第5話 悪いが金も女も困ってはいない
城下街に出るには城の周りにある橋を渡って入る。もちろん城から馬車でいくと貴族だってバレバレなので城の裏口から徒歩での事だ。
途中兵士にもらった地図を眺め、貸本屋と魔道具店へと足を運びだす。にしても人が多い。
俺が最後に来たのは3年前……10年後の未来になるのか? その時も人が多かったが今もそんなに変わらないな。
王達には貸本屋と嘘をついたが、まずはこの復活の石。とでもいうのかこれの鑑定だ。
悪役の道は悪役ではないが、金さえ払えば鑑定をする店というのものがある、そこは鑑定だけで出所には干渉しない。今の時代は王国でも珍しい魔道具店を出しているはずだ。
その魔道具店まで角を曲がれば、と、言う所で俺の手が突然に捕まれた。
「っ!?」
薄汚いローブをまとい、元は白かっただろうズボンをはいた女、特徴的なのは耳まで隠れる帽子をかぶっており、手をつかんだまま無言で体の匂いを嗅いでくる。
「ふんふんふんふんふんふんふふふふふん」
「…………」
「どっこ、どっこー、いやまっさか」
「…………」
帽子女は俺の腕を持ち上げては腋などのを匂いを嗅いでくるので周りの通行人が嫌な顔をして避けていく。とてつもなく変態だ。
中には見せつけないでホテルでやれや。など陰口も聞こえてくる。
「あった!」
帽子女は突然に俺の胸ポケットへと手を入れようとしたのでその手をはねのける。胸ポケットには復活の石を忍ばせているからだ。
「っいったーい……君! 人間のくせに何するんだよ!」
「道の真ん中で突然に俺の匂いを嗅ぐような奴に言われたくはないな」
「ああ、ごめんごめん。ずいぶんと懐かしい匂いがしてさ、君もしかして珍しい何かもってない?」
「無いな」
当然持っている。
黙って通り過ぎようとすると、再度俺の手が引っ張られた。
女にしては力強く、跳ねのける前に胸ポケットから謎の魔石が抜き取られた。そのまま路地に詰め込まれ帽子女が俺の顔をしたから覗かせてくる。
「やっぱりあるじゃーん。どうせ、そこの
帽子女は俺に見せつけるように胸の谷間を大きく見せる、指先で胸がある部分を広げ始めた、もう少し広げれば先端がみえるだろう。
「女には困っていないんでな」
「あっそ……じゃぁ買う」
「そもそもお前は何なんだ?」
「細かい事気にすると死んじゃうよ?」
路地裏の空気が一瞬で張り詰める。
横目で通りを見ると誰も俺達の事を気にした様子はない。
「い…………」
一度死んでいるんでな。と、言おうとして口が拒絶した。
戦おうにも俺には武器は無い。オージィよ少し冷静になれ。
「いくらだ」
「うんうんうんうん、人間素直が一番」
帽子女は両手を広げて10本の指を出した。
「銀貨10枚かもしくは金貨10枚か?」
「金貨100枚でーっす」
「「………………」」
張り詰めた空気が少し和らぐと女が困った顔をし始めた。
「あれ? 足りない?」
足りないのではなく、多いのだ。
これでは、この石がとても貴重な物というのをばらしてるだけである。馬鹿な人間はだまされようが、商人や俺みたいな奴とする交渉ではない。
銀貨100枚、簡単な計算でいえば金貨10枚のほうがまだよかっただろう、それでもこの石の可能性を知っている俺は売りはしないが。
「おっかしいなぁ人間は欲が凄いから色気かお金を多く出せば解決するって聞いていたのに」
「…………あいにく金にも困ってなくてな。庭に埋まっていた珍しい石だから鑑定を頼む所だった所だ、用途と使い方がわかればただでもいい。と、考えている」
帽子女は俺から一歩下がると裏路地を塞ぐように立つ、おそらく反対側に俺が走っても追いつく事が簡単なんだろう。
「んーーーーーーー」
人差し指を唇にあてて考えている、喋るならもったいぶるな。と言いたいが我慢してその間を待っている。
「あっごめんごめん。知り合いのクインって子が作ったと思うんだけどさ。この形はセーブクリスタル、って奴かなたぶん。使い方は知らない」
これは貴重な情報だ。
クインって奴を探せば正式な使い方もわかるだろう。
「本人はどこだ」
「君はせっかち君だねぇ、せっかち君は長生き出来ないよ? ええっと知らない」
「またか」
どいつもこいつも俺が必要な人物は知らない。と言い出し始める。
記憶力の無い馬鹿なのか。
「匂いといったな……少し嗅がせてくれ」
「君にわかるかなぁ……」
俺は素直に返却されたセーブクリスタルを手にし、なるべく驚かないように行動する。
こうも簡単に手元に戻るとは思ってなかったからだ。
クルクルと眺めては匂いを嗅いでみる、やはり匂いはない。
「じゃぁ君、確認したら返して」
「………………」
「君なんで黙ってるの?」
「…………あまりの事で言葉が出なかっただけだ。これは元々俺の物だ、売りたくもない」
「ひっどーい、君さー人間のくせに約束破るとか酷いと思うよ?」
先ほどから、まるで自分達が人間じゃないような言い方だ。
「使い方を教えれば譲ってもいい。と伝えたはずだ。その使いかたもわからないのに譲るわけあるまい、約束は決行されていない考えてみろ」
「うーーーーー!!!」
どうやら力ずくで奪う。と、いう事はしてこない。これは安心だ……俺とて50年以上は生きているんだ、そうそう不利な交渉はしない。
突然に周りの空気が一瞬で変わった。
背後に殺気を感じ、目の前の帽子女の横を通り過ぎようとする、見えない壁に当たると後ろに戻された。
「うわ! ミーちゃんまった!!」
交渉をしていた女が叫ぶと、腹部に痛みが襲った。
俺の腹からは剣先が伸びており、その剣は一気に下がった。
「ごっ!? なっ」
腹から股まで切断である。
今時の拷問処刑でさえこんな事はしな――。
俺の体にあったものが地面へとこぼれていく、軽くなった体に足が地面に落ちていく。
帽子女が倒れそうな俺を抱きしめ倒れないようにしてくれた。
「シルフィーヌ先輩を困らす害虫を消しました。ほめてください」
耳元で聞こえた声は、帽子女の横に立つ。
こちらも色違いの帽子をかぶっており帽子女2号という所か。
「うわーえらい! って言えるわけないじゃない。やっぱ、君! しっかりして絶対に助かる、っても回復魔法知らないんだよね。痛み止めの魔法だけはかけたから。それよりも、ええっとこの国で人間を殺したらまずいんだって、縫うもの! ねぇしっかり君ーお――」
「シルフィーヌ先輩。どうぞパンです! 食うものですよね」
「縫う物だって!」
帽子女は頭をかきむしる、その拍子に帽子が外れるとエルフ特有の長い耳をみて、俺の意識がなくなった。
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