遊びじゃないよ、仕事だよ!VRMMO対策課のお宅訪問ゲーム鑑賞録〜バーチャルでなくリアルを生きろ!〜

ゴシ

第1話 俺は国家公務員のはず

 今日は2030年の12月25日。普通ならクリスマスで外はどんちゃん騒ぎのはずなのだが……


「やっぱり人、少ないよな」


 今俺がいる東京の渋谷もクリスマスのはずなのに……スゲー静か。

 コスプレしたおねーちゃんとか見れると思ったのに、若い女なんてどこ探しても見当たらない。


 まだ夜の9時だぞ?。今日はクリスマスなんだからもっと元気よく外で騒げよ、若者は!。

 騒いでたら普通は怒られる。でも今の現状を見ると、「騒いでいいよー」ってつい肯定したくなる。


 今外を歩いてるのはスーツ姿のイケオジが多数。

 若者もちらほらいるが、クリスマスを楽しんでると言うよりも、家にご飯が無いから仕方なく外に出たカンジ。そそくさと家に帰っていく者ばかりであった。


「どうなってんだよ。全く」


「どうなってるじゃないだろ。知ってるくせに」


「あっ。おせーよ、国枝」


 渋谷の寒い中で1時間も待たされた俺、柏木秀介かしわぎしゅうすけは遅れてやって来た国枝海斗くにえだかいとに怒っていた。


「怒んなよ、柏木。どうなってるじゃないだろ?。ほれ、目の前に答えあるじゃん」


 怒っていた柏木に対して、国枝は顎であれを見ろと指示してくる。


「ただ言ってみただけだろ……やっぱあれなんだよな〜」


 俺は国枝が見ろという物を見ると、気の抜けた返事しか出来なかった


 国枝が見ろと言った物。それは渋谷の大画面に映るCMだったのだ。CMの内容、それは今流行はやりのゲーム『VRMMO』の紹介動画である。


 Virtual Reality Massively Multiplayer Online、略してVRMMO。


 このVRMMOっていうのは日本語で言うと仮想現実大規模多人数同時参加型オンラインゲームという意味らしく、簡単に言うならゲームの中に入って遊べちゃうものなのだ。


 世界が誇るアメリカの電子機器メーカー『グレープフルーツ社』が去年開発に成功したこのVRMMOというゲームが日本でも大流行。


 VRMMOをする上で必要な装置『コクーン』は名前の通り真っ白なまゆの様な形の、人が入れちゃうほどデカいカプセル型ゲーム機なのだが…


「200万て、高すぎるだろ!」


広告に流れる表示金額がバカ過ぎる。

 今の時代はゲーム機と車が同じ値段ってとこまで行ききってしまったのだ。


 車も買えちゃうちゃうぐらい高いそのゲームを日本の皆さんは一台ずつ持ってるという。借金して手に入れた奴も多いのだとか。


「借金してまで買いたいもんかね?、こんなデカい機械。家に置くの邪魔だろ」


「そう言うなよ柏木。それが流行ってるお陰で、俺らはちゃんと仕事があるんだから」


「ちげーよ。それがあったせいでだ」


 VRMMOが流行ったお陰で仕事ができてると国枝は言うが、そもそもそのゲームがなければ今からやる仕事をする必要もなかったんだ。


 俺たちは元々ただの清掃員。こんなスーツピシッと決めてやる仕事とは遠いところにいたんだぞ。


「まぁ、いいや。ちなみに今日のお仕事はなんですか?」


「真壁クリーナーの社長、真壁綺麗まかべきれいの攻略」


「社長さんね、了解」


 国枝に今日のターゲットを聞いた柏木は、その真壁綺麗と言う人物がいる、真壁クリーナー本社ビルに国枝と二人で歩いて行くのだった。




 ◇




 真壁クリーナー本社前に辿り着いた二人。辿り着くと同時に柏木は国枝に文句を言い始める。


「なぁ国枝よ」


「なんだ柏木」


「ここはどこだ?」


「頭バグったか?。恵比寿だけど」


「バグってんのはお前だよ」


 恵比寿だよね、ここ。うん、知ってた。

 だって渋谷から30分歩いて来たからね!。

 なんで歩いた?、おかしいだろ!

 乗り物知らねーのかよ、コイツは。

 そもそもが待ち合わせ恵比寿でよかったろ。

 1時間待たされた挙句まだ歩かされるとは思ってもいなかった。


「なんで渋谷で待ち合わせにした?」


「ん?、恵比寿なんてなんもねーだろ。そこで1時間もお前待たせるの可哀想だから」


「コイツ……」


 柏木は国枝に対して怒りが込み上げてくる。


 国枝、お前は2回謝れ。1つは恵比寿に対して、そしてもう1つは俺に対して。


 恵比寿はなんも無い所では無い。観光地も沢山ある(それ以外は特に知らないが)。恵比寿に住む皆さんにちゃんと謝れ。そして俺にも。


「お前、1時間待たせるって分かってたな?」


「………」


「いや、二人っきりで黙秘すんなよ!」


 柏木の質問に何も言わない国枝。だが柏木言うことは実は正しかったのだ。国枝は柏木を待たせることを最初から想定していた。


 仕事の準備には手続きが必要。書類の記入などの面倒ごとを全任せにしてきた柏木への国枝なりの軽い仕返しだったのだ。


 国枝は怒る柏木を無視して仕事に取り掛かることにした。


 国枝たちは真壁クリーナー本社ビルの裏手に回り、国枝が持っていた大きなカバンから仕事道具を取り出していくのだった。


「いつ見てもすごいよな、それ。国から支給されたって思うとスゲー不思議」


 国枝が取り出す道具。壁を登る用の吸盤やワイヤー、ガラス窓から侵入するための高出力電動ビームナイフにガラス溶接する特殊な器具がゾロゾロ。


 近未来の泥棒さんが使いそうな道具たちが柏木の前に並べられて行く。


 国枝は黙々と道具を装備していき、柏木も国枝と同じくその物騒な道具を装備していく。

 装備し終えた二人は早速壁伝いにその潜入道具を使って真壁クリーナー本社ビルをよじ登って行く。


 今やってることははたから見れば「泥棒だろ!」って思われてもおかしく無いが、実はそうではない。

 俺たちは国のお偉いさんから指令を受けている、れっきとした国家公務員なのだ。自分でもこれが国のためにやる仕事とは思えないが……やらないと刑務所行きが確定してしまう。


「文句あるって顔してんな。でもここまで来たら今日もやるぞ。……着いた、ナイフくれ」


 目的の階に到着した国枝は柏木に持たせていたビームナイフをよこせと言ってくる。

 柏木はズボンの後ろポケットに入れていたビームナイフを渡し、国枝はそのナイフでガラスの切断作業に取り掛かる。


 国枝はビームナイフで綺麗な円を描く様にガラス窓を切断していく。人が入れる大きさとしては十分。国枝は切り終えたガラスを建物の中にそっと置き、国枝と柏木は真壁クリーナー本社ビルへの潜入に成功するのであった。


「国枝……お前やっぱ手際良すぎ。怪盗かなんかやってた?」


「やってねーよ。念のためだよ」


 柏木は国枝の手際の良さを指摘する。


 柏木と国枝が今の仕事を始めてからまだ二週間。数回しかやって無い今の仕事を難なくこなす国枝には度肝どぎもを抜かれる。

 今も侵入した形跡を残さない様にガラスの溶接作業を黙々とこなしている。


 コイツは泥棒とかやってないとおかしい。

 毎度驚く事をやってのけるが、毎回「念のため」とか言って話を終わらせてくる。


 念のためってなんだよ。

 どんな事想定して生活してたら高層ビルのガラス窓からビルに潜入するなんて技術身につくんだよ。


 国枝の凄さには疑いを覚えてしまうほどであった。


「とりあえずこれで終わり。よし、真壁探しに行くか」


 溶接作業を終えた国枝と柏木は真壁を捜索する。暗い通路の中、柏木と国枝は遠くに見える部屋から漏れた隙間明かりに向かって足を進める。


 部屋の前に到着した二人は部屋の中を覗く。そこは目的の場所である社長室だと確認すると、二人は部屋の中へと入って行くのであった。


「やっぱりいたよ、情報通りだな」


「…………え、コイツが真壁っ?」


「そうだけど、何?」


「いや……なんでもない」


 堂々と部屋に入り、真壁綺麗を発見した二人。国枝が仕事に取り掛かろうとしていた中、柏木はちょっとショックを受けていた。


 真壁綺麗……綺麗ていうから女だと思ってたのに。俺は今からコイツのを見なきゃいけないのか…………はぁ、どうしよう。


 目の前に横たわる真壁綺麗を見下ろしながら、柏木はため息をつくのであった。


 目の前にいる真壁綺麗。通常なら侵入した俺や国枝を見てすぐさま騒ぎ立てる事だろう。でも今は真壁の前に立っていてもなんら問題ないのである。なぜなら……



 真壁はVRMMOをやっているからだ!



いい歳こいて社長室でゲームしてんなよ。

お前が仕事しないでゲームばっかりしてるから俺らがこんな事しないといけないんだぞ!。

はぁ、今からおっさんがゲームやってるのを見るのか……興味ね〜な〜。


 柏木は仕事をする気がだいぶ薄れてしまっていた。


 柏木と国枝が国から出されている仕事、それは



『VRMMOにハマりまくっているバーチャル廃人をリアルに引き戻せ!』



 という、なんだそれはと言いたくなるお仕事なのである。



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