愚弟ちゃんについて&さっき愚弟ちゃんが言ってくれたこと

 愚弟ちゃんとは。

 大体三十才くらい、多分合わせて三百万以上借金がある。

 元パチンカス。鬱で休職した経験あり。自殺未遂たぶん二回。

 今は何とか持ち直し、営業職をやりながらこつこつ借金を返している。

 中々ヘビーな人生の男である。


 多額の借金があるが、その一部を私が立て替えてやった関係で、週一で連絡を取り合っている。(要するに借金の取り立てだ)


 お金の管理がめちゃくちゃ下手くそだったのを半年かけて教育し、毎月足りない分カードを切っていたのを、手取りの現金だけで返済〜生活できるように矯正した。


 家計簿を簡単に付けさせて、脱毛だの育毛だのを解約させ(同時にやって意味あるもんなのか?)動画系のサブスクを一つだけ残して解約。他色々。

 せめて二十代半ばくらいでこういう教育が出来れば良かったと思うが、後の祭りだ。

 とりあえず、今は借金を減らしながら生活出来ている。

 3年もしたらほぼほぼフラットな状態にできる計画だ。良しとしよう。


 渋谷区の一等地の社宅暮しだったが、会社を辞めたので埼玉のちょっと静かな住宅地に引っ越させた。

 無論生活費が雲泥の差だからだ。

 渋谷では近所にあるスーパーに入ってみても、品質は悪いわ値段は高いわ中々のもんだった。無論、土地代が高いから仕方ない部分である。

 百貨店系の高級なスーパーに行けば品質は上がるが、値段も跳ね上がる。

 庶民が暮らすにはやはり厳しい土地だ。


 埼玉の家は自分で探させたが、夫が好意で会社のトラックを借りてくれたので、引越しも夫私愚弟ちゃんの三人でやった。

 引っ越した先は遊ぶ所は無いものの、生活には全然困らない感じの場所で、愚弟ちゃんは趣味のランニングが楽しくて仕方ない様だ。曰く、

「空気が美味しい!都会の空気はほんと合わなかった」

 とのこと。


 すまん渋谷の人。渋谷も便利でオシャレで素敵な街ですよね(ゴマをすっておく)


 さて。

 愚弟ちゃんは慢性的に鬱っぽくなりやすい人で、アグレッシブな性格が災いして自殺未遂の傷跡が色濃く残っている。未遂で済んで本当に良かった。


 そして、去年どうしょうもなくなった時に連絡をくれて本当に良かった。

 愚弟ちゃんは愚弟故に可愛い。

 そして、人間知恵を出し合えば何とかなることも多いもんだ。


 そんな感じで、愚弟ちゃんと私は仲良しで、愚弟ちゃんは夫以外で唯一、私の鬱病と先日の手術の件を知っている家族だ。


 私の母親は悪い人では無いのだが、プライバシーという概念が分からない人なので、娘の病気ともなれば親戚中に言いふらすのが目に見えている。故に、言っていない。言っていないのに何処からか聞きつけて薄っすら知っているのが怖い。


 そんな愚弟ちゃんからさっき電話が来た。

「定期券を買いたいので、母さんの家族カードを借りて良いですか?母さんには言ってあります」

 とのこと。ちなみに信用情報が真っ黒なので、愚弟ちゃんはカードを作れない。なのでお母さんに泣きついて、家族カードを借りている。

「お母さんに言ってあるなら良いと思うよ。ちゃんと来月送金しなさいね」

「うん、ていうか姉貴声ヤバくね!?」

 そうなのである。

 今声がガッサガサなのだ。

 先月あるライブを見に行ってとても楽しかったんだが、見事に風邪を貰ってきてしまった。

 二十七日から発熱、酷い時は三十九度を超えた。六月二日現在かなり良くなったのだが、夕方になると微熱が出てしまう。結構長引く嫌な感じの風邪だが、幸い休職中なので、安静にして治している。

「風邪ひいて大分良くなったん。風邪だし鬱だし嫌になっちゃうよ」

 出ない声で弱音を吐いてみる。

 愚弟ちゃんはそこで、すかさず言った。


「鬱病になる人は真面目な人だ。テキトーに仕事してる奴は絶対鬱になんかならん」


 妙にはっきりそう言った。

「そう?ありがとう?」

 とちょっと面食らいながら言うと、愚弟ちゃんは続けた。

「姉貴が昔、俺にそう言ってくれた」

 どうやらかつての私が愚弟ちゃんに言ったらしい。全然覚えてない。

 私はちょっと恥ずかしくなって、茶化して言った。

「え〜咄嗟にそれ言う私めっちゃ良い奴じゃない?」

「姉貴は良い奴!」

「やったー!」

 そんな話をして、適当に切り上げて電話を切った。


 私には語彙力が無いので、今の気持ちを文章に出来ないでいる。

 ただ、愚弟ちゃんが私の言葉をずっと覚えていたのが嬉しかったし、それを私に返してくれたのも嬉しかった。


 愚弟ちゃん、どうもありがとう。

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