『リヴァイアサンの魚介醤油ラーメン』3
「私の家でアンタたち、一体何してんのよ!?」
破裂音で目を覚ましてリプイが急いで台所へ向かうと、蒸気と豚臭さのせいで思わず咳き込む。
「ゲホゲホ・・・・・・。もう勘弁して!」
段々と蒸気が晴れると、そこには黒光りで今まで以上にパンプアップしている全身がまるで鋼鉄の様なシュリルの姿があった。
よく見ると白目をむいて小刻みに震えていた。
「おい! 大丈夫か!」
急いで龍拓とリプイが駆け寄ると、意識を取り戻したように黒目へ戻ってとろけるような満面の笑みを浮かべた。
「うまあぁぁぁぁぁぁぁぁい!」
腹から思いっきり叫ぶと、その風圧で目の前に居た龍拓の顔がブルブルと揺れた。
『バキバキバキ!』
シュリルが座っていた椅子が体重に耐えきれずに壊れて尻餅をつく。
「もう! 何やってんのよ!
後で弁償してよね!」
リプイは自分のお気に入りの椅子を壊されて益々不機嫌になってしまう。
しかし、そんな事を気にもせずあぐらをかいて一心不乱に食べ続ける。
「この肌は一体・・・・・・」
恐る恐る龍拓はシュリルの肩を軽く叩く。
『キィィイン!』
甲高い金属音の様な音が聞こえ、不機嫌だったリプイも目を見開きテーブルのアイテムボックスから急いで青い眼鏡型のデバイスを取り出す。
「まさか!」
リプイはデバイスを掛けてシュリルをスキャンすると額から汗を流していた。
『レベル49 攻撃力120 守備力115 魔力18 スピード56』
思わず息を呑むと、リプイはシュリルが持つどんぶりを凝視する。
「攻撃力値が120なんて、
「その国代表勇者選手権って何なんだ?」
龍拓の質問を聞くとリプイは顔が曇ると少し俯く。
「三十三年に一度魔王が世界征服をするため目覚めるの」
「魔王!?」
「ええ。
そして、魔王が目覚めると魔王城へ続くゲートが現れるんだけど、通れるのは六人だけなの」
「たった六人しか通れないのか。
魔王ってくらいだから強いんだろ?
それに三十三年に一度目覚めてるってことは・・・・・・」
「そう。魔王を完全に葬ることは出来ていないの。
体の中にコアがあって、それを破壊さえ出来れば良いみたいなんだけど・・・・・・。
そのコアがどうしても破壊出来ないんだって」
「じゃあ、その国代表勇者選手権ってのは魔王を倒すための勇者を選ぶものなんだな」
「その通りよ。そして、勇者のパーティーは三人一組っていう決まりがあるから、代表同士が戦って、勝ち抜いた二組が魔王に挑めるの」
「じゃあ、俺らも勝ち抜いたら魔王に会えるんだな! どんな出汁が出るんだろう」
龍拓は目をキラキラさせる。
「魔王を食べる気!?
どんな神経してるのよ!
それに選手権を勝ち抜くなんて・・・・・・」
「そんなに勇者のパーティっていっぱい居るのか?」
「一応、この世界は大きく分けて四つの王国によって出来ているの。
そして、それぞれの国が公認勇者というのを五人まで任命できるの。
シュリルもその一人。
勇者はギルドに加入しているハンターの中から今までに討伐したモンスターのレベルで選ばれているわ」
一心不乱にラーメンを食べるシュリルを二人は眺める。
「なるほどな。どうりで強いわけだ」
「私たちを含めたロイアルワの勇者五パーティーの中から大会前までに討伐したモンスターのレベルが高い二組が代表になれる。
それを、各国がおこなって最終的には八組で争う感じね」
「なら確率高いじゃないか!
シュリルは強いし、リプイもパワーアップしたしな」
「ちょっと! 私は代表勇者パーティーになんてなりたく無いわ!
そんなのになったら、凄い強い奴らと戦う羽目になるのよ!」
「そうなのか。
残念だな。リプイの場合、昨日会ったパーティと因縁があるみたいだったから、負かす良いチャンスだと思ったんだがな」
「それは・・・・・・」
リプイは俯くと、話を逸らす様に再びシュリルのステータスを見出した。
「他に大きく変わった数値は・・・・・・。
げっ! 守備力値115だなんてA級モンスター程度では傷一つさえ付けられないよ!」
「そんなに強くなったのか!
A級って昨日戦ったギウマニールたちのことだろ・・・・・・」
二人がステータス値の話で夢中になっている間にシュリルはどんぶりのスープを一気に飲み干した。
「なぁ、龍拓! このラーメンは本当に最高だ!
おかわりを頼む!」
そう言うと、シュリルは龍拓に向かってどんぶりを差し出す。
「お、おう! ラーメン旨かったんだな!
良かった!」
龍拓は嬉しそうにどんぶりを受け取ると急いで二杯目の準備を始める。
「なぁリプイ! お前もラーメン食えよ! 味も絶品だし、きっとパワーアップするぞ!」
シュリルの言葉を聞き、リプイは台所に立ち込めていた嫌な豚臭さを思い出す。
「ちなみに、ラーメンの具は何なの?」
「ああ。 ホルモンだ」
龍拓が答えると、リプイは首を傾げる。
「ホルモンは内臓だぞ! これが旨いんだぁ!」
答えを知った途端、リプイの顔は引き攣らせる。
「内臓なんて食べる場所じゃないわ!
だって・・・・・・」
顔を青くして俯くリプイをシュリルは不思議そうに見つめる。
「だってどうしたんだよ?
内臓は旨いんだぞ?」
「美味いとかそういう問題じゃ無いのよ!
だって・・・・・・。見た目がグニュグニュしてて気持ち悪いじゃない!
それに、内臓でも腸はウンチが通るのよ!
そんな場所を食べるなんて・・・・・・」
腕を組んでシュリルはリプイに向かって頷く。
「なぁリプイ。好き嫌いはダメだぞ!
強くなりたければ食うのだ!
そういう訳で龍拓、もう一杯頼む!」
「あいよ!」
「わ、私は・・・・・・」
リプイが躊躇している間に手早く龍拓は二杯のホルモンラーメンを作ってテーブルに置く。
「出来たぞ! 冷めないうちに食べてくれ!」
いざ目の前に置かれると、豚臭さの中に紛れたコッテリとして食欲をそそる香味油の香りがリプイの胃袋を意識とは別に刺激する。
『ぐぅぅぅう・・・・・・』
リプイは恥ずかしさから頬を赤らめる。
「よし、俺が食べさせてやる!」
シュリルは笑みを浮かべてリプイの目の前に立つと、席に座らせて左手で顎あごを掴むと無理やり口を開ける。
「はい、アーン!」
右手でフォークを掴み、大きく掬くったホルモンラーメンを口に放り入れると口を左手で塞ぐ。
口パンパンに詰め込まれたリプイは動揺して手足をばたつかせる。
うっ……美味いぃぃぃぃ!
クネクネ、そしてねっとりとしたホルモンが私の下を絡めとってる・・・・・・。
リプイの脳内では顔がやたらと美化され、王冠を被った特殊個体ギウマニールに顎クイをされて見つめ合っているビジョンが流れていた。
そして、優しい接吻をされるとリプイの目がとろける。
『ズギュュュン』
最初、噛んだ瞬間は何だかガムを噛んでいるような食感だなと思ったんだけど、噛めば噛むほど旨みのあるジュースが出てくる!
堪らずリプイは蓮華を持つと、スープを一口飲む。
「はぁ~ぁ」
幸福に溢れたため息を吐くと、リプイは再び自分の世界へ飛んだ。
更に美化され、ただ豚鼻を付けたイケメンの見た目をしている特殊個体ギウマニールがリプイを優しく
「リプイ。俺の味はどうだい?」
野太くて甘い声で喋る美化特殊個体へ目をトロンとさせると、目を見ながらゆっくりと頷く。
「最高ですぅ♡」
リプイの返事を聞くと、美化特殊個体は安堵の表情を浮かべる。
「良かった・・・・・・。
最初にホルモンは苦手って言ってたから、凄く心配だったんだ」
「ごめんなさい。
私、内臓って聞いたから偏見で警戒しちゃっていたの・・・・・・。
そんな部位、食べる場所じゃ無いって」
少し悲しそうな表情を浮かべる美化特殊個体の頬を優しく撫でる。
「でも、あなたのお陰で変わったわ!
だから、そんな顔しないで」
美化特殊個体は頬にあるリプイの手を優しく握ると、優しく微笑む。
「じゃあ、俺のこと最後まで食べてくれるか?」
「もちろんよ」
お互いを見つめ合うと、二人は熱いキスを交わした。
一心不乱に食べるシュリルとは違い、リプイは味わうように噛み締めて食べている。
「ダーリン・・・・・・」
龍拓は思いもよらないリプイの一言に凝視する。
「えっ?」
視線に気が付くと頬を赤くして、恥ずかしそうにそっぽを向く。
「なぁ、龍拓は食べないのか?」
「ああ。俺はさっき味見で食べたからな」
シュリルは再びどんぶりを空にすると、龍拓を見つめる。
「まだあるか?」
「あるぞ。でも、まだ食うのか?
シュリルのやつは麺も二玉入れてるんだけど」
「ラーメンが旨いからな! これならいくらでも食べられるぞ!」
「そりゃ最高の褒め言葉だ! だけど、鶏がらスープが一杯分しか残ってないからこれが最後だな」
「え! もう無いのか・・・・・・」
シュンとして魔術鍋を物欲しそうに見つめる。
「また近いうちに作ってやるさ。
材料はまだあるからな」
「本当か! 頼んだぞ!」
「おう」
どんぶりを受け取ると、龍拓はスープを温め直した。
To Be Continued...
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