『ギウマニールの豚骨ラーメン』5

 シュリルたちは、次に食材を買うため市場へ戻っていた。

すると、目の前に古い古民家のような建物が見え、果物や魚などの食材が外に並べられている。

「ここの店の食材は旨いぞ! それに良く値段をまけてくれるから最高なんだ!」

店を前にしてシュリルのテンションが上がっていく。

「ヤ―ハン! 居るか?」

シュリルが名前を呼ぶと、不機嫌そうに筋肉質だが白髪で年を取った店主のヤ―ハンが出て来る。

「相変わらず、お前さんは声がうるさいのぉ!

そんなデカい声を出さんでも聞こえるわ。

リプイちゃん!」

ヤ―ハンはリプイを見ると不機嫌な顔から一変し、優しく微笑むとリプイの手を握る。

「本当にありがとう!

貰った張り薬であっという間に腰の痛みが無くなったぞ!」

「良かった! ちゃんと効いたみたいで安心したわ」

すると、直ぐにヤ―ハンは龍拓に気付くと凝視する。

「お前さんは誰かのう?

初めて見る顔だが……。

もしや、リプイちゃんの彼氏!」

「違うわよ! 今日から一緒のパーティーになった龍拓。

料理人なの」

「初めまして。龍拓です」

ヤ―ハンは龍拓に向かって目を細める。

「ワシのアイドル、リプイちゃんに手を出すなよ」

「出しませんよ!」

ヤ―ハンと龍拓の会話を聞き、リプイは顔を赤らめて俯く。

「まったく、もう」

「ほんで、今日は何を買いに来たんだ?」

「えっと、麺を作るのに必要な材料を探しているんですが」

「麺か!

じゃあこっちだ」

ヤ―ハンはレジ横にあるコーナーを指さす。

そこには三種類の白い粉が山積みになっていた。

「あんな感じで置かれていると、ヤバい薬みたいだな」

「ヤバい薬?」

リプイとシュリルが聞き返すと、龍拓は顔の前で手を振る。

「ああ、こっちの話だ! 気にしないでくれ」

「麺に必要なのはここにまとめてある。

左のがケッマハザーク。真ん中がケッマフーガ。

そして、最後のがアブッカッツォだ」

龍拓は三種類の粉を凝視する。

「あの、出来れば味見したいんですが……」

すると、ヤ―ハンは驚いて目を見開く。

「この状態で!

んー。本来、商品の味見はやっていないのだが……」

ヤ―ハンがリプイの方を確認すると、リプイはお願いするように手を合わせている。

「しょうがない……。

今回は特別じゃぞ」

そう言うと、ヤ―ハンは店の奥からスプーンを持って来る。

「ありがとうございます!」

ヤ―ハンがスプーンを渡すと、龍拓はケッマハザークを一掬ひとすくいし、手のひらに落とすと味見する。

これは、強力粉だ!

すかさず、同様にケッマフーガを味見すると嬉しそうに微笑む。

薄力粉! じゃあ、最後のヤツは……。

アブッカッツォを味見すると、龍拓は思わずに力強くガッツポーズをした。

「重曹だぁ!」

驚くように三人は龍拓を眺める。

「シュリル! リプイ! これでラーメンが作れるぞ!」

龍拓の一言でシュリルとリプイも笑みを浮かべた。

「ヤ―ハン、この三つを大袋で用意してくれ」

シュリルがそう言うとヤ―ハンはレジ横にあった大きな布袋に詰め始める。

「ほかに必要な商品はあるか?」

「あと、ボーフの卵が欲しいの」

「了解。いくつくらい用意する?

一パック六個入りなんだ」

すると、リプイは困ったように龍拓を見る。

「そうだな……。

煮卵にも使うから、多めに欲しいな。

アイテムボックスの食材はいつまで保つんだっけ?」

「大体、一週間ってところね」

「じゃあ三パックくらいかな……」

すると、シュリルが物欲しそうな表情を龍拓に向ける。

「俺、煮卵好きなんだよなぁ……。

タンパク質を手ごろに摂取できるし」

「じゃあ、五パック?」

二人の会話にリプイが財布を確認する。

「五パックならギリ大丈夫かな」

「ヨシ! ヤ―ハン、五パック頼む!」

シュリルが子供の様な眼で頼むと、ヤ―ハンは袋詰めを手際よく済ませて店の奥にある冷蔵庫へ卵を取りに行く。

「全部で3500ケッセフだな」

ヤ―ハンの会計にリプイは首を傾げる。

「おじさん、計算違うよ。

値札の値段で計算すると4000ケッセフだわ」

「それは、この前貰った薬のお礼だよ」

「本当! 助かるわ♡」

リプイが会計すると、シュリルが商品をアイテムボックスにしまう。

「じゃあ、また来るぜ!」

シュリルたちが店を後にしようとすると、ヤ―ハンが呼び止める。

「龍拓とやら! その恰好だとクエストを受ける際に、役人から目をつけられて色々面倒ごとに巻き込まれるぞ。

早めに着替えるんだ」

「さっき、ミルコにも言われたんだけどそうよね。

次は服屋に向かいましょう」

「さっきも気になったんだが、この格好は何で問題があるんだ?」

すると、慌てたようにリプイが龍拓の耳元でささやく。

「役人に聞かれたときに、異世界から来ましたなんて言えないでしょ!」

龍拓はハッとした表情を浮かべる。


 シュリルたちは近くにある服屋に行くと町民が着ているような服をリプイが選び、龍拓に着せた。

「お会計が4500ケッセフになります」

リプイは会計を済ませると、ため息を吐く。

「あ~あ……。

もうこんなに減っちゃった。また直ぐにクエスト受けないといけない」

すると、シュリルが笑みを浮かべる。

「じゃあ、レベルアップした俺の力を早速試すチャンスだな!」

シュリルの反応にリプイは深いため息を吐いた。


 三人はギルドの方へ戻ると、クエストが書かれた巨大な黒板の様なボードの前に立つ。

「どのクエストを受けようかな?」

『ガガガガガガガガァ!』

すると、新たなクエストがボード上部に自動で書かれ始める。

「おい、マジかよ……」

『ギウマニール討伐クエスト 報酬180000ケッセフ』

シュリルたちの周りに居た者はボードの文字を見て騒めいていた。

「あんなクエスト誰が受けるんだよ」

シュリルはじっとボードの文字を見つめる。

「リプイ、龍拓。アレ受けよう」

「え?」

リプイは思わず聞き返す。

「ギウマニール討伐クエスト行こうぜ!」

「何言ってんのよ、アンタ!」

龍拓はリプイの焦った様子から質問する。

「ギウマニールは、A級指定されているモンスターでグランドセントピードなんかよりも数倍危険なのよ!

一歩間違えたら、簡単に殺されるわ!」

「せっかくレベルアップしたんだし、腕試しをしたいからな!

それに、ギウマニールの肉は脂が乗っていて絶品と聞いた事がある」

「本当か! そりゃ楽しみだ」

シュリルの説明に龍拓は目をキラキラさせる。

「ちょっと二人共、本気なの?」

「勿論、本気さ! 龍拓には旨いラーメン作って欲しいし、A級クラス以上のクエストはアミルたちに村長が直々に依頼しちゃうから俺たちが受けるチャンスは滅多にないぞ!」

「そりゃそうだけど、もしもの事があったら……」

リプイは不安で気付くと深く俯いていた。

「なんかあったらリプイ、お前が居るじゃないか!」

リプイはシュリルの言葉に頬を赤らめる。

「それは……」

「それとも、回復魔法一流のリプイでも治せない怪我でもあるのかな?」

シュリルの煽りにリプイはムキになって顔を上げる。

「そんなの無いわよ!」

「じゃあ決まりだな! クエスト受けて来る!」

「ちょっと!」

リプイは助けを求めようと龍拓を見るも、その時には上を向いて自分の世界に入っていた。

ギウマニールか。一体どんな味なんだろう……。

「クエスト受けてきたぞ!」

あっという間にシュリルはクエスト受注した際に渡される赤い札を持って来る。

「もぉ! 二人共、死んでも私を守りなさいよ!」

クエストを受注した様子を見ていた周囲は三人を嘲笑し始める。

「アイツら、死ぬぜ!」

「これで原始人も見納めか」

シュリルは笑みを浮かべ、龍拓の肩に手を置く。

「旨いラーメン頼むぜ!」

「おう!」

三人は周囲を無視し、ギルドを出て行く。


 日が照り付ける真昼の青々とした空。

シュリルたちはギウマニール討伐のため、町の西側にあるハザーダ平原に来ていた。

「ここら辺だな」

地図を確認しながら歩いていると、目の前に土で作られたドームの様な建物がいくつも現れる。

「アレがテリトリーよね……」

リプイは顔を引きらせると、素早くシュリルの後ろに隠れる。

「ギウマニール……。一体、どんな見た目なんだ」

龍拓とシュリルはワクワクした表情でドームを見つめる。

『ギギギギギギィ……』

ドームが中央から割れると、龍拓は中から出てきた者たちを凝視する。

頭が豚、体は筋骨きんこつ隆々りゅうりゅうの二足歩行の化け物、ギウマニールたちがぞろぞろと出て来る。

その体長は二メートル以上あり、手には木をバットに加工したような武器を持っている。

≪ブギィ……≫

低い豚の様な声を先頭のギウマニールが上げると、いきなり物凄いスピードで龍拓に向かって突進してくる。

「危ない! レッツォォォォ!」

目の前に迫っていたギウマニールの腹部にシュリルはラリアットを当てる。

『ボォゴォォォォ!』

物凄い打撃音と共に勢い良くギウマニールはドームの方へ吹っ飛ばされる。

それと同時に、唖然として口を開けていた龍拓の口にギウマニールの飛び散った汗が口に入った。

「コイツら……。

良い出汁出てんじゃねぇか!」


To Be Continued...


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