騎士と聖女は同じ場所に居たのに
「わかった!ヴェルのいる場所が!」
ティルのその言葉に私たちは安堵し、そしてミミちゃんの偽物は目を丸くした。
それもそうだろう、自分は何も言っていないのにも関わらず『居場所がわかった』などと言われたら、驚くしかない。
私たちはこの偽物をどうするか考える時間も惜しかったので、口と両手を縛り連れてゆく事にした。
『ここに置いていって居なくなったら』と懸念するぐらいだったら、初めから連れて行った方がいいと思ったからだ。
(…こんなやつは殺してしまえばいいなどと思ってる人は…いないと思いたいし、ミミちゃんの姿をしてるからそんなことはできないししたくない。)
甘い考えだと言われるかもしれないが、私は…できない。
「ヴェルのいる場所は『聖女を閉じ込めていた場所の下』だって!」
「え?あの場所にヴェルが?」
「いいから行きましょう」
ヴェルの場所におどろき足を止める私をリュカが急がす。
(そうだ、ひとまずヴェルの場所にいかなきゃ…)
私たちは急いでその場所へとむかったのだった。
向かっている途中でティルが色々な話をしてくれた。
どうやら今回のこの騒動は『聖女を監禁、あわよくば殺す』ことが目的だったようだ。
この世界で聖女とは魔力を持つ人間が減っていくことへの救済処置がであるのだが、一般的に広まっているのは100年に一度異世界から召喚される異世界人という認識らしい。
定期的に聖女が奇跡を起こす事は知っているが、見た事ない人たちではヤラセだ嘘だと言ってる人も少なくないと言う。
そしてそんな異世界人が受け入れられない…殺したい人達の寄せ集まりが今回の犯人達らしい。
受け入れられない人たちが集まり、その中でも危険思考の人達が今回の事件を引き起こしたと言う。
その集まりの中で一番多いのが純血派。
聖女が異世界からやってきて、この世界の人と子供を作るとつまりは異世界人とのハーフになる。
それが気に入らない…というか、異世界人の血が混じる事を生理的に受け付けない人たちが一定数寄せ集まり、純血派と言ってるらしい。
その次に多いのが階級派。
異世界からきた平民が高位貴族などと縁ずいたり、我が物顔でこの世界を彷徨くのが気に食わないと言う人達が寄せ集まっている。
夫をたくさん持つ聖女は高位貴族も平民も孤児も等しく夫にするものが多く、第一夫が孤児で第二夫が高位貴族だったこともあったそうだ。
そう言ったことが許せない人たちが階級派なのだ。
そして、一夫一妻制派。
この世界では王と聖女と魔力量が一定量以上ある人が多妻多夫を許されている。
王は世継ぎなどの問題があるので、三年子供が産まれなかったりなどの理由がある場合に限り則妃を娶る事ができる。
聖女は言わずもがなたくさん子供を産んで欲しいと言うこともあり多夫が許されている。
そして魔力量が一定量以上ある人は聖女の子供しか今はいないらしい、そしてこれらを許せない人たちがいる。
王に関しては仕方がないとしても、聖女やその子供だけ何人も配偶者を持てることが許せないと言うのが一妻一夫制派だ。
因みに同性婚の場合も同じ一夫一妻らしい。
これら3つの派閥から危険思考の人達が集まって聖女殺しを企んでいたらしいのだが…純潔派も階級派も一夫一妻派も確かに言いたいことはわかる。
わかるのだが、私にはどうにもできないと言いますか、召喚に私が応じたわけでも無いし召喚してくれと言ったわけでも無いのだ。
そんな私に対してそんな理由…そんな理由って言ったらいけないのかもしれないけれど、それが理由で殺されるなんてたまったもんじゃ無い。
異世界人とのハーフが生理的に無理?うん、私が逆の立場だったらそう思うかもしれない。けど、殺してしまえ!とはならない。
この世界を我が物顔で歩き悪戯に階級を無視した夫選びをする?郷に入っては郷に従えと言うけれど、階級に気をつけてなんて私は聞いてないから考えたことなかった。
一夫一妻制にしろ?私がこの世界に呼ばれた理由を思い出してくれないか…。
右も左もわからない中で言われた事をやっていった私が悪いのだろうか?以前召喚された聖女達が悪いのだろうか?
ティルから聞いた話を聞きながら私は頭の中でやるせない気持ちを吐き出す。
まぁ、これに関しては今は深く考えないようにしよう…。
「そんなことで殺されるなんてたまったもんじゃないわね」
リュカが横でボソッと呟いた言葉に私は完全同意である。
魔力については一般的にはそこまで広がっていないらしく、知ってる人も多いが知らない人も多いという感じだというのだ。
なぜか異世界人が召喚され王様に世話され好き勝手夫を増やしてゆく…そう考えたら反発したくもなるのかもしれない。
「もうそろそろ到着する」
ティルの掛け声に少し緩んでいた空気が張り詰める。
そして数分後、私が監禁?埋められていた場所へと到着した。
そこは私が出産時に魔力を暴走させたせいで、建物があった場所から放射線状に瓦礫が散らばっていてひどい有様だった。
このミミちゃんの偽物は元々ここにいて、私の魔力暴走で身体中に傷を負ったそうだ。
その際に気絶した偽物は気がつけば私がいなくなっていた事に焦り、傷の手当てもないままに私を探し歩きあそこで倒れたそうだ。
「この場所にヴェルが?」
「あそこの地面にドアがあるらしい」
私たちは瓦礫に足を取られないように気をつけながらその場所へと進んでゆく。
ティルの言った場所には大量の瓦礫があったので皆で撤去作業をし、そのドアを開ける。
ドアを開けると真っ暗な穴が下へと続いていて、よく見ると梯子があるのが見える。
が、その梯子はひどく汚れていて誰かがこの下へと降りた様子はなかったのだ。
「…ちょっと、この下にヴェルがいるっていうけど、誰かが降りた様子はないわよ?」
「ここから落として蓋をしたらしいから降りてはないらしいよ」
ティルとリュカの話を聞いた私は真っ暗なのにも関わらずその穴へと急いで降りて行こうとしたのだが、ティルに止められてしまった。
「どういう状況かはわからないけど、多分俺がいくのがいいと思う。何かあっても俺なら相手が言いたい事もわかるし、誰かいた場合も俺なら味方か敵かもわかるし…あと、俺夜目が効くんだよね」
「じゃぁ、よろしく頼むわね。これ3つ持っていきなさい。」
「自力で上がれなさそうなら僕も降りるから呼んでくれ」
ティルの言葉を聞いてリュカは錠剤の入った袋を渡し、レイは何かあったら降りると言ってくれた。
私はティルが下へと降りてゆく姿を見守るしかできないことに歯噛みする事しかできなかった。
(あの時私がもっとここを探していたら…でも、ここを見つけても降りようとはしなかったかもしれないし…あの時はこの子と一緒にここを離れることしか考えてなかったし…)
頭の中で色々な事を考える私の方をリュカとレイが優しく支えてくれて、私は凄く泣きそうになった。
早くヴェルに会いたい…。
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