【閑話】白蛇様伝説 ティル
*ティル*
俺は昔から母親以外の人に嫌われていた。
いや…嫌われていたというと少し違うかもしれない。俺は村の人たちから怖がられていたんだ。
それは、俺の村に昔から伝わる『白蛇様伝説』が理由だった。
『 あるところに一人の女性がいました。
その女性は目が見えないことを理由に村から追い出され、森の中を彷徨っていました。
目が見えない…盲目の女性は勿論一人では何も出来なかった。
けれど女性は一人の青年に助けられ、裕福ではないけれどそれなりに幸せな暮らしができていた。
ところがある日、男性が『森の中に住んでいる盲目の美女』と言う噂を聞きやってきたのです。
…その事ががきっかけでこの生活が終わりを迎えることになってしまいました。
なぜなら、盲目の女性は青年のふりをした白蛇様と暮らしていたから。
男性は盲目の女性が白蛇に騙されていると、白蛇様の頭を持っていた斧で切り落としました。
だけれど…女性は見えないから男性のことを人殺しだと罵ってしまった。
助けてやったのにと憤怒した男性は…その女性の首をしめて殺してしまいました。
そして村へと帰った男性は数年間は何事もなく暮らしました。
…ある日仕事が終わり家に帰ると扉の前に一人の女性がいました。
その女性は容姿が良くない事で酷い扱いを受け、この村に逃げてきた女だったそう。
住む場所がないと言うので、男性はその女性を家に招き住まわせてあげました。
仕事であまり家に帰れない男性はその女性に家のことをしてもらおうとおもったのです。
初めは容姿が悪い事とオドオドとし暗い印象の女性だったので村人からはあまり好かれていませんでした。
けれどその女がは不思議な力を持っていた事により村人達の態度は一変しました。
天気が良過ぎた時『雨が降ればいいですね』と言えば雨が降りました。
雨がやまない時『すぐに止みますよ』と言えば雨が止んだのです。
村の人々はその女性を『村を救う為に神様が使いを下さったのだ』と言い、大切に扱いました。
男性もそんな女性と一緒に住んでいる事を誇りに思い…また、好意を抱きました。
女性は男性から『妻になってくれないか』と言われ、とても嬉しそうに笑ったそうです。
それから月日が経ち、女性が妊娠した事がわかりました。
村の人々や男性は大喜びし、出産の日は村人達が皆総出で女性と赤ん坊の安全を祈りました。
ところが、その女性が産んだのは小さな白蛇でした。
初めは白い髪の男の子だったのですが、膜の中から出たとたんに小さな白蛇に変わったのです。
その白蛇は赤い目を村人達に向けると、シュルシュルと森の中へ消えてゆきました。
村人達はその女性が産んだのが白蛇だった事に衝撃を受けました。
村人達が酷く動揺してる中、『悪魔だ!コイツは人を惑わす悪魔だったんだ!』と男性が憤怒しました。
女性は泣きながら『殺さないで、何かの間違いだ、悪魔なんかじゃない』と何度も言いましたが、村人達も男性も聞く耳を持たず…その女性を殺してしまいました。
…これが不幸の始まりでした。
作物は枯れ、動物は減り、雨が降らない日が続いたと思えば雨がやまない日が続き、家を軋ませる程の大風が吹いたり、地面が割れるほどの日照りが続いたりととてもじゃないが普通の生活が出来なくなってしまいました。
その後村人達は白蛇様の祟りだと恐れ、これ以上の祟りが来ない様に立派な祠を作ったのです。
その祠には美しい女性が白蛇を抱いている像が置いてあり、毎年女性が亡くなった日になると村人達は皆総出で慰霊の儀式をする様になりました。
すると、村を襲っていた不幸はぴたりと止み以前の様に暮らせました。
村人達はこの『白蛇様』の事を忘れないように、『白蛇様伝説』として語り継ぐ事にしました。
そうそう、その男性ですが…いつの間にかいなくなっていた様です。』
俺は母親が話してくれた『白蛇様伝説』に出てくる白蛇に変わった赤ん坊と同じ容姿をしているから、怖がられているのだと聞いた時、無性に腹が立った事を覚えている。
母親が話す『白蛇様伝説』には、分からない事も多かった。
何故白蛇を産んだのか?、男性と白蛇はどこに行ったのか?、男性が殺した白蛇が仕返しをしにきたのか?沢山質問をしたけど…母親はいつも遠い目をしながら『なんで何だろうねぇ?』と言うだけだった。
母親が疫病で亡くなった後、俺は優里と出会った。
その時に『白蛇様伝説』の話になったんだけど、村人が知ってる白蛇様と俺の母が話してくれた白蛇様の内容が違ったんだ。
いや、内容が違うわけじゃない。
村人が話す『白蛇様』には盲目の女性の話は出てこなかった。
俺の母親は盲目の女性の話をどこで知ったんだ?
それともう一つ。母親が亡くなってからある事が起こる様になっていた。
それが俺が優里に返事ができていない理由なんだけれど…俺は触れた相手の心が読める様だ。
母親の心が読めた事は無かったし、他の人と触れ合うことなんか無かったから分からなかったこの力。
もし優里にまで『気持ち悪い』と思われたらと思うと…怖くて返事ができない。
でも俺は…俺は、優里にもう何と思われてもいい。
この力を使って優里を探し出してやる。
絶対に優里を連れ去った奴を…それに協力した奴を見つけてやる。
俺が疫病で倒れている時のあの優里から聞こえた心の声。
『心配、大丈夫かな?絶対助ける、大丈夫だよ、安心して、味方だよ、私が守るよ』
沢山の優しい言葉達。
その時はまだ心の声だとわからなかったし、そんな力があるなんて気付いてなかった。
死に際の妄想だと思っていた。
あの日優里が俺の事を夫にしたいと手に触れてくれた日。
『大切にするよ、沢山愛すよ、安心出来る場所をつくるよ、大好きだよ』
沢山の優しい言葉をまた聞く事になった。
俺は恥ずかしくていつも悪態をついてしまう。
…本当は優里の優しさに溺れてしまいたい。その胸に縋り付いて泣いてしまいたい。
優里をドロドロに甘やかしたい。
「…俺はもう、決めたんだ。嫌われるかもしれない、だけど…優里が危ない目にあってるかもしれないのなら、この力をもう隠さない」
それにはまず…使用人から調べてやる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます