあれこれ検査されたらなんと大腸癌で緊急入院。さすがに腹を括らされた。それにしても今どきの病院は癌の病名告知もあっさりしたもので、救急外来のベッドサイドでするのを初めて知ったかな。
そのままオペかと思ったけどまずはステントを通して腸閉塞状態を解除し、便秘で腫れ上がっている腸管が落ち着いてから手術の段取りだとか。一旦退院となり、あれこれ術前検査が外来であった。
造影CT、胃カメラ、大腸ファイバー・・・そんな検査は入院中にしてくれと思ったけどDPCの関係で外来だってさ。DPCってそういうものだと頭ではわかっていたけど、最初の入院だって一週間あったし、その半分ぐらいは絶飲食だったんだよ。
どこかおかしいと思ったけど、そういうルールになっているのが今の医療らしいし、それに従った担当医を恨むわけにもいかないよな。手術前に検査結果からの術前予想も告げられたけど、
『遠隔転移はありませんが、リンパ節転移はありそううですからステージ3でしょう』
さらっと言いやがったけど、ステージ3なら三分の一ぐらいは再発するはずだし、再発すればまず死ぬことになる。そこからバタバタと手術日になり、寝ているうちに無事終了。術後はさすがに痛かったしフラフラになったけど一週間で退院。最終的な病理診断は、
『リンパ節転移も無く、原発巣は漿膜を超えていないからステージ2Aです』
おぉ、ステージ3からステージ2になったと喜んだけど、
『ただしハイリスクグループです』
はぁ、なんだそれ。ステージ2ならば術後のケモは不要のはずなんだけどハイリスクグループだから必要の説明に納得するしかなかったかな。命が罹ってるから文句も言えないのだけど、外来化学療法は辛かった。
スケジュールは一日目にエルブラッドを点滴で投与し、そこからゼローダを二週間内服して一週間の休薬。ケモは初日から末梢神経障害はバリバリに出てくるし、便秘と下痢がジェットコースターのように襲ってくる。
そっちもひたすら辛かったのだけど、地味に応えたのが味覚障害。これも味覚を感じないのじゃなくて、なにを食べてもひたすら苦みが乗っかる感じになる。ケモのケモたるところでクールを重ねるほど副作用は強くなるんだ。
それと外来化学療法だから日常生活どころか仕事も出来るのだけど、あれは正直なところ治療に専念したかったな。そりゃ、食うために仕事は続けたけどあれはあれで辛すぎた。そんな修羅場が半年ぐらい続いたけどバイクは来ない。
ケモ中にバイクが来られても困るぐらいはあったにせよ、いくらなんでも遅すぎるじゃないか。別にフェラーリとかランボルギーニの特注車を待ってるのじゃなく、ホンダの量産車のそれも小型バイクを待ってるだけじゃないか。納車を待ちすぎて永遠に来ないかの思ってたぐらいなんだけど、
『今週中に入ります』
つ、ついに納車予定の連絡がバイク屋からあったんだ。待つことなんと二十か月だぞ。バイク屋が悪いのではないけど、
『奇跡的でっせ』
あのなぁ、二十か月も待ってそれはないだろうがと思ったけど、近隣のバイク屋にも新たな納車情報はないみたいで、
『もうモンキーのオーダーは受けまへん』
おいおいって感じだけど、バイク屋の大将も待たせすぎた責任を感じてるみたいだった。それでも苦難の末についにゲットだぜ。
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