誤解と人選ミスと和解と疑問
「そんなことは嘘よ!だって村長さんはトミニに荷造りって言ってたし、神官の人がトミニに対して他の村の話してたし、結婚式の話だってしてたの聞いたんだから!」
私はその発言を聞いて目が点になった。
どう言うことだ?村長息子はついてくるのか?乗り気じゃなかったけど実は乗り気だったのか?そう言った言葉が脳内をぐるぐると回る。
私の夫二人も『え?』『どう言う事だよ?』と不思議そうな顔をしているし、ティルは来て早々『修羅場到来!どうする聖女!』とか言って一人で笑っている。
…ティルはもう少し状況を選んで発言してほしい。
「よく意味がわからないんだけど…私はトミニと婚姻する気もないし、もちろん結婚式もしないわ。荷造りの件も知らないし…うん。もう、意味が分からないしトミニに聞きにいきましょう」
そう言ってトミニがいる場所へと移動する事にした。
夫のことを言われた時は瞬間的に頭に血が登りカッとなってしまったが、一先ずことの審議をはっきりさせないと話は平行線のままだし、今のままだとお互いに疲れるだけで意味がない。
あと、これ以上私の夫達にヘイトが向くのも嫌だったしね。
「すみません突然大人数でお邪魔してしまって」
「い、いえ?どうしました?あれ?ミルル?ん?」
突然たくさんの人たちが自分を訪ねて来たことに吃驚しているトミニは、私の後ろで怒っている表情の女性を見てさらに驚いていた。
「ねぇ!トミニはこの聖女についてこいって言われて迷惑してるのよね!?私と婚姻するっていったもんね?!」
「えっと、え?あの…」
女性の言葉に目を白黒とさせるトミニは、急にそんなことを言われたからか言葉が出てこないようだ。
トミニが動揺している姿をどう捉えたのかはわからないが、彼女はその瞳から涙をボロボロとこぼした後にどこかへと走り去ってしまった。
(…え!?走り去った!)
私は話し合いが始まる前に女性が走り去ってしまったことで動揺し、トミニは何が起きてるのかわからないと動揺し、夫達はどうしたらいいのか分からずに動揺していた。
この場にいる誰もが動揺している時、ティルがボソッと呟いた『追いかけたほうがいいんじゃないの?そんなこともわからないわけ?』と言う言葉がこの場にやけに大きく響いた。
その言葉を聞いたトミニは動揺したまま、コチラをチラチラと見つつも女性を追いかけていった…が、残された私たちはどうしたものかと顔を見合わせる事となった。
それから私たちは誰が何かを言うことも無く解散し、元の作業に戻って旅支度を再開した。
☆
「「すみませんでした!」」
数時間経った頃、彼女とトミニが私達の所にやってきた。
私と夫に対して深く深く頭を下げながら謝ってくれた。
どうやら彼女の思い違いのようなものが解決したらしい。
「いや、私はいいけど…レイとヴェルはどう?許さないなら別にいいけど」
私がレイにそう聞くと『いえ、誤解が解けたのならいいです』と言われた。ヴェルは納得いかないような表情をしてたが静かに頷いた。
そして私は顔が見るからに青ざめてしまっている女性に対し、さっきの話の中で気になった事を聞くことにした。
(罵倒された時ちょっと気になる事があったんだよね)
私があの時女性に言われたことを改めて聞くと、女性は自分が言ったことの酷さを改めて実感したのか少し声を震わせながら話し始めた。
…攻めたくて聞いたわけじゃないので、私はなんだか少し申し訳ない気持ちになったが…やっぱり気になることは気になるのだ。
思いながら話してゆく女性の話は辿々しく、要領もえない感じだったが流れはこんな感じだったらしい。
まず始まりは『トミニを聖女様の夫にする』と村長が言ってたのを周りが聞いていた事が発端だったらしい。
心配した住民が女性に対して『トミニと別れたのか?』と聞いてきたのだが、当然女性はそんな話は知らないのでトミニに聞くが『そんな事実はない』と言われる。
その時はそうだよねと安心したがその後、偶然神官の人がトミニと『村で生活する時の注意点』などを話してる事を聞いてしまう。
女性は何故そんな話をしてるのが意味が分からなく…なんだか気になったので、その後はトミニの後ろをついて回ったらしい。
そうすると、聖女の夫のティルと言う男の子にトミニが『結婚…』と結婚について話してるのが聞こえた。遠くで聞いていたのでよく聞こえないが結婚というワードだけは耳に入ったらしい。
その時のトミニの様子は見た事もない程真剣な顔をしていたそうだ。
彼女は聖女の夫に結婚の話題を振るという事は…と、顔を青ざめさせたそう。
そしてその後トミニが家に帰って言ったのだが、玄関口で村長に『荷造りは…』と言われているのを聞いてしまい、やはりトミニに嘘をつかれたんだと改めて思ったそう。
そして女性は混乱した気持ちのまま、村の端にある井戸の近くで座り込んでいたらしいのだが、その時に神官が話してる内容が耳に入ったらしい。
女性がいることに気づいていたかは知らないが、神官は聖女について話をしていたのでつい聞き耳を立ててしまったそうだ。
その内容はなかなかにひどい話で、その話を聞いたことで彼女は『トミニが無理矢理連れていかれる!』と思い込んだらしい。
『聖女は醜い夫を名声あげに使っている』
『聖女はそばにいる神官に力を使わせている』
『村にいる見目がいい男を無理矢理愛人にしている』
そんな内容が次々と神官の口から出てくることに驚いた女性は、聖女とはただの名前だけのお飾りで男好きのとんでもない人なんだと思ったそう。
そして、その話を聞いて腹の底から怒りが沸々と湧いて来てしまい、そのままの勢いで私に突撃したそうだ。
その話を聞き終わったところで、後ろにいたティルが口を開いた。
「俺、そいつに確かに結婚について聞かれたんだけどさぁ、内容は聖女とか一言も話してねーよ?そいつは好きな女がいるけど結婚するなら違う村に行きたいから断られたらどうしようっていうからさぁ、知らねーよ、聞く相手間違ってんだろって話しただけだぞ?」
(…なぜティルにそんな事を聞いたのか私は凄く気になる…これについては人選間違いな気がする。)
両目を瞑りながら私が考えてると、ヴェルが少し怒った口調で話し始めた。
「あの、ひどい噂してた神官って誰かわかりますか?俺、許せないんすけど」
「え、えっと。顔は見ていなくて…でも、女性の声でした。聞いたらわかるかもしれません…」
ヴェルは話を聞きながらずっと静かに怒っていたのだ。女性はヴェルの表情を見て、しどろもどろになりつつ返事をしてくれたが、かわいそうに体がふるふると震え始めてしまった。
私はヴェルに対して『大丈夫だから、彼女に怒っても仕方がないから、ね?』と言ったが『信じる方も同罪です』と怒りのオーラは鎮まらなかった。
女性は何度も震えながら「すみません…本当にすみません」と半泣きで言っていた。
女性の謝罪がシン…としずまる中で酷く大きく響く中、ティルがボソッと『神官に女性って二人しかいないけど、一人は喋れないぜ?』と言った。
私たちと神官達は馬車も違うし泊まる場所も違うし、村にいる時もそこまで一緒に何かしたりとかは無いのでそのことは知らなかったから驚いた。
そもそも私たちと神官は会話らしい会話をすることがないのだ。
ティルに対し『どうしてそんなことをしってるの?』と聞くと『俺が馬車の上で寝転んでると皆気づかないで会話し始めるから』と言った。
…危ないからそんなとこで寝ないでよと言いたかったが、また今度言うことにした。
トミニと女性の謝罪も受けたし、誤解も解けたし、とりあえずこの話はもう終わりにした。
私はあまり重苦しい雰囲気も好きじゃないし、話を聞いた感じだと誤解するのもわかるし、さっさと終わらせたかったのだ。
何度も何度も頭を下げる二人に対して終わった事だしあまり気にしないでと言いつつ、私たちは女性の神官…リュカがいる場所へと行くことにした。
なんで私のことを嫌うのか、なぜそんな噂を流すのかをこの際だからはっきり聞いておこうと思ったのだ。
(私のことだけなら別にいいけど、夫とか周りの人に実害が出るなら話は別よね)
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