7 シュガー邸
早々に目的のカゲロウを見つけたシュガーは、帰りもテナを後ろに乗せバイクで忍の里を離れる。ゼクスの街に入るころには日が落ちていた。街の検問に差し掛かると、一人の憲兵が声をかけてくる。
「失礼、通行証を拝見します、シュガー様ですね。確認致しました、にしても……。お久しぶりです」
いきなり握手を求められた……、えーっと、誰だっけ、この人。
「さすがに覚えていないですよね。俺がまだ小さい時に”サーディス村”で盗賊から守って頂いたものです。検問で英雄シュガー様にいつかお目にかかれるようにと、憲兵になりました。会えて光栄です」
「おお! あの村の少年か! ずいぶん大きくなったな! 勤務お疲れ様!」
”サーディス村”ってことは、割と序盤でクエストに行ったところだと思うが、ゲームの世界ではNPCとして接していた為、国の王や重鎮などの主要なキャラ以外記憶にない。
それにしても、NPCはゲーム時代の記憶は残っているんだな。世界に住む一人の人間……か……。またどこかで他人に声をかけられたらそれっぽく答えよう……。
検問を通り、乗っていたバイクを徐行しながら進んでいく。
ゼクスの街は、中心に王城があり、それを囲むように城下町がある。円状に広がる国と外の境を隔てるように、高い外壁がそびえたつ。通行門は東西南北にそれぞれあり、門を潜ると城が見え、城まで直線的に道が通じている、シンメトリーな街並みである。
「さすがシュガー様! 憲兵にまでその名を轟かせていることを、誇りに思います! まあ当然といえば当然ですが!」
バイクの後ろに乗っているテナが興奮で震えている。陰に潜んでいるカゲロウも頷くような意思が伝わってくる。
「まあ、たまたまだよ。昔クエストで寄った村の子だったんだろうな」
住宅街までバイクを走らせ、目標地点に到着する。ゲームの世界では本拠地として使っていた見慣れた家だが、現実に見るとなかなか立派なものだ。門も広く、大貴族の屋敷に見える。
「でっけえ家だな」
この拠点は当時、ゼクスの街の東側にログハウスをメイン拠点に活動している頃、貴族の護衛クエストの報酬として、その護衛対象の貴族の紹介で安く買えた家である。その貴族の名前は忘れたが、襲ってくるエネミーモンスターは独特で、クエストは中々にめんどくさかった気がする。
「久しぶりのシュガー様のご帰宅、執事や屋敷メイド共々楽しみにされていることでしょう。……にしても、出迎えがまだのようですが……。先に皆に伝えてまいります」
門の前でバイクにまたがりながら、家の外観や門構えに呆気を取られている中、テナはバイクから降り、門を開け、冷ややかな顔で先に入っていった。暫くすると家の扉が開かれ、執事やメイド達がキレイに整列し出迎えている。
バイクを屋敷の敷地の駐車場で降り、整えられた庭や大輪を咲かす花壇を眺めていると、貫禄のある一人の執事が丁寧な作法で挨拶をしてきた。
「シュガー様! 皆一同、ご帰宅を心待ちにしておりました!」
「悪いな、帰りが遅くなって」
「滅相もございません、身体無事にご帰宅されたことを嬉しく思います。そしてシュガー様、先にテナ様がお伝えしてくれたとはいえ、この老体”セルノス”、主のご帰宅に即迎える準備ができず、深く悔やんでおります。」
白髪の執事長セルノスはそう答える。
「いや、全然早いと思うが……。まあ、久しぶりに帰ったしな、気にしなくていいぞ」
「そう言って頂けると今後、身が引き締まる思いです……。失礼致しました、旅でお疲れでしょう。さあどうぞ中へ! 皆、準備を!」
セルノスは他のメイド達に端的に指示を出す。メイド達も各々仕事が割り振られているのだろう、てきぱきと行動しにいく。その間、でかい屋敷の中を散策したかったが、俺がうろうろしてたらメイド達が仕事の手を止めてしまうだろうと言われ、テナと執務室に向かいデスクの椅子に背中を預ける。
「っふー……。やっと落ち着いて座れたな。カゲロウ、……いるか?」
「っは! 拙者はここに」
(拙者……忘れられたかと思ってた。)
「さっそくで悪いんだが、俺が不在中に発生した周辺地形、国の情勢、エネミーモンスターの生態について変化があるか調べてきてくれ、3日で行けそうか?」
(……コクっ!)
カゲロウはシュガーの言葉に頷き、また影へと消え、執務室にはテナと二人きりになった。
「それにしても、シュガー様のご帰宅に出迎えの準備が遅れるとは……。セルノス含めメイド共々、再度厳しい教育の必要がありますね」
「まあ、そう言うなって、俺も久しぶりに帰ってきたんだし。それと、そんなに遅くなかったと思うんだが……」
俺が座っている椅子の右隣で控えてるテナは冷たい眼差しをしている。
「シュガー様がそう言うのでしたら、今回は目を瞑りますが……」
テナはあまり納得していなさそうで怖い。
「じゃあ、ひとまず今日は休むとするが、とりあえず明日以降、カゲロウが情報を持ってきてくれる間は、俺自身のスキルやアイテム、テイムモンスターの状態を確認しておきたい。数も膨大だしな、テナはどうする?」
「本当は主様のお傍に仕えさせて頂きたいのですが、先ほど私が処理しないといけない案件が急務で入りまして、明日はそちらに向かいます」
「そうか、俺が必要な時は遠慮せず呼んでくれ、すぐに向かうから」
テナ自ら処理する案件とは、結構な面倒ごとなのだろう、内容が気になるがとりあえずは大丈夫そうなので、聞かないでおく。
「よし、じゃあひとまず夕食にでもするか!」
(あ……。カゲロウに夕食後から、もしくわ明日からでも良いよって言うの忘れてたな。この夕暮れから仕事させるってかなりパワハラなんじゃ……、次から気を付けよう……、ブラックは良くない。)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます