44.出られなかった『式』
===== この物語はあくまでもフィクションです =========
============== 主な登場人物 ================
物部満百合(まゆり)・・・物部一朗太と栞(しおり)の娘。
久保田健太郎・・・久保田誠とあつこの息子。
大文字おさむ・・・大文字伝子と学の息子。
福本めぐみ・・・福本英二と祥子の娘。
依田悦子・・・依田俊介と慶子の娘。
服部千香乃(ちかの)・・・服部源一郎とコウの娘。
南原未玖(みく)・・・南原龍之介と文子(ふみこ)の娘。
山城みどり・・・山城順と蘭の娘。
愛宕悦司・・・愛宕寛治とみちるの息子。
南出良(みなみでりょう)・・・転校生。千香乃と同じクラス。
片山継男・・・一輪車大会で、悦子と争った。今はカレシ。
鈴木栄太・・・小学校校長。
藤堂所縁・・・小学校教師。自称ミラクル9の顧問。
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==ミラクル9とは、大文字伝子達の子供達が作った、サークルのことである。==
==EITOとは、Emergency Information Against Terrorism Organizationを指す==
1月8日。午後3時。モール外の公園。
「今日、『最後の』始業式だったのに。」
「大袈裟だなあ、未玖。確かに『最後の』始業式だけどさあ。」
「悦司君には、デリカシーってないの?」
おさむと健太郎は『謝れ』の合図を送った。
「ごめんなさい。俺が悪かった。でも、インフルエンザは、『黒歴史』じゃないよ。ねえ、先生。」
「そうね。実は、先生も始業式出られなくなったことがあるんだ。妹が、悪い奴に車で轢き殺されたの。それで・・・。」
藤堂の言葉に、おさむが「いいよ、先生。悲しいことがあったんだね。お葬式の後、色々法事があったんだね。」と庇った。
「そうだね。出られなかった『式』か。私もあるよ。」
「え?始業式ですか?校長先生。」
「いや、違うよ。健太郎君。『成人式』だ。役所の手違いでね。案内葉書が来なかったんだ。翌年もね。知らん顔して出れば良かったのに、と友人に笑われたよ。お陰で『記念品』も貰えず仕舞い。その後、色々あって、『笑い話のネタ』が出来た、と考えるようになった。世の中にはね、事情があって、結婚式に出られなかった人もいれば、お葬式に出られなかった人もいる。悔しくても悲しくても、いつかは『思い出』に変えなくちゃいけないんだ。君たちも来年度は中学生だ。私が、ひょっとしたら、君たちの卒業式に出られなくて泣くことになるかも知れない。」
「校長先生は病気なんですか?」と、満百合が言った。
「例えば、の話よ。そうですよね、校長先生。」と、悦子が言った。
「そう。君たちもコロニーが流行った時のこと、親御さんから聞いているだろう?『天災は忘れた頃にやって来る』。あの流行病は、正に天災だった。亡くなっても、簡単に弔問に行けなかった。病院も『面会制限』なんてあってね。収束しても、なかなか、その習慣は改められなかった。私の、仲の良い従兄にも会えず仕舞いだった。数年後に墓参りするまではね。友人達にも、同じ思いの者が多かった。流行病さえ無かったら、って。私は。会社をひとに譲って、小学校の校長になった。おさむ君のお母さん達の提案で、「ミニ運動会」をした。まだ、EITOが出来る前だったかな。『卒業式に出られなかった卒業生』『運動会に出られなかった卒業生』が大勢いたんだ。卒業生にも父兄にも喜ばれたよ。3年間だけだけどね。でも、同窓会で運動会イベントがあれば、喜んで許可したよ。」
「校長先生は『思い出』を作ってあげたのね。」と、みどりが言い、千香乃とめぐみ、継男、良まで泣き出した。
「校長先生。主審をして下さい。『思い出作り』に。」と、藤堂が言うと、「了解。」と、鈴木校長は帽子を被り直した。
―完―
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